月刊ブリコラージュ5月号に連載中、「生活リハビリの達人」への道 第4話 「フロフェッショナルになれ」書きました。全文掲載します。
Mission4 「フロフェッショナル」ニナレ! (後篇)
登場人物
僕:新人介護職 平成生まれでゆとり世代。お年寄りとの関わりに苦労している
メデシン仙人
実はこの図「生活行為を規定する要因」から飛び出てきた
新人介護職の「僕」になれなれしく話しかけてくる自称、生活リハビリの達人
的確に助言してくれるがダジャレにうんざりさせられる。
できる動作を見極める「目」
環境を整え、介助する「腕」
やる気を引出し、支える「心」
この目(メ)・腕(ウデ)・心(シン)が名の由来。
なぜ入浴は一番難しいか?
僕が施設入所のお年寄りAさんの入浴介助で困っていたら、例によって煙の中から、メデシン仙人が現れました。そして言いました。「お前が困るのも当然じゃ。入浴は生活動作で一番むずかしいからな。なぜかわかるか?」
メデシン仙人の質問に僕は考え込んでしまいました。入浴ですか?そうですね。お風呂に入ってもらうときに、ツルツルすべったりして、あぶない時があります。家庭での死亡事故は入浴中が一番多いと聞いたことがあります。それに人前で服をぬぐなんて誰でも嫌です。人に体を全部洗ってもらうなんて恥ずかしいじゃないですか?
仙人は満足そうな顔で言いました。「だいぶ自分の頭で考えることができるようになったようじゃな。」お風呂は生活の中で一番難しいのは、あの湯船につかった姿勢じゃ。しゃがんでお尻が地面につく姿勢は車椅子に乗っている人にとって、生活の中では全くありえないこと。だから浴槽の出入りは、生活の中ではウルトラC級にむずかしい動作じゃ。筋力のない人に床から立ってもらうとき、お前はどういう介助をしている?
「そうですね。えいや!っと持ち上げるしかないですね。」
「アカンアカン!それだから、腰痛の介護職が後を絶たぬのじゃ。立ち上がりの3条件を知っておるか?」
いえ、知りません
ポンッとメモの切れ端を仙人は手渡してきました。
仙人から渡されたメモ「立ち上がりの3条件」
一、前かがみの姿勢
二、足を引く
三、その人に合ったイスの高さ
「これを暗唱できるようにしておけ!立ち上がりに苦労している人をみかけたら、まずこの3条件を必ず揃えるのじゃ。見違えるように立てる人がでてくるぞ!」
そして風呂ではこの3条件のうち一つは捨てなければならん。何かわかるか?
「えーっと、わかった、その人に合ったイスの高さです。」
「その通り!床に尻がついているから、条件の③『その人に合ったイス』はない。
その代り味方になってくれるものがある。なにかわかるか?」
「浮力ですか?」
「正解!そう、残りの二条件、『前かがみの姿勢』、『足を引く』ができたら、フワーっとお尻が浮いてくる。その時浮力が味方になってくれるぞ」
ケアに役立つ解剖学
仙人からさらに質問がありました。「さて、立ち上がりの条件を整えたら、お年寄りの身体のどこを持たせてもらおうか?普段、お前がやっているように、ズボンをギュッと握ってひっぱるようなみっともない介助はできんぞ。」
「そ、そうか裸だもんな。腰ひもを巻いて、それをギューッと引っ張る!」
「ダメダメ!裸でも支えやすいカラダの場所がある。そこを教えてやろう。裸の人を支えるためには体の出っ張り部分をしっかり知っておくのじゃ。解剖学を知るとケアに役立つぞ」
仙人は骨盤の絵を書いて、「こことここじゃ、大転子と坐骨結節はすぐにさわれるようにしておけ!
こういった骨のでっぱりをとらえて、支えるんじゃ!」
仙人は興奮して僕のおしりをつかんできました「わっお尻を触らないでください」
「バカ言え!真面目な話をしておるのじゃ」仙人を追い払って自分で触ってみました。なるほどここは介助の時に支えてあげやすいところだと思いました。皆さんもぜひ自分の大転子と坐骨結節を触ってみてください。
そして仙人は僕が困っていたAさんをなんなく風呂からあげて見せたのです。
Aさんは僕がじょうずに介助したと勘違いし、「今、簡単に風呂から上がれたわい。おおきにのう!」とお礼をいってくれました。僕は「どういたしまして」と、ちょっと後ろめたい気持ちで返事をしました。
仙人がおススメの入浴介助法 立ち上がりの環境を整え、浴槽から出る。風呂をあきらめていた人が肩までつかれる!
仙人は僕に耳打ちしました。「よいか、こんなふうに介助したら多くの人が肩までつかって『極楽極楽』って言える風呂が実現すると思わんか?」「はい、たしかに。今の方法でほかの人にも入ってもらえそうだと思いました!」
「よし、その心意気じゃ!お年寄りに『おぉ!病気してもこんな風呂に入れた!今度は温泉でも行ってみようか』なんて思ってもらえたら、生活空間は一気に広がるぞ!そんな風呂を実現するものこそ・・・フ」僕はおもわず割り込みました「風呂フェッショナル!」「・・・それ、わしの台詞(セリフ)」仙人はすねてしまいました。謝っても、ダジャレをとられた悔しさでいじけているようでした。僕はかわいそうになり「そんなに拗ねないでください。仙人、またいろいろ教えて下さい」とフォローをしました。「えっ?まだ教えてほしいて?あのなーわしも忙しいんじゃぞ」嫌な予感がしました。背中をむけていた仙人が洗面器をもってニンマリ笑いながら僕に近づいてきたからです。「そうか、そんなに教えてほしいか。まーしょうがないな」仙人はその洗面器を高々と天にかざして自信満々にいいました。「オッケー!」(・・・でた~、桶でオッケー)寒いダジャレはせっかく入浴で暖まった身体を急速に冷やします。すぐお年寄りのAさんと脱衣場に避難し、お風呂のドアをピシャリと閉めました。しかし、かすかに仙人の声が聞えています。「次回は人の動きを見極めるレッスンじゃ。アーユー桶?」まだ風呂場でダジャレを言っているようです。
参考文献 新しい介護 講談社 大田仁史 三好春樹
図解 関節・関節運動器の機能解剖 協同医書出版社 J.CASTAING