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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ワールド・トレード・センター

2009-07-26 15:40:34 | 映画(わ)
評価点:60点/2006年/アメリカ

監督:オリーバー・ストーン

人々のあとについて回る映画だ。

2001.9.11の朝。ニューヨークの湾岸警備にあたる警官たちは、いつもどおりに出勤し、点呼を確認した。
ジョン・マクローリン(ニコラス・ケイジ)は、突然の轟音に驚いた。
ニュースでは貿易センタービルに飛行機が突っ込んだという第一報を流していた。
万事に備えていた彼らにとっても、不測の事態であった。
ジョンは志願者を募り、なんとか残された人々を救出しようとタワーに向かう。
しかし、タワーはいきなり崩れ始めて……。

ユナイテッド93」同様、この映画も9.11をモティーフにした作品である。
タイトル通り、こちらは飛行機が突っ込まれてしまったニューヨークのビルを舞台にした作品になっている。
役者も、ニコラス・ケイジという有名どころを使うことによって、ハリウッド映画色が強い映画とも言える。

僕は「ユナイテッド93」も見に行ったので、どうしてもそれとの比較という観点で観てしまった。
映画としての完成度は素晴らしく、おそらく「楽しめる」と思う。
一般人に勧めるなら、僕はこちらを推すだろう。
 
▼以下はネタバレあり▼

良くも悪くもハリウッド映画、というのがこの映画の感想だ。
映画としての完成度は決して低くはない。
よくぞここまで再現したな、というのは、さすがハリウッドである。
泣けるように作られているのも、期待を裏切らない。
しかし、僕は「ユナイテッド93」の方が好きである。

映画の構成は「炎のメモリアル」に非常に似ている。
事故(テロ)に巻き込まれ、巻き込まれている間、さまざまな回想があり、そしてラストへと収束していく。
テーマとしても、「消防士の勇気」だった「炎のメモリアル」同様、こちらは「警官の勇気」である。
これも、「往来」の物語の構成をとっているわけである。

また、はっきり言って、「9.11」でなければ撮れなかった映画か、といわれても、首をかしげなければならないだろう。
だが、「9.11」でなければ、僕は(多く人)は泣かなかったに違いない。
あえて語弊のある言い方をすれば、それだけ「魅力ある」事件であることも、また間違いないのだろう。

映画の中では、9.11の事件や、テロについての情報や新たな視座のようなものは一切与えられない。
事件が起こり、そこに取り残されてしまった人間たちを丁寧に、そして限定して描かれていく。
物語としては、現時点での限界ぎりぎりの間隙を縫った作品だと言えるだろう。
政治的に、これ以上は描きようがなかったのだろう。
なぜなら、やはりまだ「終わっていない」事件だからだ。

ウィル・ヒメノ(マイケル・ベーニャ)とマクローリンの物語に終始する。
彼らがいかに取り残されたか、そしていかに救出されたか。
家族たち、彼ら自身の心情が非常に丁寧に描かれている。
映画としては、単純きわまりなく、しかもほとんどの人間が結論を知っていることを考えれば、ストーリーの起伏のようなものや期待など、ほとんどない。
にもかかわらず、そこまで見せてしまったのは、役者がすごいのか、監督がすごいのか、あるいは、9.11がすごいのだろうか、考えさせられるところである。

とは言え、二人の人間像を浮き上がらせるには、十分なシナリオで、演出だった。
さすがオリバー・ストーンである。
そして、彼らを取り巻く人間たちが、また非常に好演している。
僕が号泣してしまったのは、病院で待つ間、語りかけてくる息子を失った母親だ。
彼女の話などは、説得力があり、9.11をもろに思い出させるシーンではないか。

ハリウッド映画である時点で、多くの批判がでる映画であろう。
しかし、それでも、このシーンなどの取り扱いは、非常に慎重に、かつ大事に描かれているように思える。

だが、僕はやはりこの映画を手放しで観ていられるほどの軽い人間にはなれない。
ユナイテッド93」が人々に、大きな道や理想、思想を示した映画であったとすれば、この映画は、人々が流れているその流れの後をついていき、そしてお金とささやかな涙を残していく映画だ。

どれだけ金をかけ、セットを忠実につくったところで、どれだけCGでリアルに当日を再現したところで、畢竟、その奥にあるのは、人々の大きな流れに追従しようとしていることには変わりない。
ハリウッド映画の宿命といえばそれまでだが、まったく新しい視点や心理を見せるに至っていない。
大きなお金と、多く人をつかって、売れる、みんなに支持される最大公約数的な映画を撮ったに過ぎない。

涙が出たとすれば、結局は、涙を流すために作られた、「観ているの者が気持ちよくなるための映画」だから当然なのだ。
しかし、それは9.11の死者に対する本当の敬意かどうかはわからない。
そして、それが本当にこの時期に出すべき映画なのか、
あるいは映画という表現媒体を利用してするべき「主張」なのか、疑問が残る。

流れている思いが「低俗」とは思わない。
けれど、あまりに「安易」だと言いたいのだ。

(2006/10/30執筆)

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