毎夏の恒例になった草津の音楽祭に今年もやってきた。ノロノロ台風10号の来襲で生憎の天気ではあったがその分涼しい草津は酷暑に疲れた体には大層楽であった。今年のテーマは”モーツアルト〜愛され続ける天才”だ。28日は”ショロモ・ミンツが奏くモーツアルトの協奏曲”と題されたコンサート。一曲目にモーツアルトのアダージョとフーガハ短調K.546、二曲目はこの昨年9月に惜しくも逝去した前音楽監督の西村朗を引き継いで音楽顧問に就任した吉松隆の「鳥は静かに・・・」。それは朋友西村との死別に寄せる悲歌にも聞こえた。続いたバイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218でのミンツの歩みは、通常の闊達なモーツアルトとは一味も二味も違うジックリと丁寧に噛んで含めるような独特なスタイル。そして打って変わってアンコールはH.W.エルンストの「無伴奏ヴァイオリンの為の重音双方の6つの練習曲」から第4番。これはもう超絶技巧満載で、ミンツの腕にかかると練習曲も立派なアンコールピースになってしまう。最後は交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」。指揮の飯森範親は得意のピリオド奏法を導入して群馬交響楽団を操ったが、全体的なスタイルは中道的で、スコア細部の音の綾も明快に響かせてつつ重厚さも兼ね備えた成熟した音楽を聴かせた。翌29日は”ピアノと室内楽/モーツアルトからベートーヴェンへ”と題されたコンサート。ここではハイドンの弦楽四重奏曲第78番変ロ長調作品76-4「日の出」とモーツアルトの弦楽四重奏曲題19番ハ長調K.465「不協和音」、そしてモーツアルトのピアノと木管のための五重奏曲変ホ長調K.452とベートーヴェンのピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調作品16という同時代の同種の楽曲の聴き比べが楽しかた。それは3人の作曲家の個性、音楽書法の進展の様子を耳で確かめる絶好の機会となった。演奏はクアルテット・エクセルシオ、クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)、トマス・インデアミューレ(オーボエ)、四戸世紀(クラリネット)、水谷上総(ファゴット)、西條貴人(ホルン)という熟達の面々。最終日は午前中にアカデミーの優秀者によるステューデント・コンサートがあった。これから世界に羽ばたくであろう若い才能を見聞きできるのは本当に楽しい。今回とりで登場しサンサーンスの「序奏とロンドカプリチオーソ」を披露したバイオリンの星野花さん(指導ショロモ・ミンツ)は、最近イローナ・フェへール国際ヴァイオリン・コンクールで第二位を受賞したこの2022年以来のアカデミーの常連。こうした大向こうを唸らせる演奏も良いのだが、冒頭に登場した石井愛理さん(指導クラウディオ・プリッツ)によるチェンバロの自然な呼吸が誘う極めて流れの良いヘンデルの組曲ニ短調も心に残った。そしてその午後の”グラン・パルティータ〜トーマス・インデアミューレ”と題されたクロージングコンサートが今年の音楽祭の最後を飾った。ハイドンのディベルティメントニ長調、モーツアルトのディベルティメントヘ長調K.253、同じくセレナード変ホ長調K.375が前半でトマス・インデアミューレ、若木麻有(オーボエ)、水谷上総、佐藤由起(ファゴット)、西條貴人、松原秀人(ホルン)という演奏陣。後半はモーツアルトのセレナード第10番変ロ長調K.361「グラン・パルティータ」なのだが、これがアントニー・シピリのピアノ、トマス・インディアミューレのオーボエ、カリーン・アダムのバイオリン、般若佳子のヴィオラ、チェロのエンリコ・ブロンツイによる五重奏版で演奏された。編曲者はC.F.G.シュヴェンケという人だが、これが中々と良く書けた佳作で、小編成とは言え名人達の演奏のせいもあってか大層楽しく、この音楽祭のトリに相応しく盛り上がった。
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