原題 Sweet Tooth
訳・村松潔
新潮クレスト・ブックス
2014年9月 発行
402頁
1970年代初め
まだ東西の冷戦が世界の空気を支配していた時代の物語
小説を読むのが何より楽しみな稀に見る美人女子大生・セリーナは深い仲になった大学教授の薦めでM15の面接試験を受け採用されます
しかし、そこで与えられた仕事はスパイとしての華々しい活躍とは程遠く、古ぼけたビルに通い、書類の整理やタイピングばかり、おまけに給料は一般企業よりはるかに安く、生活は大変厳しいものでした
しかし、何が幸いするかわかりません
ありとあらゆる現代の作家にやたら詳しかったセリーナは、思想戦争、情報戦の一手として反共的作家・ヘイリーの支援に抜擢されます
セリーナはたちまち彼の作品に魅了され、この作家を愛するようになりますが、当然ながらそれは自分の正体を告白できないジレンマに悩まされる日々の始まりでもありました
やがてヘイリーの処女中編小説が評判になり、マスコミでも取り上げられるようになりますが、M15の目論見とは裏腹な内容で、セリーナは窮地に追いやられます
美人スパイを主人公としたスパイ小説であり、恋愛小説であると同時に、小説家がいかにして小説を産み出していくのか、文学賞や批評が作家にとってどんな意味を持つのか、70年代前半のイギリス社会の時代的雰囲気、など様々なことが語られています
最後の、ヘイリーからセリーナへの手紙には救われます
原題を直訳すれば『甘党』
苦く辛い、けれどもスウィートな作品でした
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