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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

サイクロンZ(V)

2010-06-13 00:13:26 | 映画(さ)
評価点:84点/1988年/香港

監督:サモ・ハン・キンポー

漢文が文学の源泉であるように、香港映画は映画の源泉である。

香港のジャッキー(ジャッキー・チェン)は、きわどい犯罪事件で見事に無罪を勝ち取ることができる敏腕弁護士だった。
ある日、養殖所を営むイップは、工場排水による公害に悩まされていた。
その工場を訴えた際、工場側はジャッキーを雇うことにした。
何とか無罪を勝ち取るために盗聴器を仕掛けさせようとトン(ユン・ピョウ)を雇い、またニセ武器商人のウォン(サモハン・キンポー)も同時に頼むことにした。
自身も、工場の排水調査を行っているイップのいとこのメイに言いよろうとするが、ジャッキーは本格的に恋に落ちてしまう。

昔小学生の頃、近所の友達とビデオに撮ったこの作品を、毎日見ていた。
本当に飽きるほど毎日見ていた。
短い期間でおそらく30回は見ただろう。

その頃いわゆる「ごっこ遊び」の真っ最中だったため、ジャッキー役や敵の白人などを演じ分けながら「アチョー!」などと言いながら遊んでいた。
見るだけではなく、その身体にも深く刻まれた作品という意味で、僕の記念碑的な作品といえる。
おそらく、映画を観るという習慣の原風景は、この作品によって育まれたと言っていい。

87分という短い映画で、映画としてのおもしろさの全てが含まれている。
見たことがないという人は今更見ても感動できないかも知れない。
見たことがある人は、この辺りで見直すのも良いかもしれない。

▼以下はネタバレあり▼

昨年香港に行った時に、真っ先に見ておきたいとおもったのがこの「サイクロンZ」だった。
見ようと思って、DVDをアマゾンで探したが、すでに生産終了と言うことだった。
小さい近くのゲオでは、当然取りそろえていない。
仕方がないので、大阪市内のTSUTAYAで借りることにした。

この映画がすばらしいのは、三大香港スターがそろい踏みしているところだ。
これ以降この三人がそろうことは、今のところない。
サモハンがなにやら体調がよくないようなので、もう三人が共演するという形は実現しないかも知れない。
ユンピョウも第一線から遠のきつつある。
その意味で、この作品は価値が高いといえる。

この作品以外でも、三人は共演を果たしているが、「サイクロンZ」は中でも完成度が高いのではないか。
一つは三人のキャラクター性が非常に上手く描かれているからだ。
ジャッキーは女ったらしで、どちらかというと市民の敵となる人間を弁護する男。
調子乗りで、主義主張よりもお金になることを優先するタイプ。

サモハンは、元格闘家で武器商人。
かわいらしいところは、その武器が偽物だということ。
情熱的なところもあるが、どちらかというとお金第一主義者。

ユンピョウは、主義主張にとらわれた熱血漢。
曲がったことが嫌いなため、DVD版では削除されていたが、精神病に通院したりする。
馬鹿なところがあるので、他人に利用されやすい。

三者がどのタイミングで知り合ったのか、といった詳細については劇中では明らかにされていない。
共通点は皆戦える人間だということくらいか。
その三者の描かれ方がしっかりしているため、ストーリー全体が大きく揺らいだりしない。
安定感がある。
お決まりと言えばそれまでだが、手に汗握るアクション映画には絶対条件である。
その三人が喧嘩するシークエンスなどは、本当に仲がよいのだろうとほほえましくもある。

ジャッキーがその中で、主人公となり、しかも市民の味方どころか敵である役回りであるのがおもしろい。
恋に落ちることで、社会性に目覚めるというドラスティックな変化も物語をエキサイトにさせる。
また、これは僕は事情に明るくないので、間違えているかも知れないが、香港という特殊な事情の場所で、弁護士という職業は特別の意味がるのではないかと感じた。
中国の共産党が支配する事情から言って、香港の弁護士という設定は皮肉めいている。
勿論、弁護士という職業自体が、中国から生まれたものというよりは、ヨーロッパ社会から生み出されたものだ。
その意味でも、植民地としての香港、中国領土としての香港という二重の記号性が込められているような気がする。

というのも、ラストで倒すことになるボスが白人であるという点だ。
悪玉はちょっと動きの気持ち悪い中国人であっても、最後に倒すべきは白人なのだ。
その白人の背が微妙に低いところが笑えるが、香港映画としての典型をここに見ることができるだろう。

映画全体のストーリーは忘れていた。
もっとはっきり言えば、何十回と見ていても、多分全然理解できていなかったのだろう。
だが、細かいシーンは驚くほど覚えていた。
無駄な動きが多いユンピョウや、拡声器で告白するサモハン、二人がデート中訪れてあたふたするジャッキーなど、鮮明に覚えていた。
先ほども少し書いたが、ユンピョウが精神科医に電話したとき精神科医が賊に襲われてどうしたらいいか、という質問に、賊が答えるというシークエンスがあった。
「証人をみんな殺せ!」と言われてその後、ジャッキーの元へ訪れる、という部分がカットになっていた。
ウィキペディアによると、DVD版で削除されたらしい。
テレビ版ではNG集もあり、その様子まで覚えていたので、人間の記憶ってすごいな、と我ながら感心した。

それはともかく、子どもの頃に観た映画は、記憶としてではなく身体性まで含んですり込まれているのだろうということを、改めて感じた。
僕の原風景は、この映画を観ながら、自分が悪漢を排水溝にたたき落とすというヒロイックな一コマだ。
今の子どもたちは、箒にのった自分を想像して魔法学校に通う一コマが原風景となるのだろうか。
その意味では僕は香港映画に感謝しなければならないだろう。

多謝。

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