「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」 (2007年・アメリカ)
ホラー映画の古典的ジャンルであるゾンビ映画の草分け、ジョージ・A・ロメロが、「ランド・オブ・ザ・デッド」以来3年ぶりにメガホンを取った新作ゾンビ映画。前回は近未来を舞台に、思考し進化する新型ゾンビを登場させて、階層社会を揺るがす革命の恐怖と混乱を描いてみせたが、本作では一転、少人数のアマチュア撮影クルーが体験する局地的なサバイバル戦を、擬似ドキュメンタリーの手法で追う。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を皮切りに、「クローバーフィールド」や「REC/レック」でおなじみとなった手持ちカメラによる一人称視点の撮影スタイルは、その臨場感と引き換えに作品のスケール感を損ない、ストーリー性を希薄にするという欠点を持っている。しかし幸い本作は定番ものであり、観客が事の顛末を熟知しているため、筋立てが見えにくいという欲求不満に陥ることもない。ただ問題なのは、先がすべて見えているという立場から作品に醍醐味を求めようとしたとき、目新しい発見が何もないということなのだ。
物語は、住宅街で発生した殺人事件のレポートではじまる。現場から運び出された遺体が突然起き上がり、救急隊員やテレビレポーターを襲うというお定まりのオープニングから、場面はペンシルバニアの夜の山中へ。卒業制作のホラー映画を撮影していた学生のグループは、ラジオで死者が蘇っているという奇妙なニュースを聞き、撮影を中断して寮や自宅へ戻ろうとキャピングカーに乗り込む。道中で異常な光景を目にした監督のジェイソン(ジョシュ・クローズ)は、メディアの情報が錯綜するなか、手持ちカメラで真実を記録しようと決意する。やがて彼らはインターネットに投稿された衝撃的な映像を見るうちに、自分たちの撮影した素材をその場で編集し、動画共有サイトにアップしようと試みる。しかし仲間が犠牲になるという事態に直面したデブラ(ミシェル・モーガン)は、撮影を続行することに疑問をぶつける。やがて仲間の家にたどり着いた一行は、屋敷の中に堅牢なパニックルームを発見するのだが・・・・・・。
凝った世界観の上に物語を構築するよりも、流行りの主観映像にこだわろうとしたためか、登場人物を少数に限定し、限られた場所から事の推移を描いている。おそらく低予算という点からしても、ロメロ作品の原点である「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」に立ち返った印象が濃い。既存メディアが機能しない状況のもとで、主人公が動画共有サイトに撮りたての映像をアップするという筋立てからして、個人が発信する情報の有益性を強調するのかと思いきや、「ネットに流される情報は、時にあまりに主観的すぎて混乱を招く」というナレーションをすかさず被せている。個人の発するいわば玉石混交の情報が、ひとつの“メディア”としてまかり通る今日のネット社会の危うさを突くとは、さすがロメロ流だ。これまでごく一部のメディアしか持てなかった情報発信のツールをだれもが手にするようになったいま、情報の発し方一つで多くの視聴者や読み手の関心を好きなだけかき集めることもできる。たとえそれが少なからぬ誤りや偏りを含んでいたとしてもだ。ロメロがネット社会にいだいたそうした危機感は、本作の中に十二分に表現されていると思う。ただ、一つの娯楽作品として見た場合、世界規模で起きている異変を手持ちカメラと動画サイトの映像(実際には編集済み)で描ききるという設定はどうだろう。人類の存続を危うくする死者の蘇り現象を、数(十)センチ角のモニター画像でちんまり見せられるとしたら、ちょっときつい。
もちろん続編の企画が進行中らしいので、今後の展開に広がりが出る可能性もあるだろう。しかし本作を見るかぎり、恐怖の質はマンネリ化し、撮影手法もすでに過去のホラー作品の焼き直しにすぎない。肝心の人間ドラマのほうも、撮影の可否をめぐるわずかな口論があるのみで、仲間どうしの本質的な対立や緊迫した心理戦は見られない。マニアの方々が期待するような恐怖をあおる描写も少なく、カメラが先か、人助けが先かという報道者としての葛藤も描ききれていない。既存のメディアが機能しなくなったときに、そもそもサーバーや携帯の中継が難なくつながるのかという疑問はさておくとしても、目の前に死が迫るなかで、安全への逃避より真実を記録することをあっさりと優先してしまう主人公に、そもそも現実味を感じられなかった。たとえ映画製作者を目指す学生だからといっても、そこには相当の葛藤があってしかるべきではないだろうか。というわけで、せっかくのロメロ作品ではあるけれど、☆の数は前作を下回った。
満足度:★★★★★☆☆☆☆☆
<作品情報>
監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
製作:ピーター・グルンウォルド
撮影:アダム・スウィカ
出演:ミシェル・モーガン/ジョシュ・クローズ/ショーン・ロバーツ/エイミー・ラロンド
ジョー・ディニコル/スコット・ウェントワース/フィリップ・リッチオ
<参考URL>
■映画公式サイト 「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」
■シネマぴあ 「ダイアリー・オブ・ザ・デッド/ジョージ・A・ロメロ インタビュー」
■続編に関する情報 「Wikipedia /Island of the Dead」(英語)
お読みいただきありがとうございました。
クリックしていただけるとうれしいです。
にほんブログ村へ
「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」レヴュー非常に興味深く読ませていただきました。
それにしても本家・ロメロのゾンビ映画もなんと5作目、老いてますます盛んなロメロ先生には感服してしまいます。今後も「ゾンビ一筋」のホラー映画道を驀進してほしいです。
■先がすべて見えているという立場から作品に醍醐味を求めようとしたとき、目新しい発見が何もないということなのだ。■
さすがのロメロ先生もマンネリに陥ってきたのかも、、、⌒ー⌒;ぜひ六作目でこのマンネリを打ち破って新境地に達してほしいですネ。
■「ネットに流される情報は、時にあまりに主観的すぎて混乱を招く」というナレーションをすかさず被せている。■
ロメロのゾンビ映画は必ず「社会風刺」を混ぜてある、という点で、まさしくロメロ・ゾンビの王道だと思います。わたしもYOU TUBEやニコニコ動画を観る時は情報を鵜呑みにしないように気をつけたいです。
■せっかくのロメロ作品ではあるけれど、☆の数は前作を下回った。■
今後はロメロ・ゾンビの最高傑作である「ゾンビ」を上回るような作品を期待したいです。ぜひロメロ大先生には老骨に鞭打って??頑張ってほしいです。
それではまた~♪
今回は低予算で敢えて擬似ドキュメンタリー・タッチを
狙ったようなのですが、その手の作品はすでに何作も世に出ていて、
どう見ても“巨匠ロメロ”には不向きだったような気がします。
新手の手法に挑戦する若さ(&茶目っ気!)は大したものだと思うのですが・・・
>ぜひ六作目でこのマンネリを打ち破って新境地に達してほしいですネ。
まだまだ「ゾンビ一筋」で「映画道を邁進」するとは、
ほんとうに感服してしまいますね。
次回作ではファンをあっと言わせる仕掛けをぜひ期待したいものです
厳しいご意見ですね~
ワタシはむしろ、恐怖もドラマも腰砕けの形式に仕上がっていることに感動しちゃったんですけどね(笑)
そもそもロメロのゾンビはホラーたりうるのか?ホラーという枠からどこかはみ出た、物語に回収できない要素があるところに、なにやら禍々しさを感じてしまうのです。
ドラマとるすならば、あの「要塞」から脱出し映像を編集し終えるまでを当然描くべきだったでしょうが、あえてそこを描かないことの不思議さをワタシはいまだに噛み締めています。。
ではまた。
どうしても娯楽作という期待感があって、ストーリーや仕掛けに不満を感じてしまいました。
にわかロメロファンの未熟なレビューとお許しください(笑)
いやー映画のレビューってむずかしいものですねぇ。
mamimamiさんの記事には“こういう見方もあるんだなぁ”と目から鱗の思いです。
たしかにロメロのゾンビは観客に悲鳴を上げさせるだけの小道具ではないでしょう。
単に作品に社会風刺を効かしているという意味ではなくて
生者からもろもろの毒気をそぎ落とした存在が
ああしてフツーに歩き回る不条理な状況を現出させることが
もう悪ふざけのようで、楽しいやら不気味やらで・・・
巨匠がまだ先を作るというなら、次回もまた観てみたいです。
それは描かれなかった「要塞」からの脱出ではじまるのか、そうでないのか、楽しみですね。