1975年の旗揚げ公演以来、年2回珍しいオペラを定期的に上演し続けて日本のオペラ界に並々ならぬ貢献をしているTOPであるが、今回はフランコ・アルファーノの「シラノ・ド・ベルジュラック」全曲日本初演である。この作品、今年2月のヴェローナ・ディ・アレーナ来演時に、四幕だけが他のオペラの名場面と抱き合わせでドミンゴによって歌われたと記憶する。アルファーノと言えばプッチーニの「トゥーランドット」のフィナーレを補筆した作曲家として有名であるが、今回そのオペラ作家としての実力を知る機会が我々に与えられたことは誠に有難い。四幕構成の大作であるが、一幕の剣豪にして詩人の主人公のバラードを読みながらの鮮やかな立ち回り、二幕のバルコニーシーン、三幕の戦場へのクロサーヌの登場、そしたあまりにも有名なクロサーヌが全ての真実を知る第四幕の幕切れと、各幕にきちんと見せ場が用意されていて舞台としては飽くことがない。歌詞はフランス語で音楽は補作のフィナーレを思わせるところもあるが、時としてドビュッシーの「ペレアス」風の流れの良いロマンティックなもの。今回初日は、何より主役のシラノを好演した土師雅人の歌唱、演技共に堂に入ったプリモ振りが全体の牽引力になった。また相手役のロクサーヌを演じた鈴木慶江の清楚な役作りと美しい歌唱も好もしく、とりわけ後半で力を発揮した。3回の休憩を含め3時間を超える長さではあったものの、原作の素晴らしさと相まって感動的な舞台となった。とりわけ美しい夕闇のフィナーレに至っては、文武両道を極めたが容姿にコンプレックスを持ったシラノという一人の男の生きざまが、駆け寄り優しくシラノを抱き上げ涙するクロサーヌの存在に淡く投影され涙を誘った。これは余談であるが、バルコニーシーンでは口づけを求めて駆け上がるクリスチャンの梯子が折れるというハプニングがあったが、大きな事故にも音楽の停滞にもつながらなかったのは本当に幸運であった。
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