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ワールド・オブ・ライズ◆あばかれる情報戦の舞台裏

2008-12-26 13:16:41 | <ワ行>
    画像:「Body of Lies」 David Ignatius 著(ペーパーバック)

  「ワールド・オブ・ライズ」 (2008年・アメリカ)

中東を舞台に、アメリカの対テロ戦略を担うCIA工作員の頭脳戦を描いたリドリー・スコット監督の最新作。原作は中東問題に精通した「ワシントン・ポスト」紙のコラムニスト、デイヴィッド・イグネイシアスの「Body of Lies」(邦題は「ワールド・オブ・ライズ」)。脚本は「ディパーテッド」でアカデミー賞脚本賞を受賞したウィリアム・モナハン。現場に潜入し、命がけで裏工作を仕掛ける工作員ロジャー・フェリスに、「ディパーテッド」や「ブラッド・ダイヤモンド」で役者の幅を広げたレオナルド・ディカプリオ。アメリカ国内からフェリスに指令を出すベテラン局員エド・ホフマンに、ラッセル・クロウという心躍る取り合わせ。爆破テロの首謀者を追うこの二人の立場が鮮やかな対比を見せて、CIAの対テロ戦略の驚くべき舞台裏を浮かび上がらせる。

現地に長らく潜行し、アラブ社会を知悉するフェリスは、独自に築いた人脈を駆使して作戦を展開しようと奔走する。眉間に刻まれた深い皺と精悍な身のこなしは、身体を張って情報戦の最前線で働く工作員の緊迫感を伝えている。対するホフマンは、作戦の駒であるフェリスの行動を映像越しに監視しながら冷酷な指令を次々と下し、時にはフェリスの作戦そのものを反故にするような行動に出る。でっぷりと脂肪を蓄えた身体で子どもの世話を焼きながら、携帯電話でフェリスに指示を出すホフマン。フェリスがとどまることを知らない激流であるなら、ホフマンは波一つ立たない深い淵のようだ。映像は動かない水面の下にひそむ怪物――この典型的なアメリカ人の表象の背後にひそむ無情の組織のすがたを、ホフマンを通してありありと描いてみせる。

作品のもう一つの対比は、アラブとアメリカ、二つの社会の情報戦のあり方だ。爆破組織の首謀者をおびき寄せるためにフェリスたちCIAが仕掛けた作戦は、デジタル機器を駆使してヨルダンの一市民を架空の別組織のリーダーに仕立て上げ、米軍基地内の爆破事件の偽情報を流して獲物をおびき寄せるという作戦。知らずに囮となったヨルダンの建築家が作戦に巻き込まれていく様子は、情報戦の恐ろしさをまざまざと見せつける。一方、フェリスが協力関係を築いたヨルダン情報局のハニ・サラーム(マーク・ストロング)は、敵側の一人に徹底した温情をかけてテロ組織に送り込み、いわばアラブ的仁義でテロの首謀者に迫っていく。はたしてどちらの作戦が功を奏するのか。

物語は、主人公フェリスに思いを重ねる多くの観客の期待を裏切らない形で決着する。それは、作戦中に即死したイラン人助手バッサーム(オスカー・アイザック)の砕け散った骨を生身に受け、アンマンの看護師アイシャ(ゴルシフテ・ファラハニ)に安らぎを見出すフェリスの心が、当然帰属するだろうアラブ的社会の勝利ともとれる。もちろん作品そのものに政治的なメッセージは読み取れないが、アメリカの傲慢さに嫌気が差した観客は、ホフマンの敗北にささやかな爽快感をおぼえるのではないだろうか。それは同時に、ハイテク機器による情報操作や陰謀に対する、いわば血肉の勝利でもある。工作員としては誰よりも上手だったハニ・サラームの冷徹ぶりがとにかくスマートで、主役級の二人より光っていたのが個人的にはおもしろかった。


【トリビアル・メモランダム】
フェリスの上空には常に監視衛星の“目”があり
地上で作戦を遂行するフェリスの視野が水平ならば
ホフマンは垂直の視野を獲得していることになる。
これと似たシーンは、フェリスがアイシャの家を訪れる場面にもあって
帰り際にアイシャの手を握ろうとしたフェリスが
上からの視線に気づいて見上げると
そこには建物の上から二人を見下ろす住人たちの無数の目があった――
スコット監督はこのシーンにどんな意味を込めたのだろう。
水平と垂直、デジタルとアナログ、ハイテクと温情・・・・・・
散りばめられたさまざまなコントラストが印象に残った。


満足度:★★★★★★★★☆☆


<作品情報>
   監督:リドリー・スコット
   原作:デイヴィッド・イグネイシアス
   製作:ドナルド・デ・ライン
   脚本:ウィリアム・モナハン
   撮影:アレクサンダー・ウィット
   出演:レオナルド・ディカプリオ/ラッセル・クロウ/マーク・ストロング
       ゴルシフテ・ファラハニ/オスカー・アイザック/サイモン・マクバーニー

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「ワールド・オブ・ライズ」
   ■関連商品 「Body of Lies」 David Ignatius 著(ペーパーバック)
           「ワールド・オブ・ライズ」デイヴィッド・イグネイシアス著(小学館文庫) 
           オリジナル・サウンドトラック「ワールド・オブ・ライズ」    
         

   

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ワールド・トレード・センター◆9.11瓦礫からの生還(試写会レビュー)

2006-09-30 16:25:39 | <ワ行>
           

  「ワールド・トレード・センター」 (2006年・アメリカ)
   監督:オリバー・ストーン
   出演:ニコラス・ケイジ/マイケル・ペーニャ/マギー・ギレンホール/マリア・ベロ

あの日を題材にした映画がどうしても気になって試写会へ足を運んだものの、やはり一本の映画として見ると、やや期待はずれに思える点もあった。そもそも9.11に材を取った映画に、通常の映画的快楽を求めること自体がまちがいなのかもしれない。あの時、あの場所で起きた救出劇を、悲劇に巻き込まれた人々の忍耐と希望を通して描くことによって、制作者はこれをささやかな追悼としたかったのかもしれない。

9月11日、港湾警察の警察官たちはワールド・トレード・センター北棟に航空機が激突、多数の負傷者が出ているとの連絡を受けて救助チームを結成。情報が錯綜するなか現場に到着した彼らは、二つのビルをつなぐ地階通路から酸素ボンベを持って救助へ向かう。しかし、ほどなくビルが倒壊、警官たちは瓦礫の下敷きとなり、二人だけが辛うじて生き残る。映画の大部分は、この瓦礫の下に閉じ込められた二人の警官と、その家族の苦悩を中心に描かれる。

『ユナイテッド93』が回収されたブラックボックスの会話をもとにドキュメンタリータッチで描かれていたのに対して、この作品は同じ実話をもとにしながらも、むしろ極限状況に置かれた主人公やその家族の心に焦点を当てている。家族愛や友情、勇気、希望といった、だれもが尊ぶべきテーマがわかりやすく表出する仕組みになっている。それがすばらしい、と感じる人もいるかもしれない。ただ私には、その点がやや期待はずれに感じられた。マイケル・ムーアが『華氏911』の中で展開した「主張」や「検証」は、この作品のどこにも読み取れないように思える(ただ一点の例外は、元海兵隊員が「神の意思」を感じて仕事を休み、軍服に着替えて瓦礫の中で生存者を探し出したエピソード。穿ってみればアメリカの「力」を華々しく肯定しているようにも取れた。もっともこれも実話だったかどうかは知らないが・・・)。

冒頭の、ビルが倒壊するまでの展開はリアルですばらしかった。しかし、二人の警官が瓦礫の中に埋もれて、絶望と闘いながら生きようとするシーンに関しては、こちらもそれなりの忍耐を持って見る必要があるかもしれない。



満足度:★★★★★★☆☆☆☆


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