卯月五日 花の 未だ 匂うがごとく とは 言ひ難けれど
去年(こぞ)見し花の枝(え)のゆかしさに また 宿を出づ
あゆむままに 霞(かすみ)に いり隠れもてゆくやうなるここちに
とや かくや いみじう咲きたる と 思ひつつ そぞろに行けば
かまびすしきわらはべどもの あまた駆け巡るさまの わりなくおもへば 遠目に見やりて すぐすに
なほ 親の わろうも おどろおどろしき声音(こわね)にて 頻く(しく)叱りたるさへ きこゆ
たをやかなる花の枝(え)に 「あれは 届くべからん」とて 飛びつかんとすれば
眼(まなこ)をののき 点となり 花も見さして 逃げにけり
年々歳々 花相似たり
歳々年々 人こはれ行く か いまだ なべて白髪ならぬも 悲しくぞ 思ふ
♪・・・春の野は けふこそ焼きそ 若草の 親もこもれり 鬼もこもれり・・・♪(本歌17古今)