「今世紀最大の天体ショー」という言葉に誘われて、皆既日食を見に屋久島へ。結果はご存知のとおり、用意した日食グラスも役立たずの雨模様。黒い太陽は拝めませんでしたが、月の影の中に身を置くという貴重な体験をすることができました。以下は屋久島での皆既日食のレポートです。
◆◇◆
鹿児島港から屋久島へ渡ったのは前日の7月21日。文句なしの快晴だったのがなんとも皮肉。翌22日は梅雨前線が南下した影響で朝から断続的に雨が降ったり止んだり。10時ごろにはかろうじて上部の欠けた太陽が薄い雲の向こうに見えたものの、その後は空全体が雲に覆われてしまいました。観測場所に選んだのは、宮之浦の宿泊先のホテル入口付近にある高台。ウィルソン株のレプリカのある小さな空き地で、周囲を低い藪に囲まれていて、置き石に乗るとフェリーターミナルが見える好位置です。

屋久島の玄関口、宮之浦港は撮影場所の高台から見ると、南というよりかなり東方向の位置だったので、食が進んでもなかなか暗くなりませんでした。10時過ぎに5割ほど欠けたころ、手前の藪の中からヤクシカが現れて小道を横切りました。あわててシャッターを切るのも束の間、すぐに反対側の藪へと姿を消しました。日食の影響で人里まで下りてきたのかなと思いましたが、後日付近の林をねぐらにしている群れがいると判明。シカが出現してから周囲の藪が気になって時々見回してみましたが、それ以降はカラスが3羽ほど飛び立ったほかはいたって静か。頭の上を飛び回っていたトンボの大群もどこかへ消えていました。

いよいよ皆既日食の瞬間が近づいてきました。港にはターミナルの照明と着岸した高速船の明かりが光っています。食が最大になる午前11時前。あたりにすとんと闇が落ちてきました。先ほどシカが消えた藪も、目の前のウィルソン株のレプリカも光を失い、しばし沈黙の時が流れます。レインスーツのせいで汗ばんだ顔に、どこからか涼しい風が吹いてきました。これが日食時に吹く「伝説の風」かと、ひとり興奮。

明るさを残していた海上もすっかり光を失い、港全体が闇に包まれます。観測場所の高台も周囲の藪も真っ暗に・・・・・・。いま南海の離島に夜が覆いかぶさっています。

真昼の夜よ、終わらないでという思いもむなしく、2分あまり続いた皆既日食は終わりに近づきました。直径が約400倍もある太陽を、小さな月が覆い隠すという壮大な天体ショーの一端を、じかに感じることができた瞬間でした。

皆既日食帯の中ではぎりぎりの北端にある屋久島。しかも宮之浦はそのまた端っこです。月の影が移動すると同時に、あっという間に光が戻ってきました。

「日常の中に、非日常が入り込む瞬間」、「人生観を変える神秘体験」――皆既日食を体験した人が口にするこれらの言葉が今回、屋久島を訪れるきっかけになりました。自分にとってそこまでの衝撃はなかったことが、意外であり残念でしたが、それはたぶん天候や観測地などの諸条件が影響しているのではないかと思います。しかし皆既の瞬間に周囲が暗くなり、何が起きるかまったくわからない状況に自分が置かれていることに気づいたとき、心細さと不安を感じたのも事実です(高台で最後まで粘っていたのは私ひとりでした)。日食の起きるメカニズムなどまったく知らなかった大昔の人々が、この神秘的な現象に畏怖の念を抱いたのはもっともだろうなと感じました。国内での次の皆既日食は26年後。きっと待てない私は、雨模様の屋久島での体験も貴重な思い出として心にとどめようと思いました。
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鹿児島港から屋久島へ渡ったのは前日の7月21日。文句なしの快晴だったのがなんとも皮肉。翌22日は梅雨前線が南下した影響で朝から断続的に雨が降ったり止んだり。10時ごろにはかろうじて上部の欠けた太陽が薄い雲の向こうに見えたものの、その後は空全体が雲に覆われてしまいました。観測場所に選んだのは、宮之浦の宿泊先のホテル入口付近にある高台。ウィルソン株のレプリカのある小さな空き地で、周囲を低い藪に囲まれていて、置き石に乗るとフェリーターミナルが見える好位置です。

屋久島の玄関口、宮之浦港は撮影場所の高台から見ると、南というよりかなり東方向の位置だったので、食が進んでもなかなか暗くなりませんでした。10時過ぎに5割ほど欠けたころ、手前の藪の中からヤクシカが現れて小道を横切りました。あわててシャッターを切るのも束の間、すぐに反対側の藪へと姿を消しました。日食の影響で人里まで下りてきたのかなと思いましたが、後日付近の林をねぐらにしている群れがいると判明。シカが出現してから周囲の藪が気になって時々見回してみましたが、それ以降はカラスが3羽ほど飛び立ったほかはいたって静か。頭の上を飛び回っていたトンボの大群もどこかへ消えていました。

いよいよ皆既日食の瞬間が近づいてきました。港にはターミナルの照明と着岸した高速船の明かりが光っています。食が最大になる午前11時前。あたりにすとんと闇が落ちてきました。先ほどシカが消えた藪も、目の前のウィルソン株のレプリカも光を失い、しばし沈黙の時が流れます。レインスーツのせいで汗ばんだ顔に、どこからか涼しい風が吹いてきました。これが日食時に吹く「伝説の風」かと、ひとり興奮。

明るさを残していた海上もすっかり光を失い、港全体が闇に包まれます。観測場所の高台も周囲の藪も真っ暗に・・・・・・。いま南海の離島に夜が覆いかぶさっています。

真昼の夜よ、終わらないでという思いもむなしく、2分あまり続いた皆既日食は終わりに近づきました。直径が約400倍もある太陽を、小さな月が覆い隠すという壮大な天体ショーの一端を、じかに感じることができた瞬間でした。

皆既日食帯の中ではぎりぎりの北端にある屋久島。しかも宮之浦はそのまた端っこです。月の影が移動すると同時に、あっという間に光が戻ってきました。

「日常の中に、非日常が入り込む瞬間」、「人生観を変える神秘体験」――皆既日食を体験した人が口にするこれらの言葉が今回、屋久島を訪れるきっかけになりました。自分にとってそこまでの衝撃はなかったことが、意外であり残念でしたが、それはたぶん天候や観測地などの諸条件が影響しているのではないかと思います。しかし皆既の瞬間に周囲が暗くなり、何が起きるかまったくわからない状況に自分が置かれていることに気づいたとき、心細さと不安を感じたのも事実です(高台で最後まで粘っていたのは私ひとりでした)。日食の起きるメカニズムなどまったく知らなかった大昔の人々が、この神秘的な現象に畏怖の念を抱いたのはもっともだろうなと感じました。国内での次の皆既日食は26年後。きっと待てない私は、雨模様の屋久島での体験も貴重な思い出として心にとどめようと思いました。