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母へ捧げる僕たちのアリア

2024-09-26 18:00:00 | 映画




南仏の海辺の街。
3人の兄と母親の介護をしながら逞しく成長していく少年のひと夏の経験を描いた。
出会いはオペラ。
少年は兄たちの理解を得て新たな世界に踏み出していく。彼にとっては生涯忘れることのない夏になるだろう。
 
いい作品に出会えると希望がもてとても嬉しい気分になる。
繰り返し観たいと思わせる作品だ。

邦題にあるアリアはあくまで素材である。ストーリーはシンプルだがいろんなものが詰まっている。監督自身の体験も反映されているのだろか。移民が多く暮らす地域社会、貧困問題、移民の生活実態、矯正教育などをリアリティもって表現している。



四兄弟のキャラクターの設定が見事だ。
プロサッカー選手を目指したが挫折したしっかり者の長男のアベル。お調子者で筋肉を鍛えている優しい次男のムー。警察にマークされている問題児の三男エディ。そして音楽好きで素直な四男のヌール。
存在感ある四人、移民のライフスタイルを各々シンボリックに表現したのか?この四兄弟の各々の個性と関係のバランスが作品を豊かにしている。  

夏休みに矯正教育を受けさせられるヌールはペンキ塗りを担当。
作業中、ある教室からパヴァロッティの歌声「誰も寝てはならぬ」が聞こえてくる。脚立に上り教室の上窓から覗く。オペラ教室だ。

講師のサラに歌えと言われヌールは1曲だけ歌えると素直に答え「人知れぬ涙」を歌う。母が大好きな曲なのだ。
ヌールは寝たきりの母のためオペラを流すのが日課。自ら歌うこともある。



教室への参加を勧められヌールはサラから椿姫の楽譜を渡される。譜なんか読めなくてもいい、パヴァロッティも読めなかった、あとから勉強すれば良い。とサラに勇気づけられる。

反発しながらももともと歌の好きなヌールはオペラ教室に通うことになる。
柔道教室に行く同級生に冷やかされるシーンがある。フランスはやっぱり柔道は人気だ。

しかしヌールは厳しい長兄アベルにピザ配達のバイトを決められ、オペラ教室どころではなくなる。

教室に姿を見せなくなったヌールを案じて、
サラは移民が多く住む公営住宅を訪ねる。

「声は聞こえるらしいよ」とヌール。
昏睡状態のヌールの母親にサラは自己紹介をして語りかける。 
「ヌールは素質があるから、どうなるか分からないけど、いいものを持っているから続けてほしい。
今、彼には歌がある。一生ものですよ、物事を違う視点で見られし喜びやエネルギーを得られます。お邪魔したのはそれを伝えるため。
あなたにも」
サラの真摯な態度と台詞は感動的だ。

エディの家宅捜査でピアノを警棒で壊す警察にサラは身体を張って抗議、警察に連行される。サラの愛情と真心に胸を打つ。

兄弟たちもヌールの歌好きを理解し始める。威圧的なアベルはサラに頼まれたコンサートチケットをちゃんとヌールに渡し会場迄の送迎もする。

初めてのコンサートホールでヌールは感激。立ち上がって拍手。ちょっと涙ぐむ。

終了後のパーティでのサラとヌール。
「どうだった?」
「よかったよ」
「泣いてるの?」
「エアコンのせい」
同僚に「息子さん?」尋ねられるサラ。
「似てます?」
「少しね、面影がある」
笑って否定しないサラ。

役者がいいし台詞に無駄がなく素晴らしい。

ヌールの歌はサラの指導で上手くなっていく。彼のアップ、表情がいい。



愛の妙薬、椿姫、カルメンなどから馴染みのあるアリア。
パヴァロッティ、マリアカラスの歌声も聴けるが、一番多いのはヌールの「人知れぬ涙」だ。母親の埋葬でもラジカセから流す。


余談だが、
釣りバカ日誌」で柄本明扮するハカセが、横浜山下公園で医師の榊和美(室井滋)にプロポーズ代わりに「人知れぬ涙」を歌うシーンがあった。
ヌールの父もそうだったという。

ヌールのその後の続編を観たくなる。

2021年に公開された作品だ。
監督ヨアン・マンカを知らなかった。
今後注目していきたい。


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