経産相、安定供給確保が課題
枝野経済産業相が発表した電力改革に向けた論点整理は発送電分離など電力制度の大胆な自由化に切り込む意向を示したものだ。(池松洋)
10項目の改革が実現すれば、発電と送配電を一体運用し、地域独占を維持してきた電力業界のあり方が一変する。
教訓踏まえて
枝野経産相は、記者会見で「東日本大震災後の計画停電などで、現在の電力制度の問題点が明らかになった」と述べた。電力会社による発送電の一体運用が、電力の安定供給やコスト削減につながるものではない、との見方を示したものだ。
論点整理では、安価で安定的な電力供給を実現する「競争的で開かれた電力市場」のために、電力会社が独占する「送配電部門の中立性の確保」をはじめ、電気料金の柔軟化、卸市場の強化などの課題を列挙した。
日本の電力制度は、安定供給の確保を優先し、電力会社の地域独占のもとで発電・送電を一体運営してきた。
しかし、論点整理では、東日本大震災後の電力不足が計画停電や電力使用制限などの手段で「国民や企業に多大な負担と苦難を強いた」と反省し、「震災の教訓を十二分に踏まえた制度設計が必要」と改革を訴えた。
チャンス
論点整理は、枝野経産相が率いる検討チームが11月から検討してきた課題をまとめたものだ。
1月には総合資源エネルギー調査会の下に専門委員会を設置し、その議論を踏まえた上で、経産相の「試案」を作る。来夏にまとめるエネルギー基本戦略に反映させ、2013年度に電気事業法の改正を目指す。
日本で過去に試みた電力制度改革は、収益基盤の弱体化を懸念した電力業界の反対で実現しなかった。経産省内には「東電が事実上の公的管理下に入った今がチャンス」との声もある。
しかし、電力自由化による弊害もある。発送電を分離した米国では実際には電力料金は下がらず、大規模な停電が起きるなど、安定供給に支障が出た。競争を促進して料金を引き下げながら、新規参入者にも供給責任を課すなど、米欧の例も参考にした詳細な制度設計が必要になる。
論点整理の要旨
計画停電や電力使用制限令の反省を踏まえた制度が必要。需要抑制や供給増を促す仕組みと発送電分離は、次世代の電力供給システムに向けた一つの方法。発電や小売りの競争による料金低下が期待できる。
発送電分離には〈1〉送電部門を別会計にする会計分離〈2〉送電会社を子会社などにする法的分離〈3〉中立組織が系統運用を行う機能分離〈4〉送電部分の所有を認めない所有分離――がある。
安価な電力を安定供給する競争的な市場の構築を目指し、10項目の論点を検討。〈1〉需給状況に対応した料金やサービスの導入〈2〉電力会社が独占する小口分野でも、需要家が選択できる仕組みの導入〈3〉発電分野の規制見直しや卸市場の活性化〈4〉再生可能エネルギーなどの活用拡大に向けた送電設備の利用ルールの見直し〈5〉競争の中でも、安定供給を確保する仕組み〈6〉電力会社が区域を超えて供給するための障壁撤廃や、卸電力市場を通じた競争活性化〈7〉広域の系統運用や需給調整を行い、供給力の広域的な有効活用〈8〉送配電分離の効果を検証し、送配電部門の中立化〈9〉全国一律サービスの確保。市場原理だけでは解決しにくい課題に対応する仕組みの再構築〈10〉系統運用の技術的課題を克服、安定性と効率性を両立
(2011年12月28日
読売新聞)
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