
札幌交響楽団の首席客演指揮者としてお馴染みのラドミル・エリシュカが東京フィル定期に登場した。エリシュカは、2004年の初来日でこの楽団の地方公演(狭山市)を一度指揮したことがあるとのことだが、最近では昨年の2月にN響に突然登場して「我が祖国」全曲の名演を残したことが記憶に新しい。今回の選曲もその時と同じお国もので、スメタナの「売られた花嫁」から3つの舞曲、スークの組曲「おとぎ話」、そして「新世界より」という、あたかもチェコの音楽史を綴ったかのようなものであった。郷土色や郷愁をあえて強調しない、清廉潔白な音楽の印象はN響登場時といささかも変わらないが、オーケストラがより柔軟で反応の早い東フィルになったことで、格調のなかにもしなやかな感性が見え隠れするようになったのは誠に好もしい。とは言え感情に流されて間延びするようなことは一切なく、大きく、厳しく、しかも誠実に音楽に立ち向かう。最初のスメタナでは、東フィルの音色が中欧的に変身して3つの舞曲を鮮やかに描き分けた。二曲目のスークは日本では滅多に聴く機会のない曲であったが、元は戯曲の付随音楽でありながら純音楽的にも多彩に構成された傑作で、情景を純化した作曲家の腕前を十全に引き出した見事な演奏だった。最後の「新世界より」は正に王道を行くような立派な音楽。熱い思いを秘めつつも決して感情に溺れない純音楽的な格調の前には、思わず居ずまいを正さずには聴いていられない。盛大な拍手に定期には珍しくスラブ舞曲15番が華やかにアンコールされて終演となったが、一人で拍手を受けず、オケに向かって一所懸命自ら拍手するような素朴なマエストロの人間性を反映した温かい雰囲気の演奏会となった。