2018年6月以来およそ6年ぶりに指揮台に鈴木秀美を迎え、さながらウイーン古典派からロマン派への発展過程を示すような教科書的な選曲だ。とは言え演奏の方は「教科書的」という言葉から想像されるような味気ないものではなく、古典派ならではの音楽の喜びに満ち溢れた大層魅力的なものだった。冒頭に置かれたハイドンの交響曲第12番ホ長調は、作曲当時のエステルハージー家の楽団の規模に相当する20名にも満たない小編成で奏でられた。ビブラートを極力排した弦楽器の瑞々しい音色に、ニュアンス豊かな木管群が綺麗に調和し、ハイドンの魅力を十二分に感じさせる秀演だった。続く92番ト長調「オックスフォード」は、12番から26年の歳月を経て作曲された傑作だが、弦が増員されると同時にトランペットやティンパニも加わって、ぐっと厚く華やかな音色になった。しかし演奏に作為的なところが一切ない演奏なので、熟達した作曲家の筆致の変化が見事に浮き彫りにされ、ここでは比較の妙を楽しむことが出来た。休憩を挟んで、ロマン派への橋渡しと言えるようなベートーヴェンの交響曲第7番イ長調作品92が演奏された。これもこの大作曲家の姿を忠実に伝えるような良心的で爽やかな演奏だった。ピリオド・スタイルの演奏とは言いながら、余計な誇張や風変わりなイントネーションは一切ないので、曲自体の良さを安心して感じることができるのが何よりも嬉しいことだ。こうしたスタイルを聞くと、当初は物珍しさが目立っていた「古楽奏法」もずいぶんに熟してきたものだと感じさせる。演奏は楽章を追うごとに熱くなっていったが、決して一線を踏みはずすことなく「典雅な」美しさを維持して終わったのは流石である。ただおもしろかったのは、一楽章とニ楽章をアタッカでつなげたことだが、どうせそれをやるなら3楽章と4楽章もつなげて欲しかった。いつまでも続く大きな拍手に指揮台に飛び乗って、何とアンコールはAlleglo con brioの最初の1小節だけ!何ともハイドンばりのウイットに会場は沸いた。
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