secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

マシニスト(V)

2010-06-06 18:28:31 | 映画(ま)
評価点:72点/2004年/アメリカ・スペイン

監督:ブラッド・アンダーソン

そうか、そういうダイエット方法があったんだ! とは思えない作品。

体重54キロとなった長身のトレバー(クリスチャン・ベール)は、一年間眠れないという状況だった。
工場で働く彼は、夜1時半まで空港のカフェで過ごし、その後娼婦と寝るという日常を過ごしていた。
みるみる痩せていく姿に周りは距離を置くようになり、本人も周りと疎遠になっていた。
ある日、同僚の代わりに入ったという溶接工アイバン(ジョン・シャリアン)と知り合いになる。
機械の調整をしていた同僚の手伝いの際、アイバンに気をとられて、事故を起こしてしまう。
事情を話すと、アイバンなる溶接工はいないと言われる。

クリスチャン・ベールが「バットマン ビギンズ」の撮影に入る前に撮ったという作品。
八ヶ月で40キロ以上の増減をやってのけた。
周りに止められるほど、体重を落としたという。
実際パッケージの写真も痛々しいほど、痩せている。
もはや誰かわからないほどだ。
一つの役に没頭すると、その人物になりきる、という彼の仕事ぶりがよくわかる作品だ。

サスペンスホラーの趣が強い作品で、予備知識なしで見た方がおもしろいだろう。
どういう話の方向性なのか、ということも、知らない方が良い。
とはいえ、パッケージにそれらしいことが書いてあるので、読んでしまうだろうが。

僕もツナ缶とリンゴで過ごそうかな。
おなかの周りに「ともだち」ができて、困っています。

▼以下はネタバレあり▼

物語の方向性は、なぜ不眠症になったか、という点だ。
だが、物語の前半は伏線はあるにしても、その方向性はあまり見えてこない。
徐々に浮き彫りになっていくのは、明らかに体調以上に、彼の内面が異常であるということだろう。

物語のオチは、それほど驚くべき事はない。
そこに悲しみが溢れているという点においては、おもしろい。

真相を書かないと話を進めにくいので、軽くおさらいしておこう。
彼は1年前のある日、1時30分にルート66で一人の少年を車でひき殺してしまう。
そのショックで彼は一年間不眠症に悩まされてしまっていた。

おもしろいのは、実は不眠症ではなく、夢遊病だったという点だ。
彼は眠れなかったのではない。
目覚められなかったのだ。
それがわかるのは、空港のカフェでウェイトレスから告げられる一言だ。
「あなたのウェイトレスは私よ。ずっとコーヒーばかりみていたじゃない」
彼はコーヒーを見つめながら、殺してしまった子どもの母や親と「対話」していた。
彼はずっと寝ていたのだ。
もちろん、それは非常に浅い眠りだっただろう。
だが、一年間寝ていないのではなく、一年間深い夢を見ていたのだ。
その転倒がこの映画の最大の見所である。

だから、ルート666という残酷なテーマパークに訪れる「夢」を見ていた。
彼は本当にそこに行ったのかもしれない。
だが、それは夢遊病に近い状態だったはずだ。
娼婦のスティービーと性交渉もあっただろう。
だが、寝ていないのではない。

彼は幸せになろうという段階になってその幸せを壊そうとしていた嫌いがある。
その一つがスティービーとの仲である。
彼女との仲がうまくいきそうなとき、幻想の男アイバンとの写真を発見し、破談になってしまう。
もちろん、その写真は過去の自分の写真であり、現実逃避として、アイバンに見えるように現実を書き換えたのだろう。
おそらく仕事で事故を起こしてしまったのも、その一つだろう。
これらは、単に現実から逃げたいのではなく、自分への贖罪である。
犯してしまった罪の重さに耐えきれず、深い眠りを、あるいは目覚めを自分自身から奪い、また女性や仕事、同僚といった自分を支えていたものをつぎつぎと 失っていく。
罪を認めたいという自分と、認めたくないという自分のせめぎ合いが、不眠という症状に顕れたと考えられる。

その意味で、彼は自分自身を許し難かったのであろう。
そこには深い悲しみがある。

他にもオチへの伏線はたくさんある。
同僚が1年前からつきあいが悪くなった、と話したり、やたらと1時30分を強調したり、自分の車が廃車になっていたり。
どれこれも断片的ではあるものの、その寸断されたということが、彼の分裂し、屈折した内面を示している。
サスペンスとしては読みにくい作品ではあるものの、明かされた事実に対して、怒りを覚えないのはそのためだろう。

だが、それほど衝撃的な印象を受けないのは、やはり伏線があまりにも少なすぎることが原因ともなっている。
細かい点で説明しきれない部分が多すぎる。
すべてが彼の内面で起こったことだから、というブラックボックスを用意してしまうと、その時点でサスペンスとしては破綻していると言わざるを得なくなってしまう。
雰囲気だけで押してしまった感は強く、クリスチャン・ベールがここまで体当たりの演技をしてくれなければ、映画としても成り立ちがたかっただろう。
特に、交通事故というオチは、ラスト直前までどこにも伏線がないように思う。

タイトルはマシニスト。
無理矢理訳すなら機械主義者といったところだろうか。
自分自身を何も考えない、何も創造しない機械主義者となって、自分を守ろうとしたのかもしれない。
だが、人間は機械ではない。
失った指を他の指で補ったところで、代用することはできない。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2011-04-20 23:07:22
マシニストは機械工の事だお
返信する
Unknown (Unknown)
2011-04-20 23:07:24
マシニストは機械工の事だお
返信する
少しだけ落ち着いてきました。 (menfith)
2011-04-24 20:48:11
管理人のmenfithです。
今日の休日出勤のおかげで、ようやく少しだけ落ち着いてきました。
けれども、今週末は怒濤の4夜連続飲み会があるので、胃腸を全力で守ろうと思います。
疲れたので今日はもう寝ようかな。

>Unknownさん
ご丁寧に二度も同じ内容の書き込みをしていただいてありがとうございます。

この記事をアップした後、他のブロガーさんの記事を見て知っていました。
しかし、「恥ずかしいのを甘んじて受ける」ということでそのままにしておきました。
おっしゃるとおり、間違えています。
おちゃめなところがあると、笑ってやってください。

返信おくれて、申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いします。
返信する
Unknown (tom)
2013-02-14 16:29:05
>>交通事故というオチは、ラスト直前までどこにも伏線がないように

1.遊園地で子供が親から意図的に離れる。(横断歩道)
2.そこで乗るアトラクションが車
ですから、それが伏線ですね。

「なんで地獄のほう行くんだ」みたいな(笑)

ラストのクリスチャン・ベールの顔、良かったですね。
返信する

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