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#2012 「日本沈没」の可能性

2021年11月09日 | 日記・エッセイ・コラム


 1973年にベストセラーとなり映画化もされた小松左京氏の原作を現代版にリメイクし、主演俳優の小栗旬の人気もあって視聴率も好調とされるTBSドラマ『日本沈没-希望のひと』。11月7日の第4話では、いよいよ首都東京を大地震が襲い、大規模な関東沈没が始まりました。

 原作では、日本海溝近傍の地下マントル流の急速な異変によって日本列島全体が分断され沈没していくとされていましたが、本作の設定では、そこに地球温暖化による海水面の上昇に伴う質量が加わり、地殻にひずみが生じるとされているようです。

 いずれにしても、小松左京氏の原作により、1970年代の日本人の多くが「プレート・テクトニクス」の存在を知ることとなりました。地震列島と呼ばれる日本はいくつかのプレートの境目に位置しており、大陸の移動をもたらすその動きが多くの地震を引き起こしている。その意味するところは、火山活動や地震への備えから日本人は宿命的に逃れられないということでしょう。

 さて、「日本沈没」自体は壮大なフィクションだとしても、(こうした現実を顧みれば)日本における大災害の発生にそれなりのリアリティがあるのは事実です。それでは日本列島は、本当に「沈没」したりする可能性があるのか。

 11月4日のYahoo newsに、神戸大学海洋底探査センター客員教授で地質学者の巽好幸(たつみ・よしゆき)氏が、「「日本沈没」は決してフィクションじゃない!? 田所博士に教えたい日本列島のヒミツ」と題する論考を寄せているので、ここで紹介しておきたいと思います。

 巽氏によれば、日本沈没という衝撃的な結末の真偽を確かめるには、少し地球のことを復習しておく必要があるということです。

 高校生の頃に習うように、まず、地球の表面は固い「地殻」で覆われている。そしてその下、地下2900kmまでを占める「マントル」は、固体の岩石からなるものだと氏は説明しています。

 ただ、固体とは言うものの、マントルはゆっくりと流れ(対流し)ている。つまり地球時間で見れば、固体のマントルはまるで液体のような振る舞いもするのだということです。

 これらのことを頭において、日本列島の地下を眺めれば、日本列島の地殻は、概ね30kmほどの厚さの卵の殻のようなもの。そしてこの地殻はマントルに比べて軽い岩石からなる層だと氏はしています。

 氷が水に浮かぶのと同じように、地殻がマントルの上に浮かんでいる状態をイメージしてほしい。しかもその重さ(密度)の違いが大きいために、地殻は安定して浮き続けているということです。

 このような状況で、地殻をマントル内へ沈める、すなわち日本沈没が起きることは非常に困難だというのが(随分と早い結論ですが)日本沈没の可能性に関する巽氏の見解です。

 ただ、海溝から日本列島の下へと沈み込む重いプレートが日本列島の地殻を引きずり込めば、日本沈没もあり得るかもしれない。しかし日本列島の地殻には弾性があって、ある程度引きずり込まれると跳ね返って海溝型「巨大地震」を引き起こすことが知られていて、このメカニズムでは日本沈没は起こらないというのが氏の解説するところです。

 一方、(近年広く問題視されるようになっているように)全地球的な温暖化によって極域の氷床が融け海面が上昇するのは、人類が現実の世界で直面している深刻な問題だと氏は指摘しています。

 今回のドラマの設定でも、この「海面上昇」が日本沈没を起こす要因のひとつとされている。実際、海水の量が増えて海が広がると、海水の重さで地殻は沈む可能性はないわけではないというのが氏の認識です。

 しかしその一方で、今世紀末までに3m程度と予想されている海面上昇では、日本沈没を引き起こすほどの影響は与えないと氏は言います。むしろ、海面が3m上昇することで東京周辺の広い範囲が水没することの方がずっと深刻な影響があるだろうというのが、この論考で氏の懸念するところです。

 無論この場合、日本が「沈没する」というのは不適切で、「水没する」と呼んだ方が適切だろうと氏はこの論考に綴っています。例えば、東京都江戸川区は区域の7割以上が「海抜ゼロメートル」よりも低い標高に位置しています。そう考えれば、日本沈没よりも東京水没のほうが、さらにリアリティのある現実的なリスクだということでしょう。

 さて、この論考における巽氏の指摘は、私たちをまさに(フィクションの世界から)現実世界に引き戻してくれると言っても過言ではありません。

 国際環境NGO「グリーンピース東アジア」は今年6月、温暖化による海面上昇が2030年のアジアにもたらす経済的影響を予測した報告書『2030年のアジア7都市における極端な海面上昇の経済的影響予測』を公表しました。

 それによれば、2030年までにアジアの沿岸部に位置する7都市で、極端な海面上昇と沿岸部の浸水・冠水により推定7,240億米ドルの経済的影響が生じる可能性がある。問題の東京でも、極端な海面上昇による浸水・冠水などの危険により680億米ドル(約7.5兆円)のGDPが失われるとされています。

 東京の平均海抜は40メートルだが、東京湾の埋立地や沿岸部、その少し内陸側は既に海面上昇と高潮浸水の脅威のもとにある。今後の海水面の上昇により、東部の低地帯に位置する江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は大きな災害リスクにさらされるということです。

 そういえば、2019年の大ヒット映画『天気の子』(監督・新海誠)では、何年も雨が降り続き、多くの街が水没した2021年の東京の姿が描かれています。異常気象により雨が降り続いても、(アニメのように)東京の街が実際に水没することはないとは思いますが、2019年の台風19号では、東日本を中心に100人を超す死者・行方不明者を出す大きな被害も実際に出ているところです。

 世界的に見れば、今後、地球の温暖化が進み急速な海面上昇が続いた場合、水没が予想される大都市は東京ばかりではありません。

 おりしも英国のグラスゴーで11月12日まで開催されているCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、世界各国の首脳が集まり、世界の気温上昇を1.5度に抑えるための化石燃料からのエネルギーの転換が議論されているところです。

 地震や沈没は今の科学技術では避けることができないけれど、水没だったら努力すれば何とかなるしまだ間に合う可能性がある。私たちは次世代のためにも、今、こうしたリスクをヘッジするための努力を続ける必要があると改めて感じる所以です。


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