私は3人姉弟の真ん中で、手のかからない子供だった。
泣く事もわめく事もしない、
無口で無表情のかわいげのない子だった。
母の手は病弱な弟にかかりっきりで、
主張をしない私は放っておいても大丈夫と、
思われていたのだろう。
優しさを見出せない、ぎすぎす痩せた母よりも、
ふくよかでどっしりした祖母が私の拠り所だった。
祖母の部屋は温かく、ゆったりとした時が流れていて、
いつでも、どんな時でも私を . . . 本文を読む
【 祝 婚 歌 】
吉 野 弘
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい
立派過ぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうち どちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難 . . . 本文を読む
照らす灯りの無い闇に
自らの力で光りたつ 一本の白梅
暗闇の中にポッと灯る かがり火のように
ゆくあての無い心を吸い寄せる
夜の間に間に
今宵の雨の訪れは
一段と梅の香りを際立たせ
芳しくむせかえる芳香が
彷徨う心を闇にとどめる
露の間に間に
月の光など無くとも
己の奥に潜む灯火に
命の炎を燃やし続け
周りを照らす木でありたい
白光の間に間に
雨 . . . 本文を読む
船の揺れ具合はどんどん大きくなり、
この旅で一番の揺れとなっています。
ビュッフェでコーヒーを飲もうとすると、
大きな揺れが来て、中身が飛び出して半分になったそうです。
そのうちうどんやラーメンなどの汁物の食事は販売中止となり、
風当たりの強い売店は閉鎖されました。
行きと同じく帰りの船室も、
天文台の助教授と2人になりました。
ほとんど寝てばかりいらっしゃったので、
主人は一人でテレビを見てい . . . 本文を読む
結局、母島はどしゃ降りとなりました。
パンでお腹を満たした後、雲行きを見た主人は、
これは帰った方が無難と判断し、早々に宿に向かいました。
30分歩き、宿に着くと案の定雨が振り出しました。
『母島には野球と相撲を見に行ったようなものだ。』
帰宅した主人が母島の様子を語った一言ですが、
そう言い切ったとおり、部屋でゴロゴロとWBCの韓国戦と、
相撲中継で日が暮れたそうです。
夕食を済ませると、 . . . 本文を読む
母島へは、父島から船で2時間。
しかしこれも海の状況は最悪でした。
船が小さい為、身体に感じる揺れは強烈でした。
船での生活が長い主人曰く、男性の場合トイレで用を足すには、
片手でバーに捕まっているのが常識だそうです。
主人がその通りにしていると、
隣に来た人は両手を離して準備しています。
危ないなーと思った瞬間、
船は大きく横に揺れ、その瞬間隣の人が主人の位置に!
『おっとっとー。』
なんと . . . 本文を読む
翌朝ケンちゃんは朝食の後片付けを済ますと、
海の様子を見に行きました。
残念ながらその日の海上はシケたままで、
釣り舟も職漁船も欠航のようです。
しかしケンちゃんは、
『隊長、行きましょう!』
力強い言葉で主人1人の為に、
自分の船を出して下さったのです。
港を出たとたん、
イルカの大群に熱烈な歓迎を受けました。
船の後を一緒に着いてきて、
戯れている様子に大感激!
もちろん海は荒れた状態、 . . . 本文を読む
船室は2段ベットが2つある4人用個室。
本来なら雑魚寝の2等船室で行こうと思っていたのですが、
スポンサーの計らいで1等船室を用意してくれていました。
同室になった人は1人だけ。
国立天文台の助教授の方で、小笠原にある世界一の望遠鏡の、
システム調整に何度も訪れていらっしゃるそうで、
いつもは4人満室なのにこの日は珍しいとの事です。
夜空の専門家と出会った事で、
主人はずっと疑問に思っていたこ . . . 本文を読む
小笠原へ行っていた主人が、
一昨日の夜遅くに鹿嶋に無事帰ってきました。
おかげさまで命の洗濯が出来たようで、
日焼けして文字通り一皮向けた顔は、
とてもすっきりと穏やかな表情になっていました。
行きも帰りも、竹芝桟橋では、
今回の旅をプレゼントして下さった元部下達が、
見送りと出迎えをして下さり、
(詳しくは【男の涙】参照)
おみやげ話を一花咲かせ、上機嫌でバスに乗り込んだようです。
バス停に . . . 本文を読む
無垢な心を持った少年、オリバー・ツイスト。
憂いのある彼の瞳が今もなお、私の心に焼きついている。
3週間ほど前、急遽時間が空いたので、
私は映画館に行ってみることにした。
たまたまその日は映画の日、
毎月1日は格安で見られるので、
願っても無いチャンス。
しかも昨年末、車で30分の所に、
シネマコンプレックスが出来ていたので、
偵察するには、ちょうどいい機会だった。
通称【シネコン】は小さな . . . 本文を読む
そよ吹く風が 口笛吹いて
こっちにおいでと手招きをする
心地良い潮の音に手を引かれ
鳥達が集う あの場所へ
白い貝殻 カラカラと
波につられて 引き寄せられる
心地良い潮の音に誘われて
皆が集まる あの場所へ
白くきらめく 春の海
夢が集う
希望が集う
憧れが 舞い集う
春めいて そよ風
きらり輝く
☆――――――――☆
今日は海に行っ . . . 本文を読む
水音の中で
命を自在に操る精霊達
ウォーター・スピリッツ
空気の中から生まれ
天より舞い落ち
植物に命を注ぐ
ウォーター・スピリッツ
命のリズムがほとばしる
火の粉の中で
命の炎を宿す精霊達
ファイヤー・スピリッツ
火花から生まれ
植物を灰にし
大地に命を還す
ファイヤー・スピリッツ
命のリズムが燃えさかる
土の中で
命のパワーを司 . . . 本文を読む
カーブを曲がると
思いも寄らぬ景色が広がった
見たことの無い世界に
心臓が高鳴り
背筋が震えた
海の向こうに裾野まで写る富士の山
夕日に映えた
巨大なシルエットは
今までの価値観を覆すほどの
強烈で斬新な雄姿を誇っていた
壮大なスケールで存在する
自然の在りようは
人間を呑みこみ
ひれ伏せさせ
言葉を奪う
感動が全身を走り抜け
魂に衝撃が鳴り響いた
. . . 本文を読む
沈みゆく月に背を向けて
今 私が待ち望むものは
登りくる朝陽
空が白く明けてきて
それでもなお
月は最後の輝きを放ち続ける
黄金色の月として
いよいよ色が抜けてきて
惜しみない拍手とともに
空の幕間に消えたとき
次なるステージが色めき立つ
雲の向こうは赤く染まり
今か今かと待ち受けるとき
ひと筋の飛行機雲が場を盛り上げる
ツーッと長引く雲の帯は
明るく . . . 本文を読む
夜更けのドライブ
この道はどこまでも
はるか遠くに続いている
ときどき不安になるけれど
ぼくの瞳の端っこに
いつも気になる君がいる
明るい光りで
ぼくを照らしてくれる
いつもー
いつもー
姿が見えないときでも
うしろに君の気配を感じるよ
明るい気配
あたたかい気配さ
だからぼくは進める
この道をひたすらに
ぼくのゆく道
君のいる道
あの角を曲 . . . 本文を読む