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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ノウイング

2009-07-13 22:28:35 | 映画(な)
評価点:63点/2009年/アメリカ

監督:アレックス・プロヤス
主演:ニコラス・ケイジ

あらゆるアメリカ映画的な要素を盛り込んだ、希有な作品。

宇宙物理学者で大学教授のジョン(ニコラス・ケイジ)は、半年前に亡くした妻の忘れ形見、息子のケイレブと二人で暮らしていた。
妻の死に絶望しているジョンは、人と交流することを無意識的に避けてきた。
補聴器をつけているケイレブは、小学校の創立50周年でタイムカプセルから出された手紙を受け取る。
そこには、意味不明な数字の羅列が並んでいた。
気になったケイレブだったが、父親に取り上げられてしまう。
ジョンは、何気なくその数字をみると、「9・11」の同時多発テロの犠牲者の数が書かれていることに気づき、ほかの数字も検証してみるが……。

初めてこの映画を知ったのは、映画館での予告編。
ニコラス・ケイジ主演で、CGを駆使した映像に、隣でみていた友人との共通認識は「絶対B級! 期待大!」。
「ゴーストライダー」にも似たチープさと、浅はかな香りのする作品、それが「ノウイング」である。
ウィッカーマン」でも書いたように、これこそがニコラス・ケイジの真骨頂と言っても過言ではない。
僕と同じく、ニックファンの、美容室のスタイリストさんとも、同じ期待感だった。

残念ながら友人とは時間が合わなかったので、一人で鑑賞した。
監督は、あの「アイ,ロボット」のアレックス・プロヤス。
予備知識は予告編以外はほとんどなしに、公開当日に観に行った。
もちろん、期待はとびきりの駄作であること、その一点である。

ちょっと谷間になりそうな映画作品の時期にあって、とりあえずみるなら「ノウイング」いかがでしょうか。
実は案外……かもしれません。

▼以下はネタバレあり▼

アメリカといえば、オカルト。
アメリカといえば、UFO。
アメリカといえば、キリスト教。
アメリカといえば、ディザスター。
アメリカといえば、片親の家庭。
アメリカといえば、終末思想。

そんなアメリカ的要素をふんだんに取り込んだ意欲作となっている。
ここまでアメリカ的な要素を取り込んだ映画も珍しい。
しかも、絶対に駄作だ、と決めてかかっていたのに、そこそこまとまりのある映画になっている。
それがなぜか腹立たしい。
悪い映画でも、いい映画でも、僕の怒りを買ってしまうのだから、制作者はかわいそうだ。
B級映画だと期待しすぎたのか、びっくりするくらいの突っ込みどころ満載映画、という期待は裏切られた格好だ。

以下、解説していくが、よいことを書いていても、若干怒気が込められているのはそういう経緯があるからだとあきらめてもらいたい。

テーマとしてはアメリカ特有の、あるいはキリスト教圏特有の、終末思想だ。
もっと具体的にいえば、「ノアの方舟」の現代版と言っていい。
その方舟を、非常にリアルに構想したのがこの映画、といえるだろう。
そのリアル、というところが味噌で、アメリカ人にとってのリアル、という注釈が必要なわけだ。

ニコラス・ケイジ扮するジョンは、最近妻を亡くして、それによって絶望している。
その設定もさることながら、示し方が秀逸で、授業の「宇宙決定論とランダム理論」の議論において、それを示す。
だから、違和感がないし、説得力もある。
妻を死んだことを周りが明示しようとしないことも、彼への配慮とその現実の重さを感じさせる。
早い段階でそれは察することはできるが、この設定があるから、映画のスケールの大きさと、ジョン個人の真相を知りたいという願望のバランスがとれている。

宇宙決定論をかたくなに信じたくないが、数字に込められた意味を知ろうとする。
それはジョンの妻を失ったことに対する、意義を見いだしたかったことに他ならない。
大学教授にもかかわらず、それを執拗に知りたがる、その重さは非常にうまかった。
いかに笑ってやろうかと思っている僕にとっても、身に迫る描き方だった。

彼が運命的に出会ったのは、息子がタイムカプセルから受け取った数字ばかり書かれた手紙だった。
この手紙は、ルシンダという半狂乱の少女が書いた気味の悪いものだった。
学校に返そうとするジョンはたまたま、その数字に同時多発テロとその犠牲者の数が書かれていることに気づく。
そして調べていくと年号と犠牲者の数は、これまで過去50年間で起こってきた大惨事を示していたのだ。

ルシンダにヒントがあると考えたジョンは、ルシンダを調べる。
ルシンダに表れた症状と、息子のケイレブに表れている症状が実は共通していることに気づく。
このあたりの設定もかなり巧みだ。
難聴がある、程度の説明しか最初はないが、実はそれが雑音が聞こえる、というルシンダとの共通点を示していたわけだ。
謎に対して、きっちりとした真相と伏線がある。
よく練られているシナリオだと言える。残念ながら。

話をすっ飛ばす。
要するに、ルシンダは世界の終わりを知らされていた選ばれた民だったのだ。
誰に選ばれたか。
それは、天使と呼ぶにふさわしい、エイリアンだった。
そこには、聖書にある終末思想と、ノアの方舟、そしてアメリカが三度の飯よりも好きなUFOという符号をあわせた真相があったのだ。
宇宙船へ乗り込むエイリアンには天使のような羽があり、また、ルシンダの孫アビーとケイレブとが降り立つ地球ではない星は、天国のような光り輝く大地が広がっていた。
彼らは、死んだのだろうか。
あるいは、ジョンが信じられなかった聖書に記載された約束の大地なのだろうか。
少なくとも、宇宙には生命がいるかもしれないという説を否定し、そしてキリスト教的な運命についても信じられなかったジョンにとっては、皮肉なラストになっている。
もちろん、ケイレブとアビーは、アダムとイブとを模した存在であることを示唆している。

それらが完全に一致した真相として呈示されても何ら違和感がないのは、序盤できっちりとその伏線を張っているからだ。
なるほど、そういう落ちか、と妙に納得させられてしまう。
もちろん、日本人にとってはどちらもなじみのない話なので、違和感があるのは確かだが、それでもすんなり受け取ることはできるだろう。
ジョンが宇宙物理学者だということも、きっちりと生かし切っている。
ある意味では、どこを切っても説明できる完璧とも思えるシナリオになっている。
本当に残念だが、うまい映画であることは、認めざるを得ない。

その説得力を増しているのが、単なるディザスター映画ではない演出だ。
街が滅んでいくのが、ある意味では、楽しい。
それが、過剰に蓄積されてしまった世界を蕩尽しつくすという喜びを感じるカタルシスの醍醐味だ。
人が死んでいくのは、確かに現実では許されないことだが、映画ではなぜか畏怖とともに浄化作用をもたらせる。
これが、ディザスター映画としてのおもしろさだ。
ダンテズ・ピーク」にしても、「ボルケーノ」にしても、その部分は否定し得ない。
そこに人間ドラマが描かれるからこそ、さらにその恐怖や悲しみが倍増するのだ。

だが、この映画の二つの事件、飛行機の墜落と、地下鉄事故は、全くそういったカタルシスを感じさせない。
むしろ、血がリアルに吹き飛び、人が生きたまま燃えるというその姿に、嫌悪さえ感じさせる。
たぶん、すごく重いシーンに感じられたはずだ。
僕は、B級映画のぬるい脳天気なシーンを期待していたので、度肝を抜かれた。
残酷きわまりないシーンに仕上がっている。
正直、笑えない。(何を期待していたんだ、といわれそうだが)

それだけではない。
この映画はホラーかとさえ思わせる怖い演出も目立つ。
冒頭の1959年に起こったルシンダの失踪にしても、変な男が息子に迫るシーンなど、およそ軽いのりの映画ではない。
デイ・アフター・トゥモロー」とは違うのだよ。

そういった演出によって、この映画は単なるB級の軽い映画とは思えないほど大まじめに作っている。
出てくるのはエイリアンだけれども。

だが、どうしても気になるのは、その結末だ。
確かに地球がなくなってしまうというオチは映画としてありなのだと思うが、それは人間だけでは解決し得ないという解答の放棄のような気がして仕方がない。
しかもエイリアンによっての救済ということもあって、こういう映画を描き続ける限り、人間に明日はない気がする。
神を頼るにしても、エイリアンを頼るにしても、それは思考停止に他ならないからだ。
地球が静止する日」でも同じ結論だったが、アメリカは本当に夢も希望も他人任せになっているのかもしれない。
それでも、遥かに「地球が静止する日」よりも完成度は高いが。

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4 コメント

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2ぽいんつ (名無し)
2010-02-11 04:02:55
「人間だけでは解決しえないという、解答の放棄」ではなく、「人間だけでは解決しえない」という解答なのではないでしょうか?

そして、概ね同意見ですが、「ケイレブとアビー」はアダムとイブを模しているというより、意味合い的には「カインとアベル」の役割を持たせていると思いますが、いかがか?
返信する
思考停止ですね。 (menfith)
2010-02-14 12:13:25
管理人のmenfithです。

書き込みありがとうございます。


>「人間だけでは解決しえないという、解答の放棄」ではなく、「人間だけでは解決しえない」という解答なのではないでしょうか?

そうかもしれません。
いずれにしても思考停止であることは免れないと思います。
エイリアンに救いを求めるのはいかにもアメリカ人らしいですが。

>「ケイレブとアビー」はアダムとイブを模しているというより、意味合い的には「カインとアベル」の役割を持たせていると思いますが、いかがか?

聖書の内容をすべて網羅しているわけではありませんので、よくわかりません。
「知ったか」で書いているところがあるので、すみません。

「NEXT」を観た後のニコラス・ケイジだったので、衝撃的なくらいによかった印象を受けました。
結論は、好き嫌いがでるかと思いますね。
返信する
現実とシンクロ (ナム茶)
2010-05-23 15:40:59
映画の中でキューバの原油流出映像が使用されていた。実際に起きましたね。もう一度見直したらいかが??
返信する
はじめまして。 (menfith)
2010-05-25 21:58:05
管理人のmenfithです。
返信遅れました。

ナム茶さんは、もしかしたら現実に起こりうる話かもしれない、ということですか?
宇宙人にリセットされるしかないとしたら、確かに人類に生きる資格はないのかもしれませんね。

現在公開中の「運命のボタン」も是非ご覧ください。

「ノウイング」は当分見直すことは無いかもしれません…。
嫌いじゃないんですが。
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