はと@杭州便り

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中国の高校留学ブーム ー多様化する留学の背景

2014-12-03 20:12:01 | その他
少し前に翻訳した記事ですが、興味深い記事だったのでアップします。

私の周囲でも子供を高校から留学させる人が増えていますが、
一昔前と違い、劣等生ではなく優等生が増えていること、
富裕層や官僚だけでなく、中産階級であるサラリーマン家庭でも子供を留学させる人が増えていること、
その背景には将来の大学進学のためだけでなく、中国の学校教育そのものに対する不満があることなどが
わかります。

長い記事ですが、ご興味のある方はどうぞ…。

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アメリカの高校における外国人留学生数で、中国人は既に一位になっている。2013年、中国人のアメリカ高校留学に必要なF1ビザの申請数は8年前の50倍、2年前の5倍に増えた。留学の低年齢化が急速に進む背景には、一体何があるのだろうか?

かつては富裕層、官僚、知識エリート層に限られていた高校留学生の家庭は、今は普通のサラリーマン家庭まで広がりつつある。中国の次世代を担う子供達の教育は、どんどん外国へ流れてゆくのだろうか?

留学する「優等生」

もしイギリスに留学しなければ、陳小天君は今頃南京の有名高校で、テストの山に追われていたはずだ。友達は彼の留学に驚いていた。南京一の中学を卒業し、一年の時にはイギリスに短期留学もしている陳君は、彼と同じ15歳の年齢の子達の中では恵まれた条件が揃っていた。

子供たちの留学ブームの主流は、かつてのように成績が悪くて中国では良い学校に進学できない「劣等生」ではなく、今や陳君のような優等生である。アメリカ、カリフォルニア州の私立高校3年生宋雨晨さんも、上海浦東新区で二番目の中学を卒業している。彼女の中学では45人のクラスメートのうち、海外の高校に留学した人は半数に上ると言う。

留学できるかどうかは、学力だけでなく高い経済力も必要になる。海外の高校は一般的に奨学金がなく、中国からの学生は寄宿制の私立学校を選ぶことが多いため、学費と生活費に約5万ドルかかる。専門家の試算では、アメリカの高校に4年通えば120万元、その後大学に進学すれば少なくとも150~200万元が必要になると言う。

しかし子供を留学させる家庭は必ずしも大富豪というわけではない。前述の宋さんの父親は大手投資会社の社長で、留学費用は大した問題ではないが、陳君の両親はそれぞれ月収1万元余りの家庭である。しかし息子の教育のために、生まれた時からコツコツと貯蓄を積み重ねてきたのだ。

陳君の父親は、自分達より収入の少ないサラリーマンの友達も、次々と子供を海外に留学させていると言う。彼らは何故こんなことができるのか?一つは両親が70年代以降の生まれで、子供は皆一人っ子だということ。両親の貯蓄は惜しみなく一人の子供に使うことができるのだ。もう一つは学費と生活費を合わせて40万元という留学費用は、中国国内で良い学校に通わせる場合でもそう変わらないという事実だ(越境入学費や、良い学校の学区に不動産を購入する場合)。しかも子供を留学に行かせれば、両親は安心して仕事に集中することができることを考えると、決して高い金額ではない。

専門家は中国の貧富の格差がますます拡大していく事を懸念している。「子供を高校から海外留学に行かせる家庭は経済的な条件が恵まれているだけでなく、親も高学歴のことが多いので、子供は色々な面で優秀なのです。」

しかし子供を良い学校へ進学させようとすれば、金だけでは足りない。高校の中には、ハーバードより入学が難しい高校もあり、中国の子供達は全く異なる体制のなかで激しい競争にさらされている。専門家は、全米ランキング20~30位以内の寄宿制高校のうち、毎年中国からの留学生を受け入れているのは6校以内、全部合わせても100人余りの留学生枠に、毎年1万人以上が出願していると言う。

しかし、一方では海外の学校側でも優秀な中国人学生の争奪が始まっている。アメリカでは、以前は受け入れが許されなかった公立学校での留学生受け入れを開始した。公立学校の不振を背景に、多くの国会議員が公立学校の留学生受け入れに賛成したと言う。

多様化する留学の背景

「アメリカの名門大学へ進学しやすくなります」これはアメリカ高校留学斡旋会社の広告である。アメリカの大学への留学は10年前からとっくに白熱化しているため、将来の名門大学進学に備えて高校から留学した方がいい、というのが大きな動機になっている。

しかし近年、留学の原因はますます多様化してきている。上述の陳君の父親が息子の留学を決意したのは、ある偶然の出来事がきっかけだった。中3の一学期の化学のテストで、息子が初めてひどい点数を取ってきたのを見て、父親は驚いた。息子に聞くと、何故だかわからないが、授業の内容が突然わからなくなったと言う。母親が学校の保護者会に行って、その謎がようやく解けた。

先生の話では、他のクラスメートは皆先生の開く塾に行っていて、陳君だけが行っていなかった。基礎の部分は全部塾で教えたので、授業では教えなかったと言う。
陳君の父親は、今思えばこれが留学を決意する一つの引き金であり、しかし最も根本的な原因だったと言う。息子に受験教育のベルトコンベアーで作られるつまらない部品のようになってほしくない。

「将来何をするか関係なく、どの教科も勉強しなければいけないなんて、人生の無駄だと思わないか?」これが、陳君の父親が中国の学校に対して最も絶望していることである。

子供の高校留学を希望する親達を取材していて気付いたのは、親たちが子供の留学を決意した原因の多くが陳君の父親と同じく、中国の高校では創造力を育てるような教育は望めず、試験を解く機械のような反復練習に終始していると考えていることだった。

もう一つの原因は試験とは関係なく、子供に平凡な人生を送らせたくない、という親の願望である。王思カンさんはニュージーランドの高校2年生で、北京海淀区の有名な中学を卒業している。国営企業の高級管理職である母親は何不自由ない生活を送っているが、娘の将来を考えた時、いつもある種の限界を感じていた。もし娘がずっと国内にいれば、将来は簡単に予測できる。有名高校を卒業して有名大学に進み、結婚出産して、孫ができれば孫の世話をして…。王さんの母親は、娘にそんな自分と同じような人生を送ってほしくないと言う。

前述の宋さんも、以前は留学なんて考えたこともなかった。中3の校内模擬試験で一位ではなかったが二位に入り、これまでの慣例では上海トップ4位までの高校に推薦入学できるはずだった。ところが推薦入学の合格発表の時、彼女の名前はなかったのだ。先生に理由を聞くと、「あなたは中2の時に入院して体育の授業を受けなかったから、体育の成績がないから推薦できなかった。」と言う。しかし宋さんの父親がこっそり聞いた話では、推薦入学の前に先生に「付け届け」をしなかったからだと言う。

宋さんの父親は以前、体制には抵抗できると思っていた。しかしそのうち、体制には抵抗できても、生活そのものには抵抗できないと考えるようになったと言う。「大気汚染、メラミン中毒、治安の悪化など、大人は何とか我慢するしかないにしても、子供が我慢しなければいけないいわれはないでしょう。」宋さんの父親はかつて外国への移民を考えたこともあったが、自分は中国での仕事や友人を捨てることは今はできない。それなら、先に子供だけでも外国に行かせようと思ったそうだ。

「僕と彼らは世界が違うんだ」

宋さんが一年目に帰国したとき、父親はもう少しで誰かわからないところだった。娘はまるで黒人の様に真っ黒に日焼けしていた。父親は「成績が悪くて、外にでも立たされていたのか」と聞くと、娘は「テニスをしてるの」と言った。

小さい頃から運動の嫌いだった娘が、ソフトボール、水泳、フェンシング、乗馬などまるで運動の達人の様に何でもこなしていると聞いて、父親は更にびっくりした。ソフトボールは学校のソフトボールクラブの補欠だそうだが、毎回試合がある度にコーチは娘に必ず一度バッターボックスに立つ機会を与えてくれて、打てなくても「すごくいい振りだった!頑張れ!」と娘を励ましてくれると言う。

「誰かがほめてくれることが達成感につながっている。達成感があればこそ、興味も湧いてくる。」考えてみれば娘が小さい頃からピアノなど色々な習い事をさせてきたが、それらは皆親が押し付けたものだった。

多くの時間をスポーツに費やせることは、アメリカの高校制度のお蔭でもある。課外スポーツも単位として認められ、学業に支障をきたすこともない。一学期の間に物理が嫌いなら化学、化学が嫌いなら料理という具合に、10以上の科目から5つを自由に選ぶことができる。

どのようにアメリカの文化にとけこむか、中国の若い留学生たちにとっては大きな壁でもある。現在ニューヨークのあるコンサルタント会社で働く呉さんは、2007年にアメリカの高校に留学に来た。来たばかりの頃は、どうやってアメリカの文化にとけこむかが最大の悩みだったと言う。留学生たちは固まって暮らしていて、アメリカ本土の学生たちと積極的に交流しようとする人は少ない。半年後、アメリカ社会はオープンであることに気付き、だんだんと自分から溶け込もうと努力するようになった。

李さんは寮ではなくホームステイを選んだ。アメリカの家庭で子供達と一緒に暮らし、白人や黒人の友達を作った。夏休みにはアメリカ人の友達を中国に招待した。李さんは中3でアメリカに留学し、今年高校2年になる。背が低いことがコンプレックスで、以前は自分に自信がなかったが、アメリカに行ってから学校のサッカーチームに入り、チームの勝利にも貢献している。

今年の夏休み、帰国した李さんは中学のクラスメート達の集まりに参加した。家族が「クラスメート達と話してどうだった?」と聞くと、彼は「僕と彼らは世界が違うんだ。」と言った。「彼らは成績ばかり気にしてるけど、僕の興味のあるのは自分が将来何をしたいか、学生会の会長をどうやって選ぶべきか、パーティーをどう演出するか、という事なんだ。」

アメリカに留学して2年の息子を持つ朱さんが、留学について思うことは「アメリカでは学校で教えられていることと社会の実践は一致しているが、中国では学校教育で教えられていることと社会の実践がかけ離れている」ことだと言う。朱さんは「アメリカの教育体系では一貫して道徳、修養と主流価値観が重視されているが、中国の思想政治教育と違って子供達はこうした思想教育をとても歓迎して受け入れている。」

「中国では教室で交通ルールを守りなさい、お年寄りを敬い子供を愛しなさい、信用を大切にしなさい、と教えられても、一歩校門を出ればそうできない。社会では犯罪さえ犯さなければ何をしても良い、人を騙したから何だと言うのだ、という風潮が蔓延している。」朱さんは中国では教えられることと社会実践の落差が激しいが、アメリカでは学校で信用を大切にしなさいと教えられ、社会でもルールや信用を守らない人はそれなりの代償を払わなければならないと考えている。

誰もが生まれながらに社会的責任感を持ち、社会の大多数の人の利益を優先することを知っている訳ではない。しかしアメリカでは教育システムが社会実践と緊密に結びついて道徳を教えている。「中国の教育システムでは、子供達は夏休みも塾に通い、問題練習を繰り返し、問題は上手に解けるようになるだろう。でも家事もできず親を敬うことも知らない子供達に、国を愛せ、社会的責任感を持てと言うのは無理だ。」

前述の王さんは2年後、高校を卒業したらニュージーランドで一番いい大学、オークランド大学に進学したいと思っている。ニュージーランドでの生活が長くなればなるほど、北京に帰ってもここは何もない、コンクリートの街としか思えない。その先の未来については、グリーンカードを取得してから考えようと思っている。

金持ちの優等生たちが中国を去っても、決してその分貧しい子供達に機会が増えるわけではない。陳君の学籍はまだ中国の学校にあって、今は休学扱いになっている。もしイギリスに馴染めなかった時のことを考えてのことだ。「中国のシステムから出るのは簡単だけど、戻るのは難しいからね。」陳君の父親はそう話している。


出典:「什麼原因逼迫中国精英階層紛紛孩子送出国」
http://tieba.baidu.com/p/3386442412

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4 コメント

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タイムリーな話題ですね (mwn)
2014-12-04 13:03:00
面白く拝見しました。本当に海外留学が当たり前になっていますよね。夫の友人の子供達でも、中国の大学に行く子はほとんどいません。逆に留学するのが普通すぎて、誰かが中国の大学に行ったと言う話を聞くと「えっ、どうして!?」と思ってしまうくらい。今後人材流出はますます進むんでしょうね。でも中国の“高校”には行かせたくないけれど、こちらは留学を目標に据えた学校が結構あるので、内向き加減の日本に比べて良いところかも・・・。
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Unknown (はとぽっぽ)
2014-12-04 16:24:23
>mwnさま

中国人はもう子供が生まれた時から、留学が当然の様に選択肢に入っている感じですね。先日幼稚園で、学区内公立小学校の説明会があったので行ってみたんですが、公立小学校の先生まで「皆さんいずれお子さんを留学、とか考えてますよね~」と言ったのにのけぞりました。

そう考えると確かに日本よりはるかに外向きと言えるかも知れないですが、中国の場合エリート目指して積極的に海外、と言うより、国内の教育と就職に失望しまくってもう海外しか選択肢がない背水の陣、というようにも見えます。国内の大学出ても平均初任給が2000元台では、希望が持てないです。それに大学を卒業して就職したいと思えるような中国の国内企業が少ないのも、外向きにならざるを得ない原因だと思います。

しかし高校留学は子供の意志と言うより親の意志が強いので、一家の財産をつぎ込んで、本当にその子が留学に向いているかどうか、中国と全く異なる文化圏である欧米で本土の学生相手に競争し、就職できるかどうか、というのは大きな賭けでもあると思います。

下手をすると欧米にも馴染めず、馴染めても就職がなく(欧米圏では本土の学生すら就職難)、行先が無くて中国に帰っても中国にも馴染めず、馴染めても就職がなく…という悪循環になりかねません。

日本は内向きかも知れないですが、本来海外でしかできない勉強や研究をしたいという人は中国でも多くないはず。本当は国内の大学でも学びたいことが学べて、働きたいと思える会社があってそこそこの条件で就職できるのが、一番幸せな気もします。
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興味深い記事の紹介をありがとうございます (チンタオ)
2014-12-06 21:10:33

中国に住んでいるくせに、ぜんぜん語学ができないので、とても感謝します。

わが子は、小学生ですが、同級生が、1年、留学して帰ってきました。。。

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Unknown (はとぽっぽ)
2014-12-08 13:40:53
>チンタオさま

小学生で一年海外留学ですか…すごいですね!
娘の幼稚園のお友達の中にも、英語を習いに行っている人多いです。

英語どころかまだ中国語だって読み書きできないのに、と思うんですが、中国の小学校は3年生から英語があることと(1年から、という学校もあるようです)、やはり将来海外へ留学させるつもりがあるからかも知れません。

今大学で日本語を教えていますが、円安もあって日本留学も人気です。私の教えている大学では、在学中にほとんどの学生が交換留学で半年、または一年日本の大学に行っています。学費減免など多少は優遇措置があるとは言え、日本の私立大学に一年留学するのは生活費も含めてかなりの出費だと思うんですが、学生に聞くと、欧米の大学に比べたらこれでも安上がりで、親も行かせてくれるんだそうです。

杭州近辺の大学では大学生が親からもらっているお小遣いが月平均1400元なんだとか。今の中国の大学生、下手すれば日本の大学生より余程金持ちかも…と思います。
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