好きな映画だけ見ていたい

劇場映画やDVDの感傷的シネマ・レビュー

どろろ◆父親に裏切られた息子の自己回復の物語

2007-02-11 00:36:17 | <タ行>
    

「どろろ」 (2007年・日本)
 監督:塩田明彦
 アクション監督:チウ・シウトン
 原作:手塚治虫
 出演:妻夫木聡/柴咲コウ/中井貴一/原田美枝子/瑛太

迷った末に上映館に足を運んだ。数ある手塚漫画の中でも『どろろ』は特別気になる作品だったから、原作と引き比べて不満に思うのだけはいやだった。けれども原作の誕生から40年後の銀幕の上で、「どろろ」や「百鬼丸」が血肉を得て動き回る姿も見逃したくはなかった。結局、公開初日から2週間近く経って観客もまばらな上映館で、映画版『どろろ』の筋を追った。

正直なところ評価を下すのはむずかしい。期待をしていなかったので、その分失望も少なかった。戦隊ものに出てくる怪獣のような魔物や、香港映画さながらの合戦シーン(アクション監督は『少林サッカー』や『HERO』を手掛けたチン・シウトン監督)には首を傾げたものの、主人公「どろろ」と「百鬼丸」の物語は根底で原作を踏襲しているように思えた。CGのつたなさに目をつむり、「どろろ」はどうせ女だからと割り切りさえすれば、がっかりしないで映画館を出ることもできる。「どろろ」役の柴咲コウも「百鬼丸」の妻夫木聡も予想以上の熱演だったし、中井貴一や原田美枝子など脇役陣もいい。映画の印象というのは、鑑賞前の期待度によって良くも悪くもなるものらしい。

手塚治虫原作の漫画『どろろ』は1967年に「少年サンデー」(小学館)に初掲載され、69年にはフジテレビ系列で全26話のアニメ番組として放送された(参照:ウィキペディア)。物語は、応仁の乱が幕を閉じようとする室町末期、武将である父親の野望の犠牲となって全身48箇所を魔物に奪われて誕生した「百鬼丸」の、数奇な運命を描いた異色作だ。今回、映画『どろろ』の公開に合わせて、一部のCATVでテレビアニメ全編が無修正で放送されたが、内容面で放送規定に抵触する差別的表現などが問題視された経緯もあり、これまで地上波での再放送はなかったと聞く。主人公の、体のほとんどを魔物に奪われ、生後まもなく川に捨てられるという苦難の物語は、時代が大きく波打っていた当時の世相ならともかく、今の時代が受け止めるにはあまりにも暗く重いのかもしれない。しかし物語の根幹には、生命の尊さを謳い、運命を克服して生きるすばらしさが一貫して流れていて、この作品を映画化することにはそれなりの意義があったと思いたい。

「百鬼丸」のキャラクターは、同じ手塚漫画『ブラックジャック』の主人公と重なるところが多い。「ブラックジャック」は悲惨な事故で母親を失い、自身も瀕死の重傷を負ってひとりの名医に助けられる。このとき彼の父親は、母と息子を捨てて外国で愛人と新生活をスタートさせる。「ブラックジャック」が後に世界的な医師となってから、息子の名声を知った父親はハンセン氏病にかかった妻(義理の母)を助けてほしいと申し出る。葛藤の末、「ブラックジャック」は病気で崩れた彼女の顔を死んだ母親そっくりに整形して、父親に復讐する。いずれの作品にも父の息子に対する身勝手な裏切りがあり、深い痛手を負わされた息子は壮絶な自己回復をめざして苦難の道を歩みだす。絶望を振り出しに痛々しい前進を続ける主人公の健気さは、二つの作品に共通する大きな魅力になっている。

一方、暗い運命を背負う「百鬼丸」に対して、「どろろ」は底抜けに明るくたくましい。しかし彼女の明るさは、悲惨な生い立ちの中で男子として生きることを強いられた虚構の上に成り立っている。腕に仕込まれた刀が目当てと言いながら「百鬼丸」に付きまとう「どろろ」の中で、もし女の自覚が生まれたらどうなるのだろうと思ったことがある。実はこの作品の中で、「どろろ」はすでに「女になるのは強い男に出会ったとき」と明言していて、彼女が「女」に変貌するのも時間の問題と思われる。そうか、どうりで父親・醍醐景光との山場を早々と見せてしまったわけだと、続編を意図するラストの断り書きを見て思った。もう一つの山場は、きっとこれからだ。



満足度:★★★★★★★☆☆☆



<参考URL>
■映画公式サイト「どろろ」




にほんブログ村 映画ブログへ

コメント (2)   トラックバック (13)   この記事についてブログを書く
« DVD寸評◆LOFT ロフト | トップ | DVD寸評◆ディセント »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (betty)
2007-02-11 15:44:09
はじめまして。
トラックバックをありがとうございます。
とても素晴らしいレビューですね!
「ブラックジャック」と「どろろ」との共通項など興味深く読ませていただきました。
ありがとうございます。
こちらからもTBを送らせていただいたのですがうまく飛ばないようです。すみません。
またよろしくお願いします。
●bettyさん (masktopia)
2007-02-12 09:47:56
コメントありがとうございます!

ブラックジャックと百鬼丸の人物像はよく似ていますね。
どちらも不幸な親子関係を背負っているので、どこか
醒めた目で人生を見ているところがあります。
「ブラックジャック」には細かい部分にも「どろろ」の
要素が遊びのようにはめ込まれているんです。たとえば
百鬼博士という医者が出てきたり(笑)
とにかく手塚ファンには楽しめる映画でしたね。

こちらからもまた寄らせていただきます。
どうぞよろしく。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

<タ行>」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事

13 トラックバック

「どろろ」映画感想 (Wilderlandwandar)
映画の日に頑張って色々見たオマケで、ポイントが貯まって只券をゲットしたので見てき
どろろ (いいかげん社長の日記)
昨日は、「どろろ 」「幸せのちから 」の公開でした。 金曜日の飲み会で、みんな「どろろ」に期待してたので、とりあえず「どろろ」を選択。 「UCとしまえん 」は、やっぱ結構人が多い。 「どろろ 」も、大きいスクリーンで7割近く入っている感じでした。
『どろろ』 完成披露試写会鑑賞 (映画な日々。読書な日々。)
戦国の世を憂う武将の醍醐景光(中井貴一)は、乱世を治める力を得るため、自分の子である百鬼丸(妻夫木聡)の体から48か所を魔物に差し出してしまう。やがて体の一部を取り戻せることを知った百鬼丸は、魔物退治の旅に出る。一方、コソ泥のどろろ(柴咲コウ)は百鬼丸の強
どろろ (頑張る!独身女!!)
感動ありつつ、笑いあり。見せ場あり。そんな作品でした。
自らを取り戻す戦い (CINECHANの映画感想)
24「どろろ」(日本)  賢帝暦3000年頃、終わりのない戦国の世を憂う武将・醍醐景光は戦乱の世を治める力を得ることを魔物に申し出る。見返りは自分の子供の体48箇所を差し出すこと。  20年後、医師・寿海み仮の体と護身の妖刀を与えられた子供は見事に成長...
どろろ (八ちゃんの日常空間)
次の時代を彷彿させる素晴らしい映画でした。やるじゃん!アジア圏や世界配給を狙って最初から作るのでしたら、もう少しアジアの才能を集めても良かったのではないかと思いますけどね。日本の特撮世界と香港のマーシャルアーツが融合すれば、きっと凄い世界観を産めると思...
どろろ(2007/日本/塩田明彦) (CINEMANIAX!)
【VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ】 とある時代のとある国。戦乱が続き、荒廃が進む世を憂う武将・醍醐景光(中井貴一)は、国を治める力を手に入れるため、生まれてくる我が子の体48箇所を48体の魔物に差し出した。醜い姿で生まれ、そのまま捨てられた赤ん坊・百鬼...
映画 「どろろ」 を見ました (THE有頂天ブログ)
1月27日より公開されている映画「どろろ」を見てきました。 ■「どろろ」パンフレット (600円) ■DVD:どろろ (出演 妻夫木聡、柴咲コウ) ■DVD:どろろ Complete BOX 映像化不可能といわれた手塚治虫の漫画を実写映像化した作品。 妻夫木聡&柴咲コウと...
ニュージーランド政府観光局推奨【どろろ】 (犬も歩けばBohにあたる!)
「日本映画の歴史を変える!」 と大々的に宣伝してる「どろろ」見てきました。 うー
「どろろ」試写会レビュー 心のエンターテイメント (長江将史~てれすどん2号 まだ見ぬ未来へ)
エンターテイメントという響き、映画好きでは嫌いな方も多いと思います。でもこの作品についてはどうでしょう。急降下して墜落しするのか、急上昇して宇宙に行くのか、力強く世界へ羽ばたいた日本映画。
映画どろろ観たよ (ぱるぷんて海の家)
「どろろ」観てしまいました。 3週連続1位と言うのも誇張じゃない、確かに満席に近い状態です。 漫画の実写版なので若年層が多いのかと思っていたが、中高年やどろろには興味なさそうなお婆さんグループなどもいて人気の層の広さを思わせます。 確かに手塚治虫の原...
真・映画日記『どろろ』 (CHEAP THRILL)
2月15日(木) 体調が良くなったので、 終業後、有楽町にある「有楽座」へ『どろろ』を見に行く。 客入りは40人くらい。 妻夫木クンと柴咲コウが出ているわりに入ってないとみるか? 辛うじて原作の雰囲気を出せているような気がするし、 柴咲コウの熱演も...
映画「どろろ」 (しょうちゃんの映画ブログ)
2007年8本目の劇場鑑賞です。「黄泉がえり」「この胸いっぱいの愛を」の塩田明彦監督作品。手塚治虫の同名漫画を映画化した冒険活劇大作。失われた元の体を取り戻すため魔物との闘いを繰り返す百鬼丸とそんな百鬼丸をつけ回す盗人・どろろが繰り広げる旅の行方を壮大なス....