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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

レッドクリフ

2008-11-25 18:31:34 | 映画(ら)
評価点:51点/2008年/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国

監督:ジョン・ウー

チープな超大作。

三国志の時代。
曹操が支配の領域を広げる一方、民を篤く思う劉備(チャン・フォンイー)と孫権(チャン・チェン)は微力ながら抵抗しつづけていた。
80万の兵を挙げ、まず劉備の元へ「狩り」に行くことを決意した曹操に対して、劉備側にいた諸葛亮(金城武)は、孫権と手を組み、撃退しようと考えた。
恐れおののく孫権の部下たちは、諸葛亮の申し出に対して難色を示した。
だが、周瑜(トニー・レオン)に相談した諸葛亮は、周瑜何とか説得して、孫権に立ち上がるように迫る。

アクション監督ジョン・ウーが長年ずっと思い描いていた作品が、三国志だったという。
その中でも、最も有名なエピソードの一つ、「赤壁」が映画化された。
キャストは、中国でもそうそうたるメンバーだ。
インファナル・アフェア」のトニー・レオンに、イケメン俳優チャン・チェン。
まあ、あとは知らない…。

もちろん、ジョン・ウーも、ハリウッドで成功した世界的なアクション監督である。
そこに明らかに見劣りする日本人俳優も二人ほど加えて、エイベックスの威信を賭けた大作が完成した。
これでコケたら、どこかのゲーム会社のようになってしまうことは間違いない。

三国志を好きな人も、嫌いな人も、知っている人も、知らない人も、まさに歴史的な大作を目の当たりにする機会はそうはない。
これがだめだったらエイベックスの株は暴落、あゆもびっくりの倒産の危機だ。
逆にこれがヒットすれば、中国映画界が海外に進出する布石となるだろう。
その意味でも、この秋に必見の映画の一つである。

ただ注意点は、あまりの力作で、二部作になってしまったという点だ。
この話は全然終わらないし、見せ場もまだ出てこない。
とりあえず話題に乗っかりたい僕のような人間にはうってつけの映画ではある。

▼以下はネタバレあり▼

昔、漢文の授業で「赤壁の戦い」を習った記憶がある。
だが、僕にはほとんど三国志への思い入れもない。
世界史に詳しいわけでもないし、漫画やゲームで親しんだわけでもない。
そのため、史実に忠実かどうか、細かい小道具が正しく用いられているかどうか、ほとんど確認するべき知識を持たない。
かといって、この批評を書くためだけにそれらを調べる気にもなれないので、この批評がどこまでこの映画の本質を突いているか、自信はない。
だが、いつも書いているように、この映画を観る人がそれらの知識なしに見ないといけないとすると、映画としては失敗作と言えるだろう。
よって、この批評は、あくまで「三国志素人」が書いたものだと思って読んでいただきたい。

この映画はあらゆる意味で、本気を感じさせる。
逆言えば、その必死さが期待以上に不安を抱いていることを表している気がする。

たとえば、「やっちゃった」と思うのは、テレビ朝日が後付で作成しただろう冒頭の説明。
これは日本語で語っていることと、あまりにもその説明図がチープであることから、日本人向けの説明だと思われる。
「配慮」としては正しい。
三国志についてどれだけの人間が知っているのかと言えば、かなり疑問がある。
知らない僕が言うのもなんだけれど、女性は特に「曹操だれ?」程度にしか思わないだろう。
赤穂浪士の話を、女子高生が知らないのと同じ事だ。

その意味でこの映画の冒頭としては過剰なほどの「配慮」は、テレビ朝日がこの映画をこけさせることができないという涙ぐましい必死さを感じさせる。。
だが、この冒頭は、映画の完成度がかなり危ういことを逆説的に示す結果となった。
たいていのハリウッド映画では、こうした陳腐な説明は一切ない。
なぜなら、そんな前置きを知らなくても、楽しめるように仕組んでいるからだ。
あっても、蛇足ならぬ「蛇角」のような冒頭にそれを挿入しようとは思わないだろう。
観客はこれを見た瞬間、意識的にせよ無意識的にせよ、萎える。
当たり前の話である。

映画が始まる前に予備知識を要するような映画がおもしろいはずがない。
説明も前置きも、すべて劇中で見せるべきなのだ。
たとえるなら、テレビでよくあるテロップの( )のようなものだ。
要は過剰な説明を付け加えないと不安で不安でたまらないのだ。
おそらくなくても全く問題がなかったはずなのに、老婆心もここまでくると哀れだとさえ思える。

そして、肝心の映画の中身だが、これまた至る所で本気を感じさせる。
明らかに急造な印象を受けるCGや、その辺りの安いエキストラを使ったようなやる気のない兵士たち。
ラストの全員で「勝ったぞ!」という大合唱のエキストラたちの顔の、生気のなさったらない。
映画に出ているという意識がない者たちをどれだけ集めても、よりチープになっていくだけだ。
なんだか、本当は国力はあまりないのだけれど、それを過剰にあるように見せかけている某国のようで怖くもあり、笑える。

また二部作であるため、赤壁の一番おもしろいはずの、舟を突っ込ませるというシーンに至る前に終わってしまう。
これは本当に痛い。
じゃあ、それだけ内容が詰まっていて、仕方なく二部作にしたのか、というとそうも感じない。
曹操の小喬への異常な愛情(これについてのエピソードがないため全くもって気持ち悪いだけだ)や、孫権の妹のくだりなど、蛇足だと思わせるエピソードのオンパレードだ。
確かにファンはおもしろいと思うのかもしれないが、すべてのエピソードに対する説明が不足気味なので、なんだか中途半端に冗長に感じさせる。
それなら、もっと詳しく説明してくれ、という点があまり説明されない。

戦略にしても、「八卦の陣だ」というわりには、そんな作戦、素人が考えても無理だろうというものだ。
相手の方が数字的に上なのに、なぜあの八卦の陣が成功するのかが解せない。
いや、僕は戦略家ではないので、孔明が正しいのかもしれないが、猛将に頼る戦術はもはや戦術とは言えない。
僕がもし敵ならば、きっと弓をもっと雨あられのように射て、物量で押し切るだろう。
せめて、その戦術が成功しそうだという説得力ある説明がほしかった。
ただ笑って団扇で仰ぎながら、見つめているだけではいかにも不親切だ。
曹操よりもむしろ諸葛亮孔明のほうが僕には悪魔に見える。

敵をあれだけ追い込みながら、あえて武器も持たず突っ込んでいくドワーフの姿を見せられると、もはや「ああ、そういう映画だったんだ」と認識を改めるしかない。
どれだけ孔明はエスやねんと、そこを楽しむんだな、と。

とにかく全体のバランスが悪い。
どこに主眼に置きたいのか、伝わりにくい。
小喬とのやりとりを中心にしたいなら、過去の孫権とのエピソードは不可欠だし、それを説明しないなら、あの気持ち悪い孫権のエピソードは一切触れるべきではない。
八十万軍の数とやく三万の兵士の戦いの巧妙さを伝えたいなら、台詞の中や、数の圧倒的な力をヴィジュアルだけでなく、話の展開で見せる必要もあった。
でないと、八十万もいるはずなのに、なぜそんなに役立たずなのか理解不能だ。

ラストの長江を南北に挟んでのにらみ合いも、映像的に不自然だ。
敵があまりにも近く、10分くらいで攻めてきそうな距離に位置している。
三日も様子を見ている余裕があったとはとても思えない。
そういう説得力が欠如している。
だから、おもしろくない。
ドワーフが突っ込むのをみて、僕は「ロード・オブ・ザ・リング」などのファンタジー映画を思い出した。

いずれにしても、次の作品もおそらく映画館で観るだろう。
だけれども、僕の期待値は著しく下がったことは言うまでもない。

というか、あの「ウインド・トーカーズ」の時にやった失敗を誰も思い出さなかったのだろうか。
「ジョンに戦争映画を撮らせたらダメ!」

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