松本健史の「生活リハビリの達人」になろう!

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地域リハビリテーション5月号 生活リハビリの技術論

2010年07月14日 | Weblog
~入浴のプロ、フロフェッショナルへの道~ 
入浴にスポットを当てようと思います。
介護現場で介助量の多い方は電動で「ウィーン、ジャブジャブジャブ」と入れてしまう特別浴槽(略して特浴)が幅をきかせています。もちろん入浴方法の選択肢として否定されるものではありませんが、できるだけ本人さんの持っている力を引き出す環境設定が望ましいと思います。「どうしたら気持ちいいお風呂の環境設定ができるのですか?」という質問もよくいただきます。今回は入浴の環境設定と介助のポイントについて書いてみようと思います。


こうすれば入れる!お風呂の環境設定
イスでの座位保持が介助にて可能であれば、案外簡単にお風呂に入ってもらえます。デイサービス「生活リハビリ道場」では洗髪・洗体するイスの高さを40cmにして、浴槽の高さをそのイスの高さに合わせ15~20㎝埋め込んだヒノキの個別浴槽を用意しています。これを「半埋め込み式浴槽」といいます。別の施設では機械式で入っていた、という人でもこの浴槽の使用をきっかけに入浴動作を取り戻せる方も多く、生活リハビリを行う上で非常に有効な手段だと筆者は考えています。

ケアの原則 生活習慣を大切にする
 入浴を機械に頼らず介助するとしても介助者に自信がないと介護されるお年寄りは不安になってしまいます。恐怖感を持ちながらお風呂に入ってもらうぐらいなら機械式で安全に入ってもらった方がいいでしょう。しかし、できるだけ環境を整え、技術を磨き、肩まで浸かる入浴を実現するという方向性は大切にすべきだと筆者は考えます。その理由は我々が「何のために介護をするのか」という原点に立ち返ると自ずと見えてきます。筆者が迷ったときに必ず立ち返る原則に「ケアの三原則」というものがあります。

ケアの三原則 
  ①寝たきりにしない、させない
  ②主体性・個性を引き出す
  ③生活習慣を大切にする
 高口光子 「リーダーのためのケア技術論」 関西看護出版 より
 
 この原則を今回のテーマ「お風呂」に当てはめてみるとどうでしょうか?
多くの日本人にとってお風呂は湯船に浸かってほっと一息できるリラックスタイムです。欧米人が清潔のために行うシャワー浴とは一線を画しています。しかし、介護や医療の現場では入浴は「清潔のため」が主目的になりがちで、リラックスするのは二の次になっています。いわばここだけ「欧米化」しているのです。清潔のためだけの入浴というのはあまりに味気のない淋しいものに思えます。どんなお風呂がのぞましいかといえば一日の疲れが癒され、反省ができ、時には詩人になれる。時には歌手にもなれる・・・そんなお風呂がいにしえから温泉文化を持った日本人のメンタリティと合致するのではないでしょうか?いままでお風呂に肩まで浸かっていた人にとって、機械で入るお風呂はまったく生活習慣にないものです。「ケアの三原則」の③生活習慣を大切にするから考えれば、機械式入浴はなるたけ避けるべきなのです。このように介護現場で迷ったときには「ケアの三原則」に照らし合わせて、みんなで考えることをオススメします。きっと、この3原則が羅針盤のように進むべき方向を指し示してくれるはずです。

施設が変わった!手づくり個別浴槽の記録
私がリハビリアドバイスを行っている老人ホームT苑では「生活習慣を大切にしよう」と職員が一念発起し、個別浴槽を導入しました。生活リハビリ道場に見学実習に来てくれたT苑のヒロノ君(写真2)が自分の施設だったら機械式浴槽で入浴しているであろうお年寄りが、ここでは個別浴槽で気持よさそうに肩まで浸かっているのをみて、「この設定だったら誰でもお風呂に浸かってもらえるんですね~」と汗をふきふき、感動して帰っていきました。それから自分の施設でこの体験を話し、入浴委員会で検討し、浴室の空いたスペースに個別浴槽を置き、入りやすいお風呂(半埋め込み式浴槽)を手づくりしてしまいました。そして職員同士で入浴介助の練習を行い、お年寄りに肩まで浸かる気持いい入浴をとうとう実現したのです。よく自分の施設の環境が悪いと嘆く職員がいますが、環境は「自分たちの手で変えていくことができる」「手づくりすることができる」ということをこの取り組みは教えてくれています。

 入浴動作の介助は介護者の技術・観察力を鍛える最高の教科書となります。その人に合った環境をつくり、力を引き出し、個性豊かな入浴を実現できる、そんなフロフェッショナルを目指しましょう!

参考文献 
月刊ブリコラージュ 175号2009年3月号 ガチンコ現場主義10 介ノ花咲カセマショ!
          個別浴槽導入奮闘記 松本健史
高口光子『リーダーのためのケア技術論』(関西看護出版)
リハビリテーションからみた介護技術(中央法規)野尻晋一著 山永裕明監修