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好きな映画だけ見ていたい

劇場映画やDVDの感傷的シネマ・レビュー

ダークナイト◆際立つジョーカーの重力

2008-08-11 17:46:15 | <タ行>
  

  「ダークナイト」 (2008年・アメリカ)

今年1月22日に急逝したヒース・レジャー(関連記事はこちら)の出演作「ダークナイト」がついに公開された。レジャーが死の直前まで撮影中だったテリー・ギリアム監督の新作「The Imaginarium of Dr. Parnassus」は、代役にジョニー・デップら3人の俳優を立てて撮影が続行されるらしいが(AFPBBニュース参照)、現時点ではこの「ダークナイト」がおそらくレジャーの実質的な遺作となる可能性が高い。俳優はだれしも自分の遺作を選ぶことはできないが、本作でのレジャーの熱演ぶりにはジョーカーという役柄に魂を注ぎ込んた跡がありありと見てとれて、遺作と呼ぶにふさわしい最期を飾ったと思いたい。

クリストファー・ノーラン監督の前作「バットマン・ビギンズ」に続いて、フランク・ミラーの連作コミック「バットマン:ダークナイト・リターンズ」のシリアスな作風を受け継いだ本作には、戯画的なティム・バートン版とは趣の異なる重苦しさを感じる。背景となる舞台設定はよりいっそうリアルに、キャラクターは複雑な選択を迫られ、物語は勧善懲悪のワンパターンすら脱しているように見える。ゴッサムシティで起きているのは、アメリカの現実を映し出すかのようなマフィアによる資金洗浄であり、警察署内にはびこる汚職と腐敗であり、また交渉も説得も通用しない冷酷なテロの脅威だ。こうした混乱の中から宿敵として立ち現れるジョーカーは、さまざまなルール(倫理規範)に縛られながら危うい均衡を保っている市民社会に揺さぶりをかけ、社会秩序の撹乱をもくろむ。いかなる悪人も殺さないという独自のルールにこだわるバットマン(クリスチャン・ベール)に、「いちばん利口な生き方はルールを持たないことさ」とうそぶくジョーカーの非情さはもちろん筋金入りだが、それでも彼の悪意には、裂けた口にまつわる因果の物語を想像させる余地があり、たとえば説明不能の恐怖を振りまいた「ノー・カントリー」の刺客、アントン・シガーの超絶的悪意とはまた別物だ。

レジャーは、このアナーキストとしてのジョーカーに命を吹き込むために、一ヶ月間ロンドンのホテルに閉じこもり、声色や口調、姿勢、笑い声までつぶさに研究し、ソシオパス(反社会的行為者)としての新たなジョーカー像を完成させた(Empire: Movie News 参照)。赤く裂けた唇を舐めながら挑発的言葉を吐くジョーカーが、バットマンの心をかき乱し、混乱の淵に突き落とすさまはすさまじく加虐的で、敵役としての存在感は圧巻。バットマンがゴッサムシティの未来を託そうとした「光の騎士」、地方検事のハーベイ・デント(アーロン・エッカート)をやすやすと悪の側に引きずり込むジョーカーの重力は、その慄然とする名せりふ――「Madness, as you know, is like gravity … all it takes is a little push. 」(狂気は重力みたいなもの。ちょいと押すだけで簡単に落(堕)ちる)――と共に、長く記憶に留まるだろう。

「ならず者の自警市民」として人々にそしられ、悪しき者を際立たせる己の存在を自覚したバットマンの苦悩と、恋人レイチェル(マギー・ギレンホール)を失い、心身ともに悪のフリークに転落するデントの悲哀をからめながら、物語は善悪のきわどい一線さえ踏み越える勢いで進展する。ジョーカーが仕掛けた罠が不発に終わり、正義は勝利するかに見えた終盤、トゥーフェイスとなったデントの出現は、物語の行く末にさらなる混乱の予感をもたらした。ゴッサムシティの夜の街並みを轟音と業火に巻き込みながら、「闇の騎士」として生きる決意を固めるバットマンの頭上に、もはやサーチライトのコウモリが映し出されることはない。徹底したリアルな人物描写に腐心したノーラン兄弟の脚本からは、続編を視野に入れた工夫が見られる。残念ながらヒース・レジャーのジョーカーは今回が見納めだが、シリーズの続行には今後も期待したい。

                
満足度:★★★★★★★★☆☆




<作品情報>
   監督:クリストファー・ノーラン
   製作総指揮:ベンジャミン・メルニカー/マイケル・E・ウスラン/ケビン・デ・ラ・ノイ/トーマス・タル
   脚本:クリストファー・ノーラン/ジョナサン・ノーラン
   原案:クリストファー・ノーラン/デビッド・S・ゴイヤー
   音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード/ハンス・ジマー
   出演:クリスチャン・べール/マイケル・ケイン/ヒース・レジャー
       ゲイリー・オールドマン/アーロン・エッカート/マギー・ギレンホール

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「ダークナイト」
   ■ヒース・レジャー 生前のインタビュー Empire:Movie News-The Joker Speaks
   ■アーロン・エッカート インタビュー Cinemacafenet 




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DVD寸評◆ディスタービア

2008-06-07 16:23:04 | <タ行>
  

  「ディスタービア」 (2007年・アメリカ)

エアコンの修理やケーブル回線の工事、PCの買い替えに伴うあれやこれやで外出もままならなかった一週間。こんな時こそ家でゆっくり宅配DVDの鑑賞を――。そういえばこの作品も、家から一歩も出られない高校生が主人公のサスペンス映画。父親を事故で亡くして自暴自棄になったケール(シャイア・ラブーフ)は教師を殴って自宅謹慎処分となり、監視用センサーを足首につけられて軟禁状態の毎日。退屈しのぎに始めたご近所観察で、隣家の美人同級生アシュリー(サラ・ローマー)を覗き見したり、向かいのご主人の浮気現場を目撃するうちに、ある家での異変に気づくようになる。ケールは友人ロニー(アーロン・ヨー)と観察に加わったアシュリーと一緒に、双眼鏡やデジカメ、ビデオカメラ、携帯、パソコンといった身の回りの機器を駆使して、地元で続発する女性失踪事件と隣家の「異変」との関わりを探っていく。

半径30メートルの圏外へ出ると通報システムが作動して警官が急行するという設定が、主人公の置かれた状況を逆手に取って笑いを演出しているのがおもしろい。前半はティーンもののラブコメディで快調に飛ばし、中盤以降は一転して犯罪サスペンスに衣替えする演出も巧みだ。教師や大人に反発したり、女の子を覗き見したいという十代男子の健全さと、物事を見通す賢さ、好きな女の子への誠実さが同居したケールの人物像もいい。ただ友人ロニーの悪ふざけと、ケールの自宅周辺で起きる隣人たちのエピソード、とりわけ近所に潜んでいた連続殺人犯のくだりは、やや作りすぎた感じがする。アメリカの郊外には市街地とはまた違った形の病理が潜んでいるのだろうが、そうした郊外の危うさ、不気味さが連続殺人犯ひとりに集約されてハッピーエンドを迎える筋立ては、なんとも軽い。そこさえ気にならなければ最後まで楽しめそうな、ごった煮の娯楽作。



満足度:★★★★★★☆☆☆☆




<作品情報>
   監督:D・J・カルーソ
   原案・脚本:クリストファー・ロビン
   出演:シャイア・ラブーフ/キャリー=アン・モス/デビッド・モース
       サラ・ローマー/アーロン・ヨー

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「ディスタービア」
   ■DVD情報 amazon.co.jp「ディスタービア」     




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デイ・ウォッチ◆新感覚のロシアン・ファンタジー第二作

2008-02-27 12:37:34 | <タ行>
   

  「デイ・ウォッチ」 (2006年・ロシア)

◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 この作品はシリーズ第二作目なので、一作目の内容をご存知でない方は
 前作「ナイト・ウォッチ」のこちらのレビューから先に読むことをおすすめします
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆

ロシア発のダーク・ファンタジー三部作の第二作目。前作の「ナイト・ウォッチ」がそこそこ楽しめたので公開を心待ちにしていたのだが、上映館は都内でも2館のみというあいかわらずの冷遇ぶり(しかもそのうちの一館、歌舞伎町の某館に漂うやるせなさは特筆もの。昭和エレジーといえば聞こえはいいが、時代の流れを感じさせる穴の開いた薄汚れたシートには正直辟易!)。ハリウッド発ならば、たとえ駄作であろうと莫大な資金を宣伝費に投入してヒットを飛ばすだろうに、哀しいかなロシア映画。国内では歴代の興行成績を塗り替える大ヒット作ではあっても、ファンタジー好きの日本の観客層にまで宣伝効果が行き届いたようにはみえない。こういうおもしろい娯楽映画が、もしこのまま埋もれていくとしたら、ハリウッド嫌いでなくても複雑な気持ちにさせられる。

前作は主人公アントン(コンスタンチン・ハベンスキー)が、偉大な異種である息子イゴール(ディマ・マルティノフ)を闇の側に奪われたところで話は終わった。続編では、この息子とアントン、アントンに心を寄せる光の異種、スベトラーナ(マリア・ポロシナ)を軸に、激しさを増していく光と闇の抗争を描いている。二つの勢力の均衡を左右する偉大な異種、イゴールを味方につけた闇の将軍ザブロン(ビクトル・ベルズビツキー)は、光の異種との千年に及ぶ休戦協定を破棄しようともくろんでいた。一方、アントンに救われ光の側についた"渦の女"スベトラーナは、イゴールの力に匹敵する強力な異種として認められる一方で、アントンへの思いをしだいに募らせていく。息子を取り戻したいというアントンの思いと、アントンの愛を得たいというスベトラーナの思い、さらにはバンパイアとなった若者に恋したザブロンの愛人アリサ(ジャンナ・フリスケ)の思いがそれぞれ横糸となって、光と闇の目もくらむ抗争が織り上げられていく。

ロシアという風土の重々しさ、呪術的フォークロアの怪しさを背景に持ちながら、これほど切れのいい展開と斬新な映像で押しまくるアクション映画を、はたしてロシア映画と呼べるのだろうか。土俗的なテーマに深く根ざしながら、その実きわめて都会的でスタイリッシュなこの仕上がりは、もちろんハリウッド映画と同じVFX技術によって支えられている。この視覚効果の面だけをとっても、たとえば"異界"の不思議なイメージや終盤のモスクワ市街の崩壊シーンなど、ロシア映画の映像技術が、すでにハリウッドとくらべてなんら遜色のないレベルに達していることを思わせる。三作目の「Twilight Watch」(原題)にはハリウッドの資本が入るとも言われていて、いずれこのシリーズが世界的ヒットを飛ばす日も来るかもしれない(すでにベクマンベトフ監督のハリウッド進出は決まっているそうだ)。

乗りのいいテクノやロックをBGMに、魅惑の映像マジックで描かれる異種たちの世界は、見る者を幻惑し、まさに異界へと誘い込む。そこに織り込まれた親子愛や異性への思慕の情は、異種たちがわたしたちと変わらない人間であることを思い出させはするものの、アップテンポな展開は前作とまったく変わらない。冒頭で名将ティムールが手にした「運命のチョーク」が、異種たちの運命を今後どのように変えていくのか、次回作が楽しみだ。




満足度:★★★★★★★☆☆☆




<作品情報>
   監督・共同脚本:ティムール・ベクマンベトフ
   原作・共同脚本:セルゲイ・ルキヤネンコ 
   出演:コンスタンチン・ハベンスキー/マリア・ポロシナ/ウラジミール・メニショフ
       ガリーナ・チューニナ/ビクトル・ベルズビツキー/ジャンナ・フリスケ

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト「デイ・ウォッチ」
   ■前作「ナイト・ウォッチ」の情報はこちらのオフィシャル・サイト
   ■「ナイト・ウォッチ」のレビュー「ナイト・ウォッチ◆ロシア発のダーク・ファンタジー」





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ホラー特集/アジアン・ホラー◆箪笥

2007-08-16 19:13:53 | <タ行>
  

  「箪笥」 (2003年・韓国)

原題は「薔花(ジャンファ)、紅蓮(ホンリョン)」といい、継子いじめを描いた韓国の古典的怪談「薔花紅蓮伝」を下敷きにしているそうだ。ちなみに邦題の「箪笥」は、封印された禍事(まがごと)を連想させて、ホラー映画のタイトルにはぴったり。寝室のクローゼットに怪物や殺人鬼が潜んでいるという発想は、洋画ホラーのいわば定番だが、箪笥にはたしかに似たようなイメージがある。

舞台は郊外にある一軒家。スミ(イム・スジョン)とスヨン(ムン・グニョン)の姉妹は長い療養生活を終えて父親ムヒョン(キム・ガプス)とともに帰宅した。ふたりを出迎えたのは、快活に振る舞う継母のウンジュ(ヨム・ジョンア)。しかし表情の裏に冷たい敵意を感じ取ったスミは、ウンジュへの警戒心を募らせ、妹のスヨンを守ろうと必死になる。やがてふたりは亡き母の悪夢を見たり、家の中で怪しい気配を感じるようになる。スミはしだいに神経をたかぶらせ、継母との衝突も激しさを増していく。ある日、スヨンが折檻されたことを知ったスミはウンジュを責め立てるが、やってきた父親はスミを叱り、驚くべき言葉を口にする。「スヨンはもう死んでいる」と・・・・・・。

この作品はスティーブン・スピルバーグが史上最高額でリメイク権を獲得するなど、海外でも早くからヒットの兆しを見せていた。それは脚本製作にあたって、恐怖体験をネットを通じて公募したり、映画サイトとしては史上最多のアクセスを誇る公式ホームページを立ち上げるといったウェブ戦略が、海外のバイヤーの目に留まるチャンスにつながったからかもしれない。

ネット上の評価はおおむねよい。壁や小道具にまでこだわったセットの(異様な)美しさ、心に染み入るBGM、そして姉妹をめぐる哀しい物語はたしかに心を打つのだが、全体的な構成にバランスが感じられず、物語の展開についていくのがむずかしかった。姉スミの、妹を失った深い後悔と、父親の愛人にいだく嫌悪感が、冒頭から続く悪夢のような妄想を生み出しているのはわかる。さらに妹の死に責任を感じたスミが、妄想のなかでウンジュと同化しているのも理解できる。けれどもそれは、ラストで真実が明かされてからのこと。そこに行き着くまでは、暗い廃屋の中を手探りで進むような焦燥感だけがある。スピルバーグなら、この作品をどんなふうに脚色するだろう。

継母・ウンジュを演じるジョンアのエキセントリックな芝居は、闇に侵された家のところどころに使われた赤や緑の原色と相まって、継子いじめの禍々しさを巧みに表現している。怖さほどほどのミステリー・ホラー。



ひんやり度:★★★☆☆



<作品詳細>
   監督・脚本:キム・ジウン
   美術:チョン・グンヒョン
   音楽:イ・ビョンウ
   出演:イム・スジョン/ムン・グニョン/ヨム・ジョンア/キム・ガプス


<参考URL>
■allcinema 「箪笥<たんす>」リメイク、姉妹役が決定 





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トランスフォーマー◆実現したロボット戦士の夢

2007-08-06 12:10:04 | <タ行>
  

  「トランスフォーマー」 (2007年・アメリカ)

夏休み気分にぴったりのアクション超大作は、ナイトショーの眠気も吹き飛ばす快調ぶりだった。ティーンはもちろん、タカラトミーの変形型ロボット玩具で遊んだお父さんまで、家族みんなで楽しめる娯楽大作に仕上がっている。ただし、戦闘場面は米軍の全面協力によって恐ろしいほどの臨場感に満ちているため、なかには嫌戦気分を募らせる人もいるかもしれない。

トランスフォーマーはもともと日本発のロボット玩具。1980年代、発売数年後にアメリカに渡り、新たな変形型ロボット玩具として大ヒットした。よく子どもと一緒にトランスフォーマーで遊んだと話すスティーブン・スピルバーグ(「MSNムービー インタビュー」)は、「現代のCG技術なら実写が可能だと思い製作を決意した」そうだ。たしかに体長15mの巨大なキャラクターを、その重量感のまま高速で動かしてもCGのあらが出ないというのはすごい。市街地での戦闘シーンでは、変身しながら戦う重量級のロボットが、ビルや人という現実の背景に違和感なく溶け込んで、とてもリアルだ。

リアルという意味では、登場する兵器や軍人も同じ。軍人役はエキストラも含めてほとんどが本物の軍人か、退役軍人だそうだ。冒頭のカタールの米軍基地を悪のトランスフォーマー(ディセプティコン)が急襲するシーンや、市街地上空での空中戦の迫力はさすが。変形する機種も「ブラックアウト」は戦闘ヘリ、シコルスキーMH-53ペイブローⅢ、「スタースクリーム」は最新鋭のステルス戦闘機、ロッキード・マーティンF-22ラプター(今年2月から5月まで沖縄県嘉手納空軍基地に一時配備された機種)という具合に、現役の軍用機に設定されている。また宇宙からの侵入者に遭遇した場合、国防総省や米軍がどう対処するかを、シミュレーション的に見られるのもおもしろい。

一方、物語のほうは自分の車をはじめて手にしたさえない高校生サム(シャイア・ラブーフ)を主役に据えて、人類側に立つトランスフォーマー(オートボット)との出会いを通して戦士へと成長する過程をユーモラスに描いている。なかでもGMのシボレー・カマロに変形する「バンブルビー」との友情は、激しいバトルシーンの続くなかで一服の清涼剤となっている。サムが奮闘の末に、意中のミカエラ(ミーガン・フォックス)と心を通わせていくエピソードもうまい。ディセプティコンが米軍のコンピュータに侵入したのを受けて、いわゆるオタクたちが原因を究明しようと活躍するシーンも笑わせる。

ひとつだけ残念に感じたのは、ロボット型に変形したトランスフォーマーのボディが、昔よく見かけたピカピカのロボット玩具に見えてしまったこと。機械や生物をスキャニングして自由に形態をかえられるのなら、むしろラストの戦いは「ビーストウォーズ」ばりのサソリ型対ゴリラ型か何かでやってくれれば・・・・・・などと不謹慎にも思ったりした。


満足度:★★★★★★★☆☆☆


<作品情報>
   監督:マイケル・ベイ
   製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ   
   原案・脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー 
   出演:シャイア・ラブーフ/タイリース・ギブソン/ミーガン・フォックス/ジョン・ボイト


<参考URL>
■映画公式サイト 「トランスフォーマー」(日本語) 「Transformers」(英語)




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デジャヴ◆犯罪サスペンスで味付けしたSF娯楽作

2007-03-22 22:25:27 | <タ行>
    

  「デジャヴ」 (2006年・アメリカ)
   監督:トニー・スコット
   製作:ジェリー・ブラッカマイヤー
   出演:デンゼル・ワシントン/ポーラ・パットン/ヴァル・キルマー/ジム・カヴィーゼル

映画や小説の世界でしか味わえないのがタイムトラベルなので、主人公がタイムマシンに乗って誰かを救いに行くという設定が悪いとは思わない。ただ、この映画の中ではそれがしっくりこなかったというのが正直な感想。冒頭のフェリーの爆発からはじまる緊迫したドラマは犯罪サスペンスの色合いが濃く、このまま犯人との対決を捜査官の視点で描くのかと思ったら、話は途中から思いもよらぬ展開を見せる。主人公が事件に巻き込まれた女性(そしてフェリーの乗客)を救うために、過去へ戻るという筋書きだ。もちろん爆破事件の犯人との対決は用意されているものの、主人公があっさりとタイムマシンに乗ったことで、一級のサスペンス映画がSF映画に変わってしまったのは残念に思った。

爆破事件の捜査に乗り出したATF(註:アルコール・煙草・火気および爆薬に関連する犯罪を取り締まる米国法務省内の機関)の捜査官ダグ・カーリン(デンゼル・ワシントン)はFBIとともに犯人を追ううち、クレア(ポーラ・パットン)という女性の変死体が爆破時刻の前に河から上がったことを知る。捜査の過程で彼女の車が爆破事件に使われたことに気づいたダグは、クレアの周辺を洗ううちに奇妙な既視感にとらわれる。一方FBIはダグとともに、政府が監視システムとして極秘裏に開発していた映像装置で、事故4日前のクレア宅の映像を検証する。画像を見ていたダグは、思慕に似た感情をクレアにいだく一方で、この映像装置の驚くべき秘密に気づく・・・・・・。

FBIの研究所で、関係者たちがタイムトラベルについて話す場面がある。時間をさかのぼって過去を変えた場合、枝分かれした支線が本来の世界になり、もとの世界はやがて終息すると彼らは話す。本線と支線は分岐点から別々の方向へ進み、二度と交わらないように見えるが、実はもとの世界にも、書き換えられた過去の痕跡が存在する。それがデジャヴ(既視感)として感じとれるという理屈は、信じがたいけれどおもしろかった。ダグは「痕跡」をたどって本線から支線に移動するが、支線に存在し続けることはできない。だからラストでダグに起きたことは、不運というよりむしろ「本線の終息」がもたらす当然の結果なのかもしれない。

主演のデンゼル・ワシントンはもちろん、脇を固めるヴァル・キルマー(「ドアーズ」、「セイント」)やジム・カヴィーゼル(「パッション」)はいずれも主役級の俳優たち。サスペンスタッチの活劇も堂に入った、なかなかの娯楽作だ。ただ、クレアを思うダグの気持ちの描き方が弱いように思え、そのせいか、タイムトラベルの動機が中途半端な印象を受けた。盗撮にも等しいクレアの映像を見て、ダグは命がけの救出を決意するが、それにはどうしても人助け以上の動機がなくてはならない、と感じる。もしそれがクレアへの淡い恋心だとしたら、時間の支線へ旅立つ動機としては弱すぎると思うのだが・・・・・・。



満足度:★★★★★★☆☆☆☆



<参考URL>
  ■映画公式サイト「デジャヴ」


DVD寸評◆ディセント

2007-02-15 10:32:41 | <タ行>
 

「ディセント」 (2005年・イギリス)
 監督・脚本:ニール・マーシャル
 出演:シャウナ・マクドナルド/ナタリー・メンドーサ
  アレックス・リード/サスキア・マルダー

ケイブ・ホラーというジャンルがあるかどうかは知らないが、洞窟を舞台にしたホラー映画は初めてだったので、思ったよりも楽しめた。登場人物がすべて女性というのも、めずらしい。事故で家族を亡くした友人を元気づけようと、5人の探検仲間が彼女を誘ってアパラチア山脈奥地の地下洞窟へ探検にいく。しかし途中で落盤事故が起きて、6人は地図もない洞窟内に取り残されてしまう。これだけでも十分に怖いのだが、その先に待ち構えていたのは、未知の恐怖だった・・・・・・。

撮影のための光源はもちろんあるのだが、闇に支配された洞窟の雰囲気はなかなかのもの。洞窟という場所そのものが持つ恐怖は、暗闇や閉所に対するわたしたちの恐怖を否応なくかき立てる。視覚を奪われた世界に取り残された絶望的な状況のなかで、6人が生存への執念を見せる場面もいい。だからこそ、中盤から登場する生き物(?)の設定については、評価が分かれるのではないかと思う。ホラーはラストシーンが気にかかるものだが、この作品のラストに漂う壮絶な絶望感はどう解釈すればいいのだろう。そういえば冒頭の事故に続く病院のシーンが夢のように描かれていたことが気にかかる。もしかするとこの映画のラストには、まったく別の解釈が成り立つのかもしれない。だとしたら、まだ救いがある。 


満足度:★★★★★★☆☆☆☆ 



どろろ◆父親に裏切られた息子の自己回復の物語

2007-02-11 00:36:17 | <タ行>
    

「どろろ」 (2007年・日本)
 監督:塩田明彦
 アクション監督:チウ・シウトン
 原作:手塚治虫
 出演:妻夫木聡/柴咲コウ/中井貴一/原田美枝子/瑛太

迷った末に上映館に足を運んだ。数ある手塚漫画の中でも『どろろ』は特別気になる作品だったから、原作と引き比べて不満に思うのだけはいやだった。けれども原作の誕生から40年後の銀幕の上で、「どろろ」や「百鬼丸」が血肉を得て動き回る姿も見逃したくはなかった。結局、公開初日から2週間近く経って観客もまばらな上映館で、映画版『どろろ』の筋を追った。

正直なところ評価を下すのはむずかしい。期待をしていなかったので、その分失望も少なかった。戦隊ものに出てくる怪獣のような魔物や、香港映画さながらの合戦シーン(アクション監督は『少林サッカー』や『HERO』を手掛けたチン・シウトン監督)には首を傾げたものの、主人公「どろろ」と「百鬼丸」の物語は根底で原作を踏襲しているように思えた。CGのつたなさに目をつむり、「どろろ」はどうせ女だからと割り切りさえすれば、がっかりしないで映画館を出ることもできる。「どろろ」役の柴咲コウも「百鬼丸」の妻夫木聡も予想以上の熱演だったし、中井貴一や原田美枝子など脇役陣もいい。映画の印象というのは、鑑賞前の期待度によって良くも悪くもなるものらしい。

手塚治虫原作の漫画『どろろ』は1967年に「少年サンデー」(小学館)に初掲載され、69年にはフジテレビ系列で全26話のアニメ番組として放送された(参照:ウィキペディア)。物語は、応仁の乱が幕を閉じようとする室町末期、武将である父親の野望の犠牲となって全身48箇所を魔物に奪われて誕生した「百鬼丸」の、数奇な運命を描いた異色作だ。今回、映画『どろろ』の公開に合わせて、一部のCATVでテレビアニメ全編が無修正で放送されたが、内容面で放送規定に抵触する差別的表現などが問題視された経緯もあり、これまで地上波での再放送はなかったと聞く。主人公の、体のほとんどを魔物に奪われ、生後まもなく川に捨てられるという苦難の物語は、時代が大きく波打っていた当時の世相ならともかく、今の時代が受け止めるにはあまりにも暗く重いのかもしれない。しかし物語の根幹には、生命の尊さを謳い、運命を克服して生きるすばらしさが一貫して流れていて、この作品を映画化することにはそれなりの意義があったと思いたい。

「百鬼丸」のキャラクターは、同じ手塚漫画『ブラックジャック』の主人公と重なるところが多い。「ブラックジャック」は悲惨な事故で母親を失い、自身も瀕死の重傷を負ってひとりの名医に助けられる。このとき彼の父親は、母と息子を捨てて外国で愛人と新生活をスタートさせる。「ブラックジャック」が後に世界的な医師となってから、息子の名声を知った父親はハンセン氏病にかかった妻(義理の母)を助けてほしいと申し出る。葛藤の末、「ブラックジャック」は病気で崩れた彼女の顔を死んだ母親そっくりに整形して、父親に復讐する。いずれの作品にも父の息子に対する身勝手な裏切りがあり、深い痛手を負わされた息子は壮絶な自己回復をめざして苦難の道を歩みだす。絶望を振り出しに痛々しい前進を続ける主人公の健気さは、二つの作品に共通する大きな魅力になっている。

一方、暗い運命を背負う「百鬼丸」に対して、「どろろ」は底抜けに明るくたくましい。しかし彼女の明るさは、悲惨な生い立ちの中で男子として生きることを強いられた虚構の上に成り立っている。腕に仕込まれた刀が目当てと言いながら「百鬼丸」に付きまとう「どろろ」の中で、もし女の自覚が生まれたらどうなるのだろうと思ったことがある。実はこの作品の中で、「どろろ」はすでに「女になるのは強い男に出会ったとき」と明言していて、彼女が「女」に変貌するのも時間の問題と思われる。そうか、どうりで父親・醍醐景光との山場を早々と見せてしまったわけだと、続編を意図するラストの断り書きを見て思った。もう一つの山場は、きっとこれからだ。



満足度:★★★★★★★☆☆☆



<参考URL>
■映画公式サイト「どろろ」




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ディパーテッド◆ハリウッド流「無間道」の乾いた殺意

2007-01-24 01:16:52 | <タ行>
    

 「ディパーテッド」 (2006年・アメリカ)
  監督:マーティン・スコセッシ
  製作:マーティン・スコセッシ/ブラッド・ピット
  出演:レオナルド・ディカプリオ/マット・デイモン
      ジャック・ニコルソン/マーク・ウォールバーグ

香港マフィアと警察の抗争を描いた「インファナル・アフェア」を、マーティン・スコセッシ監督がリメイクしたハリウッド映画。オリジナル作品ににじみ出ていた東洋的な感傷をいっさい排して、スリリングな犯罪サスペンスに仕上げている。リメイクだからといって必ずしも比較する必要はないのだろうが、「インファナル・アフェア」をシリーズで観ていたので、やはりオリジナルとの対照は気になった。

「インファナル・アフェア」で潜入捜査官のヤンが醸し出す、どこかやさぐれた風体や哀感は、ディカプリオが演じるビリーにはあまり感じられなかった。警察に送り込まれたマフィアの手先、ラウの野望や情念も、マット・デイモン演じるコリンの中では希薄化しているように映った。警官対マフィアの緊張をはらんだ対立劇も、オリジナルのほうが無駄なく鮮烈に描かれていたと思う。ただ、タイトルが「死者」を意味しているように、この作品の殺しの描写はよりいっそう殺伐としていて、センセーショナルに感じられた。

描き方の差といってしまえばそれまでだが、やはりアジア映画とハリウッドの感性の違いが表れているのではないだろうか。プロットはオリジナルをほぼ踏襲しながら、潜入捜査官ビリーとマフィアの手先コリンの対立軸が、ジャック・ニコルソン演じるマフィアのボス、コステロの圧倒的な存在感の前に薄まってしまい、ストーリーそのものが散漫になったように感じた。それにしても152分(オリジナルは102分)とはかなりの長尺だ。

ひとつよかったのは、ローリング・ストーンズやジョン・レノンの曲が随所に使われていたこと。特に冒頭シーンに流れるストーンズの「ギミー・シェルター」には感動した(単に個人的趣味で)。スコセッシ監督はストーンズに何か思い入れでもあるのだろうか。そういえば彼は「ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間」も手掛けている。もしやと思ってストーンズのドキュメンタリー映画「ギミー・シェルター」を調べてみたが、こちらはスコセッシ作品ではなかった。

ゆうべ午後10時過ぎ、アカデミー賞のノミネーションが発表された。allcinema lineによると、「ディパーテッド」は<作品賞>、<監督賞>、<助演男優賞>ほか5部門にノミネートされている。たしかにディグナム警部を演じたマーク・ウォールバーグは出番が少ないにもかかわらず、印象に残った。野卑なせりふを機関銃のように投げつける姿は、ティム・バートンの「サルの惑星」の頃と比べると、ぐっと渋みが出たように思う。助演男優賞の受賞を、ぜひ期待したい。

   

満足度:★★★★★★★☆☆☆




 「ディパーテッド」公式サイト




鉄コン筋クリート◆魔の再開発から町を救った少年たちの物語

2006-12-26 13:07:51 | <タ行>
   
 
 「鉄コン筋クリート」 (2006年・日本)
  監督:マイケル・アリアス
  アニメーション製作:STUDIO4℃
  原作:松本大洋(「鉄コン筋クリート」)
  声の出演:二宮和也/蒼井優

昭和の下町を思わせる架空都市「宝町」を舞台に、自由奔放に生きる二人の少年が町を乗っ取ろうと企む大人たちに戦いを挑む異色のアニメ作品。屋根から屋根へと飛び移り、町の空を自由に飛びまわるクロとシロは、宝町を「オレの町」と呼んではばからない。そこへ再開発の動きに乗じて町を牛耳ろうとするヤクザが乗り込んでくる。宝町を守るために組の事務所を襲撃したクロだったが、やがて彼らの背後にさらなる闇が控えていることに気づく。そしてある日、シロが謎の殺し屋に襲撃された・・・・・・。

郷愁をかきたてる宝町は、店の看板から電信柱、路地裏の貼り紙に至るまでどこまでも緻密な筆致で描き込まれている。インドや香港を思わせるアジア風のテイストと昭和中期の東京がごっちゃになったような、懐かしく、時に猥雑で混沌とした魅惑的な町だ。あまりの美しさに、この街並みをゆっくり堪能したいと思っても、アップテンポな物語はそれを許さない。贅沢な細密画のような背景の上を、クロとシロが豪快に飛びまわって、場面は次々と切り替わる。この愛すべき町に再開発の波が押し寄せる。それも暗い軋みを伴って・・・・・・。町のヤクザはじめ少年たちを取り巻くアウトローたちの物語も過不足なく描かれていて、作品にさらなる厚みを与えている。

主人公の少年たちの名前は象徴的だ。二人は互いの孤独を絆に分かちがたく結びついている。クロはシロの守護者として強さで周囲を圧倒するが、シロは暴力に対して負い目を感じ続ける。そしてクロに欠けている「ねじ」を、自分が持っていることに気づく。この気づきが、最後にクロを暗闇から救う。暴力描写も多いこのアニメにささやかな清涼感を与えているのは、対照的な二人の少年の強い愛の絆と、救いを感じさせるラストシーンだろう。劇場にはカップルの姿が目だったが、シロののほほんとした女性的な存在感が、このアニメをカップルでも楽しめる作品にしているのかもしれない。

空を駆ける二人の超人的な能力は、少年期の純粋な心の表現にも思えるのだが、パリのストリート・パフォーマー「ヤマカシ」のような人々が現実にいることを考えると、妙な説得力がある。そういえば自分もずっと夢の中で飛んでいた。もう久しく見ることのない飛行夢を、この作品を見て懐かしく思い出した。



満足度:★★★★★★★★☆☆



【追記】「宝町」とはまた少し趣がちがうものの、すばらしい都市感覚を持つ
     もう一つのアニメの秀作があります。YAMATOWORKSの「カクレンボ」です。
     レビューを以下に掲載していますので、興味のある方は併せてご覧ください。

      カクレンボ◆禁断の遊びに隠された町の秘密