私はリザーブ(電話待ち)のスケジュールなので、日程は何度も変わることがある。 今回は3日間の遠征かと思いきや、2日間で終わり。 じゃぁ、このままデトロイトにフライトをして終わりなのねと思って少しうれしかった。
コンドミニアムの事や、いろいろ考え事もあるし、家でゆっくりできる。 しかし、デトロイトに戻ると、今度はピッツバーグへ行ってくれとの事で、フライトは既に1時間遅れで満席。 はー。 そして、クルーの名前や社員番号を見ると副操縦士もFA(スチュワーデス、日本ではCA(Cabin attendant)という。 ) も新入社員だ。
こういう時は、いつもよりも自分がしっかりしていないとダメなので気が引き締まる。 聞いてみると、副操縦士Sは訓練を終えてから一番最初のフライトらしい。 まぁ、大丈夫でしょ、故障とかなければ。 乗客がほとんど乗ってきた時に、コクピットには故障のメッセージが。
はー。 整備士を呼ぶ。。。。あまり時間がかからないといいなぁ。 今日はそんなに暑くなかったんだけど、さすが満席のキャビンは補助装置(APU)のエアコンをつけていても暑い。
すでに遅れていて、キャビンが暑くて、 もっと遅れているので乗客のイライラは募る(つのる)ばかり。 まぁ、しょうがないね。 私に出来る事といえば、隠さずに頻繁に状況報告をする事。 すると、FAが”乗客の女性でものすごい勢いで怒っている人がいて、OO時のフライトに変えて欲しいから、降ろせ! ドアを開けろって言う人がいるんですけど。”と困って言ってきた。 少しの故障があるからといって、そんな乗客を降ろしたりというのは手続きが大変だ。 お客さんがFAのいう事を聞き入れないという事で、じゃあその人と話しをしてくる、と私がキャビンへと足を運ぶ。 副操縦士は、”僕も行きましょうか?”と言ってきたが、そんな事1人で出来る事なので断る。
忙しいのにと少しイラついた顔をして通路を歩いていく。
”All right. Who's got a problem here?” (不満がある人は誰ですか。)と胸を張って聞くと、その女性は
”I do!” (私よ。)
と言って不満をすごい勢いで言って来た。
”
このフライトは1時間も遅れているし、その上暑いし、もうこの飛行機には乗りたくない!降りる!” と私の話も聞かずに爆発してる。 もう聞いていたくないので、
”Listen to me. Stop. Listen. I have to tell you something.” (聞いてください。 私の話を聞いてください。)と少し強めの声で言うが、なかなか落ち着かない。 やっと、静かになったので、
“You are right. It's our fault and it IS hot back here. I am sorry. It's not YOUR fault. I will call the gate agent and see what we can do, OK? Just be patient for now please. ”
(そうですね。 遅れてますし、暑いですね。 私達のせいです。 すみません。 ゲートの係を呼びますから、今は我慢してくださいね。 )
と、謝る。 普通の機長だと、’ふざけんなぁ’という勢いで、言う事を聞かないと乗せないぞって大きい態度での対応なんだけど、私の姿勢としては、取りあえず優しくしてみる。 すると彼女は子供のように腕を組んでふくれた顔をして前を向いたが静かになった。
機長である事がうれしい理由の一つは、自分がしたいように接客を出来る事。 アナウンスも冗談を交えてする。 自分が副操縦士だと、どういう機長と飛んでいるかという事をよく考えてから冗談をいれるか決めなければいけないのだ。 例えば、整備士が”30分程度で出発できるはずだ。”と言った時は、
”
Ladies and gentlemen, the mechanic has informed me that it should take no longer than 30 minutes..... do you believe that? (I could hear, “No!” and some laughing from the cabin.).... because I don't. Let's just say 45 minutes, so if it's done in 30 minutes, that would make me happy.” ( 皆様、整備士はあと30分以内で修理を完了する事が出来ると言っています。。。。。その言葉を信じられますか? (客室からは、笑い声と一緒に、”NO”の声が。。。)私は信じてません。 取りあえず45分かかると思っておきましょう。 30分で終わったら、それはそれで嬉しいですから。) などと。
結局修理は35分程度で完了、そのまま無事目的地に到着した。 はー疲れた。 それにしても、頻繁にアナウンスをして状況を報告するというのはとても大切な事で、降りていったお客さんや、ただ乗りの乗務員達はみんな”You do a great job.”と笑顔で言ってくれた。