新潮文庫
1982年9月 発行
2008年5月 71刷改版
2012年8月 79刷
解説・武蔵野次郎
495頁
武家もの・時代小説
1973年、直木賞受賞後、会社勤めを辞め本格的に執筆活動を始めた頃に発表された作品が9編収められており
どれも印象に残る佳い作品だと思いました
「証拠人」
関ヶ原の戦いで西軍に属した主家が潰れ、以来20数年浪々の身の佐分利七内
庄内藩で人を召し抱えると聞き、主取りの最後の機会だろうと『面接』にやってきた七内は『面接担当官』から難題を突き付けられる
難題をクリアすれば100石で召し抱えるとの言葉に急ぎ清洲を目指す七内だった
関ヶ原が昔の話となりつつあるほどの年月が過ぎても、武士を止めなかった七内のような人物は多かったのでしょう
「唆す」
「潮田伝五郎置文」
「密夫の顔」
「夜の城」
「臍曲り新佐」
『たそがれ清兵衛』の中に収録されていても良さそうな作品
城内で臍曲がりとして通っている新佐衛門
妻亡き後世話をしてくれるひとり娘の葭江、婿取りの時期ではあるがなかなか良い相手が見つからない
隣家の若侍で葭江に馴れ馴れしく近づくのが新佐衛門には気に食わない犬飼平志郎
3人が織り成すユーモア味に富んだ爽快な一編
「一顆の瓜」
「十四人目の男」
「冤罪」
兄一家に居候している堀源次郎
よき婿入り口の話が来るよう、剣の腕を磨いており奉納試合で3位に入ったものの、どこからも何の音沙汰もない
散歩の途中、坂の上から偶然目にした娘の姿に一目ぼれをした源次郎は勝手にその家に婿入りする自分の姿を思い描いていた
ある日いつものように坂の上から下を見下ろした源次郎は、娘の姿が見えないことを不審に思い娘の家の前まで来たとき、門に材木が釘つけられていて異変があったことを知る
娘への思いから探索を始める源次郎だが、意外にも自分の兄も何かしら関係があるらしいことがわかってくる
武家ものらしく、理不尽の中人は生きていくということを描いた作品です
家中の騒動の端っこに位置しつつ、日々細々と暮らす武士の日常が実に上手く描かれている短篇集でした
あ、記事に書いてありませんが「夜の城」はカッコイイと思いました。
短篇集としては『たそがれ清兵衛』より上ではないかしら。
(^_^)