
厚生労働省の調査(人口動態統計(2010))によれば、日本人の初婚年齢の平均値は男性が30.5歳、女性が女28.8歳となっています。一方、これを東京23区に限って見れば男性31.8歳、女性29.9歳と、大都会東京に暮らす男女は、全国平均よりもかなり結婚が遅いことがわかります。
また、23区に暮らす25~34歳の男性の未婚率は、1985年の58%から2010年には67%へと、25年間で9ポイント増加しています。しかし、女性の場合はさらに変化が大きく、同じ期間に35%から57%へと、適齢期を未婚で過ごす女性が(男性の約2倍の)22ポイントも増えていることがわかります。
総合経済サイトの「DIAMOND ON LINE」(2012.9.11)では、結婚をめぐるこうした東京23区特有の傾向について、一般社団法人東京23区研究所長の小口達也氏が、「23区別に見る男女それぞれの結婚事情」と題し様々な角度からデータ分析を行っています。
23区に暮らす女性の「未婚」の状況をさらに詳しく見ると、25~29歳で71%、30~34歳で45%という状況です。35~39歳になって未婚率はようやく3分の1の33%まで減り、40~44歳で約4分の1の27%程度に落ち着くということです。
つまり、現在の都会の女性にとっては30歳代前半までは未婚でいるのがごく当たり前。アラフォー世代になっても、3~4人に1人が結婚していない状況にあると小口氏は説明しています。
23区内の未婚者の実数を見ても、1985年から2010年までの25年間で男性は0.9%の増加を見せていますが、その間に女性の未婚者は14.6%も増加しており、男性と比べて飛び抜けて増加率が高いことがわかります。
詳細は省きますが、これらの統計データを総合的に見ると、東京(23区)の女性は「晩婚化」しているのではなく、実際は「非婚化」していることがわかる。つまり、都会に暮らす女性たちが「結婚しなくなっている」ことは明らかだと、小西氏は自身の見解を述べています。
また、こうした状況を地域別にみると、中でも25~44歳の女性の未婚率が高いのが「渋谷区」だということです。次いで新宿区、3位中野区、4位杉並区、5位豊島区といずれも「若者の街」と呼ばれるダイナミズムを持った区が続いていることから、華やかな場所で暮らす(結婚適齢期と呼ばれる世代の)女性たちが、様々な意味で「結婚」とは縁遠い生活を送っている姿がイメージされるところです。
一方、そうした中で興味深いのは、女性1位の渋谷区が実は男性では4位にランク・イン(男性の1位は新宿区)しているに過ぎないことだと小口氏は指摘しています。
実際、渋谷区の25~44歳の女性の未婚率は実に57%に達しています。23区で最も低い江戸川区(31%)の1.8倍を超えていることからもわかるように、渋谷区はまさに結婚しない女性の「聖地」と呼ぶにふさわしいと場所だというのが、データを踏まえた小口氏の認識です。
2010年6月に行われた国立社会保障・人口問題研究所の調査(「出生動向基本調査」(結婚と出産に関する全国調査))によると、25~34歳の独身者が挙げる結婚しない理由の1位は、男女ともに「適当な相手にめぐり会わないから」。また女性の2位は「自由や気軽さを失いたくないから」だということです。
そういう観点に立てば、確かに渋谷区は、(渋谷、原宿、代官山など)衣料品店、美容院、フィットネスクラブなどのファッション系の店舗が、おそらく国内では最も高密度に集積している場所ということになります。そして、こうした街では確かに女性にとって結婚生活以上に魅力のある、自由で、気軽で、充実した暮らしが満たされるのではないかというのが、現状に対する小口氏の見解です。
さて、小口氏によれば、23区における男性のシングル事情にも、これまであまり取り上げられることのなかったひとつの特徴が見られるということです。
データによれば、23区全体を見る限り、親と同居する25~44歳の未婚者の男・女の割合は、男性39%に対し女性41%でほとんど差がありません。しかし、実際のところその比率は、区によって大きく異なっていると小口氏は指摘しています。
親と同居する25~44歳の未婚者が多いのは足立区、葛飾区、江戸川区の東部3区ですが、そのいずれにおいても、親と同居する25~44歳の未婚者の割合は女性が男性を大きく上回っているということです。しかし、(小口氏によれば)特に目黒区、杉並区、文京区、世田谷区ではこの割合が大きく逆転しており、親と同居している独身男性の割合が他の地域よりも有意に高いことがうかがわれるとしています。
山の手を代表する高級住宅街であり、総じて所得水準が高く主婦の就業率が低いこうした区域では、子どもは親の愛情を目いっぱい受けいささか甘やかされて育ってきているはず。掃除も洗濯も食事の準備も(そして生活費も)親任せ。そんな家庭の息子たちが親との同居生活に甘んじているのではないかと、小口氏はこのデータを見ています。
さて、専門家の目にはこのように、一見無味乾燥な統計データから、都心に暮らす若者たちの姿が様々に透けて見えるようです。
都市圏への人口の集中が進むことが、地方の人口減少と活力の衰退をもたらす原因として現在広く注目されていますが、これまでの状況を見ると、中でも1990年以降における進学と就労に伴う若い世代の(特に若い女性の)都心への流入の影響が特に顕著であるということです。(みずほ総合研究所2014.4.21)
また、昨今の人口減少問題に対しては、こうした形で若者が流入する三大都市圏における「合計特出生率」の低さが、その大きな原因として指摘されています。そして、彼らが結婚して子供を産み育てることができるよう、子育て環境の整備などが行政当局に対して強く期待されているところです。
しかし、そうした対策を進めたとしても、このようなデータを見る限り、少なくとも23区などの都市部においては、どうやらものごとはそう単純には進まないかもしれません。
都会に暮らす若い男女の姿をこうして細かく分析していくと、都市部における少子化の実態もおぼろげに姿を表します。少なくとも、結婚しない若者の側にもそれぞれにいろいろな事情がある(ありそうだ)ということを、この分析から改めて感じた次第です。
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