secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アイランド(V)

2009-07-20 21:12:35 | 映画(あ)
評価点:48点/2005年/アメリカ

監督:マイケル・ベイ(「トランス・フォーマー」ほか)

その近未来は、すでに「古い」。

近未来。世界は汚染に支配され、人々は「アイランド」と呼ばれる「約束の大地」の抽選を待っている。
「アイランド」にいけば、しあわせは約束されている。
そう信じられていた。
真っ白な服に真っ白な靴。すべてが真っ白な世界。
ユアン・マクレガー扮するリンカーンは、そんな日々に疑問と不安を覚えていた。
ある日、彼は「世界」を管理している側の現実を知る。
全ては幻であることに気付いた彼は……。

予告編のCMの派手な演出でご存じの人も多いだろう。
近未来、クローンとくれば、だいたいの主題は見えてくる。
この映画も、いまいちブレイクしきれないユアン・マクレガーと、こちらはブレイクしまくりのぽっちゃり系美女、スカーレット・ヨハンソンというキャスティングと、ハリウッド映画的な安心感が売りの映画である。

暇つぶしにはちょうどいいが、観るなら、優先順位は低めでいいとおもう。
 
▼以下はネタバレあり▼

CMなどの予告編でほとんどネタバレしてしまっているという不幸な作品だ。
僕は映画館の予告で観たときに、主人公がクローンなのだということが、すぐに読めてしまった。
そして、すぐあとにその事実を予告の時点で公開するという暴挙を観て、なるほど、そこからどうするかに焦点がある映画なのだろう、と勝手に期待したものだ。

冒頭はいきなり全てが管理された世界から始まる。
この冒頭を観て、純粋に感情移入できた人がいるなら、それはすごい。
近未来という設定、世界が汚染に満ちているという設定がどれだけ説得力があるかは別にして、世界観が極端すぎるのだ。
たとえ、それが造られた世界ではなかったとしても、全然、感情移入できるレベルの世界観ではない。
あまりに不自然すぎる。
すべてが真っ白な服である理由がよく分からない。
そして、彼らに住居が与えられているが、それはまさに「監獄」のそれであり、彼らが生きていける環境だとは思えない。

この映画で失敗している点があるとすれば、この冒頭の世界観の不自然さである。
誰が、こんな不自然な世界を甘受できるだろうか。
人間は、生命は、多様性を求める。
多様性、差異性があるから、自己を保っていられるのである。
これほどまでに均一化された世界で、人間が生きているという設定自体が、すでに感情移入を許さない。

もちろん、これは物語の真相への伏線である。
違和感があればあるほど、明かされる真相に期待するものだ。
しかし、それはCMで明かされている。
それを今さら大げさに演出されても、それは鬱陶しいだけである。
クローンを作り出す工場である事を知っている観客は、むしろ、早く真相にいってくれ、と思ってしまう。

だが、実はクローン工場だった、という真相以降は、単なるアクション映画になりさがってしまう。
ストーリーとしての起伏や新たな真相もない。
あとはいかに現実の近未来を謳歌し、インパクトのあるアクションを見せるのか、という一点のみが鑑賞の動機となる。
さっきまで工場で飼い慣らされていた人間が、そこまで抵抗できるのか、という疑問さえ沸く。

本物を素早い機転で殺すシーンも、「そんなん観たかったんちゃうねん」と思ってしまう。
随所に、近未来を改めて体験するマクレガーの驚きがちりばめられているが、その「先」を知りたい観客としては、なんの心も動かさない。

そして、あれよあれよという間に解決していく。
結局そこにあるのは、人間性や自然の力を忘れるな、どれだけ科学が進歩しても人間性は失うな、という「自然に帰れ」というような、ありきたりな警鐘でしかない。
クローンを解放したところで、どうにもならない。
本当に「良かった」かどうかさえ疑わしい。

オリジナルが徹底的に「悪役」なのも頂けない。
お金があるからクローンを作れる。
お金がある者は、きっと悪人に違いない。
そんな、アメリカ的な思想がありありと見て取れる。

すべてにおいて、「旧」近未来という印象がぬぐえない。
話も陳腐、設定も陳腐。
CGだけでなんとか見せようとしているだけで、何も語っていない。
「トータル・リコール」のほうが、よほど説得力ある未来像を描いていた。

もっと説得力ある「クローン工場」なら、面白かったのに。

(2006/10/11執筆)

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