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劇場映画やDVDの感傷的シネマ・レビュー

1408号室◆キング原作の良質ホラー

2008-11-26 12:03:20 | <数字>
  

  「1408号室」 (2007年・アメリカ)

原作はスティーブン・キングの短編集「幸運の25セント硬貨」所収の一編。過去に56人もの宿泊客が命を落としたいわくつきのホテルの一室で、オカルト作家が体験する怪異を描いたサスペンス・ホラー。物語の舞台はほとんどが室内で登場人物も少なく、全編がジョン・キューザックの一人芝居という映画なのだが、これが結構おもしろかった。仕掛けも結末もありきたりで、問題の客室に取りついているものの正体も、因果は明かされないものの、おおよその見当はつく。なのにいったん席に腰を下ろした瞬間から、スクリーンから目が離せなくなる。怪談話を聞くときの、あの期待と不安の入り混じった独特の緊張感が心地よい。考えてみれば、恐怖は立派な娯楽なのだ。

心霊スポットの体験レポートを生業とするオカルト作家、マイク・エンズリン(ジョン・キューザック)のもとに、ある日ニューヨークの高級ホテルの絵はがきが届く。差出人は不明。裏面につづられていたのは「1408号室には入るな」という一文のみ。興味をかき立てられたマイクは、別居中の妻リリー(メアリー・マコーマック)が住むニューヨークのドルフィンホテルに宿泊を申し込む。しかし、なぜか支配人オリン(サミュエル・L・ジャクソン)は頑なに宿泊を拒み続ける。それでもあきらめないマイクに、オリンは件の客室で起きた数十件もの変死事件を語って聞かせ、宿泊をやめるよう警告する。とうとう事件の資料まで持ち出して説得する支配人に向って、マイクは自分は霊も神も信じないと言い残し、ついに1408号室のキーを鍵穴に差し込んでしまう・・・・・・。

マイクが霊も神も信じないと公言する裏には、一人娘ケーティ(ジャスミン・ジェシカ・アンソニー)を病死させてしまった深い悲しみと悔恨の念がある。それはマイクから、まともな小説を書き上げる活力を奪い、心霊ルポ専門の三文ライターに甘んじる口実にもなっている。心に痛手を負ったまま、神も霊魂も否定しながら生きている男は、1408号室に潜む悪しき存在の格好の標的にもなろうという筋書きだ。この呪われた客室で次々とマイクを襲う怪異現象は、彼の心が生み出す恐怖や疑念や悲しみや後悔を増幅させた幻にすぎない。けれども、マイクが感じるそれらの感覚は、彼にとってはリアルな体験であり、観客の目にもそう映る。視線を外した隙に、何もなかった枕の上に突然出現する小さなチョコレート、蛇口から噴き出す熱湯、過去に自殺を遂げた宿泊客の幻、終わらない苦しみを暗示するデジタル時計の数字・・・・・・。こうした定番の恐怖をていねいに積み上げながら、怪異の激しさをどんどんエスカレートさせ、やがて主人公の最大の痛点であるケーティの霊を出現させる。その演出の手順は鮮やかだ。不可思議な現象をホテルの仕掛けだと疑い、すべては心理的ストレスからくる一時的な錯乱だと自分に言い聞かせていたマイクは、ここで一気に冷静さを失うことになる。

壊れてしまったドアノブ、塞がれていく窓、遮断されるPC電話・・・・・・。救援の手も届かない客室に閉じ込められ、失った娘の幻にさいなまれるマイクがどうなったかは、ここでは触れずにおきたい。ただ結末はどうも二つあるようで、YouTubeで見つけたもう一つのエンディング(下にURL添付)は、劇場で見たラストシーンよりも個人的には気に入っている。


新設コーナー!
【トリビアル・メモランダム】
この映画は2007年の全米公開時に、3日間で興行成績2000万ドルを突破して
キングの原作映画化作品としては、あの「グリーンマイル」を超えたとか。
原作をリアルに再現していると、キング・ファンにも好評らしいです。
ハフストローム監督の作品は日本初公開だそうですが、
ツボを心得た、ていねいな演出には今後の活躍が期待できます。
ところで、問題の客室はなぜ「1408号室」なのか?
劇中でもマイクのセリフにありましたが、<1+4+0+8=13>となり
総計が13という西欧では縁起の悪い数字なのと
一般的にホテルには13階のフロアは存在しないことになっていますが
客室のある14階は実際には13階であることが
不吉なルームナンバーに選ばれた理由でしょう。
さてさて、“もう一つのエンディング”ですが
こちらもいかにも定番な終わり方なのですが、切なさ(そして怖さ)もあって
私はこっちのほうが好みです。興味のある方は鑑賞後に比べてみてください。

  ■YouTube 「1408 end scene」(5分程度・字幕なし)



満足度:★★★★★★★☆☆☆
 ついでに恐怖度は5段階評価で★★☆☆☆(心理的怖さなら3つ程度)



<作品情報>
   監督:ミカエル・ハフストローム
   製作:ロレンツォ・ディボナヴェンチュラ
   製作総指揮:ジェイク・マイヤーズ  
   原作:スティーブン・キング
   脚本:スコット・アレクサンダー/ラリー・カラゼウスキー
   撮影:ブノワ・ドゥローム
   出演:ジョン・キューザック/サミュエル・L・ジャクソン/メアリー・マコーマック
       トニー・シャルーブ/ジャスミン・ジェシカ・アンソニー

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「1408号室」
   ■原作 「一四〇八号室」(スティーブン・キング著「幸運の25セント硬貨」所収・新潮社刊)
  
   

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DVD寸評◆11:14

2007-06-11 13:49:38 | <数字>
  
   
  「11:14」 (2003年・アメリカ/カナダ)
   監督:グレッグ・マルクス
   出演:ヒラリー・スワンク/パトリック・スウェイジ/レイチェル・リー・クック

郊外の小さな街で起きた、二つの死体をめぐる物語を複数の人物の視点で描く。登場人物の行動が連鎖し合い思わぬ結果をもたらす「物のはずみ」のおそろしさ、人の行動につきまとう愚かしさをたっぷりと思い知らされる。走行中の車の上に突然降ってきた死体、「事故」の隠滅をはかる男、娘をかばおうと画策する父親、勤め先の雑貨店で強盗をはたらく男、止めようとする女性店員、ひき逃げする若者のグループ、そしてその要にいる十代の少女の乱れた日常・・・・・・。手法としては「パルプ・フィクション」や「クラッシュ」を思わせるるものの、物語はずっと小ぶりで、ヒラリー・スワンクとパトリック・スウェイジの出演が不思議に思えるほど。冒頭の死体の謎が、積み重ねられたエピソードによって明かされていく過程はテンポがあって楽しめるが、ラストにカタルシスが感じられなかったのは残念。歯列矯正のブラケットをはめた田舎町の雑貨店店員を、スワンクがユーモラスに演じている。彼女は製作にもかかわっているので、この脚本がよほど気に入ったのかもしれない。タイトルの「11:14」は、最初の死体が車の上に降ってきた時間。物語はここを起点として30分ほどの時間をさかのぼって語られる。肩のこらない一作。



満足度:★★★★★☆☆☆☆☆