紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【借りぐらしのアリエッティ】をレビューしてみる

2010-08-14 23:49:31 | その他
スタジオジブリ最新作【借りぐらしのアリエッティ】を観てきました。
結論から言うと、すごく良かったです。

正直、「千と千尋の神隠し」の頃からのジブリ作品は、宮崎監督の思想めいた部分
(地球環境や現代社会の問題への警鐘や、物語としての解釈の多様性)
が強調され過ぎてるような感じがして、イマイチ楽しめなかったんですが、
今回の「アリエッティ」は思想めいた部分が少なく、単純にアニメーション作品
として楽しむことが出来ました。

というのも、この「アリエッティ」が初監督となる米林宏昌さんは
ジブリで一番上手なアニメーターさんらしく、強い主張や思想を持たない人
でもあるので、ジブリ最大の強みである美しい背景とよく動くアニメーションを
変な思想に邪魔されることなく、ニュートラルな気持ちで楽しむことが
できる作品になったのだと思います。

経験の浅い監督が思想を全面に押し出すと、えらいことになります。
思えば、宮崎駿監督の息子・宮崎吾郎初監督作品の「ゲド戦記」は
監督のよくわからない消化不良な思想がアニメーションの邪魔を
しまくっている残念な作品でした。

「アリエッティ」は「ゲド戦記」のようにぐちゃぐちゃにはなっていないので
その点でも安心して観ていただけるかと思います。

では、本題である【借りぐらしのアリエッティ】のレビューを開始します。
よろしければ、お付き合いください


  【借りぐらしのアリエッティ】概要

古い家の床下にくらす小人の一家。アリエッティとその両親。
小人たちはくらしに必要なものはすべて床の上からの人間から借りてくる
「借りぐらし」の身である。
しかし、貸してくれと人間に頼みにいくわけではない。
「人間に姿を見られてはいけない」
それが、借りぐらしをする小人の掟。
人間が寝静まった夜、小人は「借り」にでかける。
鼠や猫の危険をかいくぐり、釘のはしごを昇り、
戸棚と戸棚の谷間を飛び越え、あらゆる道具を駆使して
そびえたつテーブルの上へよじ登り、わずかばかりの角砂糖などを
得るのである。
14歳になったアリエッティは、父親とともに初めての「借り」に出る…。


以上が、【借りぐらしのアリエッティ】の物語の概要です。
小人目線で、人間の生活空間を見るというコンセプトですね。
アニメーション作品としては恰好の題材なのかもしれません。
実際、アリエッティと父親が「借り」に出る場面では、
床下から台所に出るまでに、鼠をかわしたり、高い段差を道具を駆使して
登ったりと大冒険感が伝わってきて、観ててワクワクしました。
この高揚感は「天空の城ラピュタ」で、パズーがラピュタ内を探索する
ときと似てます。スケールの大きさは全然違いますけど・・・。
「狩り」と「借り」をかけてるのもシャレが効いててステキです。

はっきり言って、物語のスケールの大きさはジブリ作品のなかで
「過去最小」です。小人が主人公なだけに。
「アリエッティ」の物語はすべて、「古い家とその周辺」だけで完結します。
登場人物も極端に少ないです。
でも、その狭い世界を小人の目から見るので、一転して大冒険になるわけです。


  美しいアニメーション

まぁ、ジブリ作品なので言うまでもないですが、アニメーションが美しいです。
人物の髪の毛の毛先単位で動くジブリの細かい職人芸は健在。
最近の宮崎駿監督作品によく見られるドロドロした液体の
気持ち悪い動きは今回は控えめですが、涙や雨粒、飲み物の
ぷるぷるした液体のアニメーションは、いかにも「ジブリ!」って感じがします。

あと、背景。背景にも定評のあるジブリ。
緑の生い茂る古い家とその周辺だけが舞台なので、ラピュタやもののけ姫、
ナウシカのようにロケーションはどんどん変わってはいかないんですが、
ただの茂みが小人にとっては、大きな森。古い家は大きな迷宮であるので、
ロケーションは変わらずとも、場面ごとに背景の印象はがらっと変わって
飽きないです。

アクションシーンもあるでよ!


  魅力的なキャラクター

登場キャラクターたちも魅力的です。登場数少ないですが。
まず、アリエッティ。

 「可愛い!」

それに尽きます。
ちっちゃいからかもしれませんが、ジブリヒロイン最大の可愛らしさ
ではないでしょうか。
ジブリヒロインらしく気も強いですが。
何にでも興味を持つ、好奇心旺盛な元気っ子で、見ていて気持ちがいいです。
でも、憂い顔や泣き顔のシーンもあります。
また、普段着モードと、借り装束モードの2パターンがあり、
普段着モードでは髪を下ろしていて、
借り装束モードでは洗濯バサミの髪止めを使ってポニーテールになります。
どっちもイイ!

声を演じる志田未来さんの声も、ぴったり違和感なくハマってます。
ジブリ作品は本職の声優さんをほとんど使わないので、よく声に違和感を
覚えることが多かったのですが、アリエッティは大丈夫でした。グッジョブ!

アリエッティのお父さんは口数の少ない、威厳のある親父タイプです。
言葉は少ないですが、家族を大切にしている感じが行動に出ていて
見ていて本当に頼もしさを感じさせてくれます。
アリエッティの初めての「借り」では、アリエッティに「借り」の
ノウハウを言葉で説明するのではなく、行動で教えます。
「父の背中を見て学べ!」というやつです。
これがマジで格好良い!
ナウシカのユパ様と双璧をなす格好良さです。

アリエッティのお母さんは、父娘とは対照的に非行動派。
少し心配性でおっちょこちょいだけど、いるとほっとするような
そんなお母さんです。

アリエッティと出会い、交流することになる人間の少年・翔は
心臓に疾患を持っています。
病弱で孤独な彼は、見ていてオイオイというような行動を
最初の方はとってしまうのですが、アリエッティとの交流によって
心境が変わってからは一転して頼もしくみえるようになるので不思議ですね。
神木隆之介くんのはかなげな声も良い感じです。


  日用品を使ったギミック

アリエッティたちが過ごす床下では、人間が使うさまざまな日用品が
小人用に加工され、有効に使用されています。

 ガラスびんを明かりとりに使ったり
 紅茶缶を改造してタンスとして使ったり
 水道管からたれる水滴を灰皿で受け止めて貯水したり
 切手を絵画のように壁に貼ったり
 マチ針を武器として腰に挿したり
 植木鉢を換気扇として、調理場で利用したり
 ミシンのボビンを滑車にして昇降機として利用したり・・・

なかには思いもよらない使い方をされてる道具もあって感心してしまいます。
これらの道具はすべてアリエッティのお父さんが加工しているようですが、
小人たちの創意と工夫がそこに表れていて、見ていて面白いです。
作中で登場せず、設定資料にのみある道具もたくさんあるとか。
そんな・・・。設定資料が欲しくなるじゃないか!

アリエッティのお父さんがテーブルをよじ登るとき、手足にテープを巻いて、
貼り付きながら登っていったり、フックつきロープで高所から飛び降りたり
というギミックを使ったアクションは、「ちびロボ!」とか「ワンダと巨像」
みたいなアクションゲームが好きな人にとっては燃えますよ!


  美しい音楽

「アリエッティ」の音楽は、ジブリ恒例の久石譲さんではありません。
そこ、ガッカリしない!

「アリエッティ」の音楽を担当されているのは、フランス人の
ハープ奏者・歌手であるセシル・コルベルさんという女性の方です。
主題歌も自身で歌っています。
この主題歌もそうですが、劇中曲もすべて美しいんです。
ケルト音楽というやつですね。
弦楽器の旋律がとても幻想的で、作品によく合っていると思います。
ラストの主題歌がかかる場面はとても素晴らしいです。
主題歌のボーカル無しの旋律は、劇中よくかかっているのですが、
それがラストでボーカルの乗ったメロディが壮大に流れると
脈絡なく涙腺が刺激されます。
泣く場面じゃないんですけど。音楽の力で涙腺がこじあけられそうになる
感覚は、ちょっとスゴイと思いました。



・・・とまぁ、いろいろ語ってきましたが、ここらでやめときます。
言うても、ラピュタのような物語の壮大さは無いし、
宮崎駿監督作品全般に見られるテーマ性や解釈の多様性なども薄いので、
ここで「最高傑作や!」みたいなことをつらつら書いても
偉い人には一笑に付されるだけでしょうから。
でも、地味ながらアニメとして相当優れている作品だと思います。
ブルーレイ出たら欲しいな、とか設定資料集が欲しいな、と思えた
ジブリ作品は「アリエッティ」が初めてだったので、正直自分でも
驚いてます。

宮崎駿監督は、現役で監督を務める作品はあと一作品で最後だろうと
おっしゃられているようで、後継者探しありきで今回の米林監督を
「アリエッティ」の監督として抜擢したそうです。
宮崎監督が「アリエッティ」をどう見たかはわかりませんが、
僕は宮崎監督がいなくなった後のジブリにも期待が持てる気がしています。

拍手ボタン
記事が面白かったらポチっとよろしくです。

借りぐらしのアリエッティ サウンドトラック

借りぐらしのアリエッティ サウンドトラック

価格:2,500円(税込、送料別)



Kari-gurashi~借りぐらし~

Kari-gurashi~借りぐらし~

価格:2,500円(税込、送料別)



借りぐらしのアリエッティ

借りぐらしのアリエッティ

価格:1,300円(税込、送料別)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【幽遊白書】蔵馬の物語を追... | トップ | 【ゼロ年代 珠玉のアニメソン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

その他」カテゴリの最新記事