最近はお目にかかっていないが、畑の多い道路脇に人参やナス、キュウリなどを籠に盛ってあり、すぐそばに貯金箱風の料金入れが置いてあるのをよく見かけた。無人である。これは黙って持っていく人がいない、さらに料金箱を盗む人もいないということを前提に成り立っている。
かつて2002年ごろ、ソフトバンクはADSLモデムをパラソル販売部隊が配りまくった。これも見ず知らずの人に書いてもらったサインのみを頼りとする販売方法で、オーナー社長である孫正義氏のみが決断実行できる、驚くほど大胆な手法であり、行き過ぎの批判も受けた。それはともかく、この手法は日本人の一般的なパーソナリティーを意識的に認識していないとできない手法だ。あるときの経営会議で孫正義氏がこの手法の危うさを危惧する幹部の発言があった。大方のメンバーの意見を代弁したものといってよい。それにに対し、いろいろと説明をした後、「日本人は正直なんだよ」と感に堪えない風に発言をするのを聞いて、彼の口から出たために、私には一層日本人の特性が印象づけられた。
幼年期に我が生家は隣を貸しており、八百屋を中心としたよろず屋を商っていた。隣の奥さんは広島の山奥からきていた人で男勝りの豪快な笑い声が今でも耳に残っている。その奥さんは毎朝隣の市の青果市場まで買い出しに出かけ、行商人が背負うような大きな風呂敷を背中いっぱいに抱えては店にならべて売っていた。朝から買い出しに行くのだが、その間、店は無人になる。近所のお客は野菜や簡単な惣菜を持って帰る。なにか帳面につけて帰るのだろうか。月末に〆て金を払う仕組みであった。多少のごまかしはあったのだろうと思うが、その分少し割高な料金を取っていたのだろう、特に問題もなく店は繁盛していた。
その後海外に出かけることが多くなったが、野菜の置きっぱなしやモデムの無差別配布、無人商店などついぞお目にかかったことがない。もちろん中には不心得者がある確率で必ずいるのだが、全体にみると埋没してしまう程度なのだ。
バリや海外でのささやかな滞在での経験だが、どこの国に限らず、一般的に海外では目の前に金目のものを置いたほうにも落ち度がある。この根底にあるものはやはり文化と呼んで差支えのないものなのだろう。日本だけが異常で、特殊な国であるという認識をもたないと、行き過ぎた疑念の持ちすぎや日本風の信頼感などと中庸でない感覚をもってしまい結果的に裏切られたとショックを受けて腹立ちまぎれに正しい立脚点にたった関係を結ぶことが難しくなる。
ねこばばという言葉がある。お前はねこばばしたというと決定的に人間関係を壊すほどのかなり強烈な非難の言葉だ。ところが、これを英訳すると犯罪の臭いがほとんどしない。
研究社 新和英中辞典
ねこばば 猫ばば
⇒→ちゃくふく
猫ばばをきめこむ pocket
用例
彼は歩道で 1 万円札を拾ったが, 誰もみていなかったので猫ばばをきめこんだ. He found a ten thousand yen note [《主に米国で用いられる》 bill] on the pavement [《主に米国で用いられる》 sidewalk], but, since nobody was around, he pocketed it.
「汝盗むなかれ」や仏教の五戒の一つである不偸盗戒の概念にはいるのかどうか、日本以外でこの種の”犯罪”がどの程度の深さで認識されているのかがいまだによくわからない。それと恥の概念などたぶん、日本人一般が考えるのとはかなり違うはずだ。
一週間ほど前に、以前サダサリで日本人女性が殺された事件の判決が載っていた。主犯30年、他の男は10年の懲役刑を言い渡されたとあった。この判決文が気になっている。バリの観光産業に重大な影響を与えたことが強調されていた。日本ではこのようなことは強調しないだろう。このあたりにも罪にたいする考え方と文化の違いの臭いをかぎ取るのだが。
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