
「トゥモロー・ワールド」 (2006年・アメリカ/イギリス)
監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:P.D.ジェイムズ(「人類の子どもたち」)
出演:クライブ・オーウェン/ジュリアン・ムーア/マイケル・ケイン/クレア=ホープ・アシティ
この映画の原題はイギリスのミステリー作家P.D.ジェイムズの原作と同じ「Children of Men」(人類の子どもたち)なのだが、むしろ邦題の「トゥモロー・ワールド」のほうが、明日にも起きるかもしれない世界をそのまま暗示していてぴったりのタイトルに思える。いまからおよそ20年後の西暦2027年、人類の出生率は急激に低下し、ついに世界で最後の子どもといわれた18歳の少年が死亡する。世界は秩序を失い、多くの国々が崩壊の一途をたどる中、イギリスだけは軍隊によってかろうじて体制が維持されている。その陰には、移民や不法入国者を厳しく取り締まる圧制があり、各地で反政府勢力による暴動やテロが頻発していた。この殺伐とした世界に、子どもを奇跡的に宿した移民の少女が現れて、主人公セオとともに「未来」への脱出を計ろうとする・・・・・・。
ひとことでいうと、秀作だと思う。人類が生殖能力を完全に失うという設定自体はSF映画のものだが、ここに描かれている世界の様相は、2006年の世界そのものを反映している。先進諸国で深刻化する少子化問題、ヨーロッパに大挙して流れ込む移民、政治や宗教問題に端を発する爆破テロ・・・・・・いまの世界を巧妙に写し取ったこの作品を、アルフォンソ・キュアロン監督はこう語ったという。「原作はSFだったが、この映画をフィクションにするつもりはなかった。<近未来>をいいわけにして<現在>を描き、観客に衝撃を与えたかった」
その衝撃は、キレのいい展開と臨場感あふれる映像によって、生々しいばかりの現実感を伴って客席に届く。冒頭のロンドン市街での爆破テロにはじまり、終盤の数分にも及ぶワンショットの戦闘シーンまで、映像、ストーリーともにただならぬ緊迫感に満ちている。行きがかり上、少女を港へ送ることになった主人公セオは、最後には混乱の中、命がけで少女を守る行動に出るのだが、その気負いのない自然な人物像には好感が持てた。熾烈な戦闘の場へ、セオが丸腰で少女を探しに行き、赤ん坊とともに救出するくだりは、無名の一市民が英雄に変わる印象的なシーンだった。大勢の兵士たちが赤ん坊の泣き声を聞いて発砲を止め、二人を静かに見送る場面は、救世主の到来を思わせる神々しささえ感じられた。
セオの元妻で、彼に少女を託す反体制グループのリーダー、ジュリアンや、セオの友人で元フォトジャーナリストのジャスパーら、周りを固める脇役陣の設定も過去に遡って深く掘り下げられていて、物語にいっそうの厚みを与えている(とくにジャスパーの家で流れる60~70年代のUKロックや大麻といった小道具は、その年代の人たちには説得力を持つにちがいない)。内容、映像ともに隅々まで堪能できる一編。
満足度:★★★★★★★★☆☆