そもそもコンヴィチュニー演出によるR.Strauss「影のない女」のワールド・プリミエの筈だったのだが、新型コロナの影響で外人制作チームの来日が叶わず準備ができないということで、やむなく急遽演目変更された公演である。その演目は2002年初演の宮本亜門演出による「フィガロの結婚」である。これは二期会の誇る名プロダクションで、初演以来今回を含めて4度の再演を重ねることになる。プログラムによると、演出の宮本にとってはこれがオペラ初作品だったということだが、回を重ねているだけあって実にこなれていて、舞台上の全ての動きが音楽と同調して快いテンポで進んでゆくことが何とも心地良い。そしてそうした中から専制君主への批判やら虐げられた女性の地位の回復といったダ・ポンテが脚本に仕込んだテーマが透いて見えてくるという次第だ。これはー見れは見れば見るほど宮本のモーツァルトに寄せる深い愛情を感じる、そんな舞台であった。今回の表チーム(9日と12日)の出演者は概して皆若く、同時に歌役者が揃っているだけに、実に生き生きした舞台が繰り広げられた。川瀬賢太郎+新日フィルのピットも溌剌とした演奏でそれを盛り上げた。(前回の「こうもり」の時の力みが消えて聞きやすくなったのは良かった)とりわけ新鋭宮地江奈のスザンナは歌唱・演技ともに出色で全体を牽引した。小林由佳の歯切れ良く爽やかなケルビーノも聞き物だった。おっとりしたフィガロはどこか往年のヘルマン・プライを思わせる風貌の萩原潤でとても安定したできだった。大沼徹の伯爵は悪役に徹した役作りを好演した。伯爵婦人は気品ある出で立ちの大村博美だったが、歌唱的にはいささか不調だったようで残念だった。とは言えこれは些細な傷で、全体としては滅多に見られない程充実した、バランスの取れた良い仕上がりの舞台で、3時間半の長丁場が大きな感動と共にあっという間に過ぎた。
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