今回は、一昨年コロナで中止になった335回定期演奏会のリベンジ公演と言った意味合いの選曲である。この団の首席客演指揮者藤岡幸夫が得意とするイギリス音楽と吉松作品を振った。スターターはディーリアス(フェンビー編)の「2つの水彩画」。ディーリアスの合唱曲を死後に朋友フェンビーが編曲した作品だ。これは穏やかな心安らぐ佳作の愛情溢るる演奏だった。続いての吉松隆のチェロ協奏曲「ケンタウルス・ユニット」作品91は三楽章構成の気宇広大な作品だった。日本の現代音楽シーンに於いて、メロディーメーカーの定評がある吉松であるが、この作品は単に親しみ易いだけでなく、中々変化に富んでいてカッコヨイ傑作ではないか。宮田大のチェロ独奏がまた素晴らしく、剛柔併せ持った「聴かせる」表現で手練手管を尽くしたオケパートに立派に対峙した。アンコールはバッハの無伴奏一番と童謡調の曲をコラージュした小品。素敵なプレゼントだった。最後は藤岡が大好きだというヴォーン・ウイリアムズの交響曲第3番「田園交響曲」だ。プレトークで、ヴォーン・ウイリアムズというと眠くなるイメージがあるが、今日は寝かさないと豪語していたが、実際に実に饒舌な表現で、退屈させる瞬間が一時も無かったのは驚くべきことだ。活躍するソロ・トランペット、ソロ・ホルンのみならず、木管群も実に魅力的な音楽を作っていて、誠に曲の価値を再発見させてもらった。体調不全の半田美和子の代役で急遽ヴォカリーズを担当した小林沙羅は、前日のオファーで、それゆえゲネプロだけの合わせで本番に立ったということだったが、立派に役をこなした。この曲は作曲者が共に参戦した第一次世界対戦での友人の戦士を悼んで作曲されたと言われているが、時正にロシアがウクライナに攻め入らんかとする状況の中で聞くと、全体を包む奇妙に安らいだ曲調がなお一層心に強く染みた。
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