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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

恋愛寫眞(V)

2008-09-23 22:37:59 | 映画(ら)
評価点:74点/2003年/日本

監督:堤幸彦(「20世紀少年」など)

なにかと話題のお二人が主演の、写真をめぐる冒険!

三流雑誌のカメラマン瀬川誠人(松田龍平)の下へ一通の手紙が届く。
差出人は元恋人の里中静流(広末涼子)。ニューヨークで写真の個展を開くという。
三年間音沙汰がなかった元彼女からの突然の手紙に、誠人は静流との日々を思い出す。
同窓会に招かれた彼は、静流がニューヨークで殺されたと聞いたと大学時代の友達から聞かされる。
たった一枚残った彼女の写真を頼りに、誠人はニューヨークにそれを確かめに行く。

正直な話、これまでは松田龍平はあまり好きになれなかった。
なぜなら、親の七光り的なところがあり、また、マスコミや松田優作にあこがれていた世代が、彼の影を追うために息子の龍平を役者に、「仕立て上げた」感があったから。
少なくとも、最初の売られ方からそういうイメージもっていた。
この作品を見終わったあと思うのは、「名前変えたほうが良いよ、龍平君」。

ニコラス・ケイジが叔父の七光りというレッテルを取り除くのに、名前を変えて、しかもあえて奇抜な役のオファーばかりを受けていたのは有名だが、松田龍平もやはり親の七光りというレッテルを取り除くのには苦労するだろう。
まだまだ演技の方は発展途上という印象は否めないけれど、本格的に役者を目指してほしいとは、思った。

▼以下はネタバレあり▼

さて、肝心の映画の内容だが、よくできていると思う。
だが、この映画の肝は、音楽と画の綺麗さだ。
ストーリーからこの映画を語ることは殆んど無意味だと思う。
もちろん、サスペンス効果をあげるために、時間軸を入れ替えたり、入れ子型にしてみたりしているが、やはり画の綺麗さと音楽の上手さが、この映画の「ウリ」だろう。

主人公たちが扱う、写真というモティーフは、かなり危険な札だと思う。
写真などという「芸術性」をストレートにもってくると、どうしてもそこに描かれる「美しさ」を身構えてみてしまう。
それでもなお、綺麗だと思わせるのは、映画のなかで撮られる写真のせいではなく、映画そのものの画が綺麗だからである。
その意味でも、日本映画でニューヨークという舞台設定は、非常に戦略的だった。
やはりどうしても日本人としては海外にあこがれる気持ちが強い。
それは僕だけではないはずだ。
もちろん、日本の日常を撮ったシーンも秀逸ではある。
けれど、ニューヨークという舞台はそれをさらに昇華させていることは間違いない。

あまり興味のない僕でも、写真を撮ってみたくなるというのは、この映画の魅力が場面の描かれ方が上手いからに他ならないだろう。

音楽も同時に軽快で、場の雰囲気の形成に重要な役割をになっている。
ストーリーはある程度読める展開でありながら、それでも、その「空間」に居ることをここちよくさせる音楽と映像はすごいと言えるだろう。

この作品のもうひとつの特徴は、入れ子型という手法だろう。
一つは、全体の構成が誠人が語る、という入れ子型になっている。
これは時間構成を組み替えているのだが、これによってサスペンス効果と、物語に緩急が生まれる。
もう一つは、写真という入れ子型だ。
これは映画のなかに、違う枠で切り取られたテクストを挿入することによって、空間に重層性を生み出している。
静流のことばに「向こう側に世界が広がっているように思える」というものがあったが、まさにそのとおりで、二重三重に世界を広げている。
この視点の屈折が、この映画の一つのテーマでもあるだろう。

無論、未完成な部分はないわけではない。
むしろ未完成な部分のほうが多いだろう。
例えば、拙すぎる誠人の英語は、もはや聞けたものではない。
あきらかに日本の学校教育によってもたらされた英語である。
それなのに、思考やナレーションを英語で語らせるのは、かなり違和感があるし、それを通り越して滑稽ですらある。

おそらく、この英語のナレーションは、字幕で読ませたかったという意図があるのだろう。
字幕と音声とでは、だいぶ印象が違う。
また、受け手の情報の受け取り方も変わってくる。
余談だが、最近のテレビではテロップを入れるのが当たり前になりつつあるが、これは受け手の脳内での情報操作の面から言って、大きな意味がある(視覚的効果によって聴覚からのイメージをゆがめられてしまう)。
また、非日常として「切り取り」たかったという意図もあるのだろう。

また、言ってはいけないとはいうものの、オチがかなりつらい。
ここでいうオチは、もちろん、アヤ(小池栄子)のことである。
これも誠人の英語同様に笑えるが、それにしても酷い。
アヤとの邂逅のシーンで、銃弾が光って見えるという恐ろしく不自然な拳銃は、ニューヨークとは思えない。
スタンガンも明らかに後で入れた光だ。
それまで綺麗に、丁寧に描いていた世界が、一気に音を立てて瓦解していくのは、残念でならなかった。
(それも狙いなら、その狙いは間違いだろう。)

読んでいるだけで、展開をどがえしして面白い小説がある。
それと同じで、ただ見ているだけで面白い映画もあるのだとおもう。
これはそういう映画。

(2004/2/20執筆)

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