第90回日本音楽コンクール・ピアノ部門で2位に入賞した佐川和冴を迎えた定期だ。そのコンクールの折に、佐川の音楽性に惚れ込んだ指揮者とシティ・フィルのリクエストによって実現した演奏会だということ。最初はバルトークの弦楽のためのディベルティメント。どんな難曲でも現在の高関+シティ・フィルならば極めて高水準に演奏できることを示した典型的な演奏だ。完璧なアンサンブル。そして充実した弦の響き、とりわけ久しぶりで姿を見るチェロの長明首席を含む低弦の充実には目を見張った。ニ曲目はモーツアルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調。佐川の独奏は極めて雄弁で、最初から装飾音が散りばめられる。ベートーヴェンを思わせる太い響きなのだが、一方で細部は驚くほど小気味良く指が回る。ちょっとランランを思わせるステージ・マナーで聴衆を惹きつける外連味がある。しかし音楽はそれに引代えスタイル的には案外真っ当なのだが、いささか外面的にも聞こえてしまったのはヴィジュアルのせいか。オケはそんなスタイルに合わせてかコンバス6本の大編成で雄大に力強く合わせてゆく。映画にも使われ有名になったAndanteのせいで優美なイメージが定着したこの協奏曲の新たな側面を聴かせてもらった。大喜びの聴衆の盛大な拍手にアンコールはシュトラウスのワルツのパラフレーズ(グリーンフェルトの「ウイーンの夜会による変奏曲」という作品だそうだ)。ホロヴィッツ並のグランドマナーで会場を沸かせた。休憩を挟んでこの日のメインはドヴォルザークの交響曲第8番ト長調。これは実に立派な演奏だった。理想的なバランスで全ての楽器が立派に鳴り渡り、ニュアンス豊かな木管がそれに華を添える。ここまでやってくれればもう何も言うことは無い。(カラヤン+ウイーン・フィルの名盤にだって立派に比肩しうる!)この曲の純音楽的な完成度を実感した40分だった。だたこうなるとトランペットとホルン・セクションの主力奏者(首席を含む)の休団が誠に痛い。まさに画龍点晴を欠くとはこのことだ。
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