NHKもたまにこういうドラマをやってくれるので見放すことができません。やるからには視聴率次第で尻切れにしたり、当初の筋書きを途中で強引に変えたりしないので、安心感があるのが良いところです。勤め人にとって平日はなかなかドラマを見ることができないので、土曜の夜にもっと編成すればよいのにと思っていたのですが、この枠は「ハゲタカ」や「フルスイング」と評判のよい秀作がちらほら出てきています。
先週の第1回放映の途中から見て惹きつけられたのが、夏川結衣主演の土曜ドラマ『トップセールス』。ホンダからBMWのトップセールスを経て、初の女性支店長からBMW東京の社長になっただけでなく、その後請われて再建途上のダイエーのCEOにも迎えられた伝説のセールスマンである林文子さんをモデルにした一代記です。林さんのインタビューを読むと、こういう人はある種の天才で、誰もが真似できるわけではありません。BtoCの営業は、坊主めくりみたいに「ハイ次いってみよう!」てな感じでゲーム感覚にすることができる、どこか突き抜けた人が向いているのではないかと思いますが、まさにポジティブシンキングで、当時女性があまり持たせてもらえなかった名刺を配るのが楽しくて、飛び込みが苦にならなかったというのだから恐れ入ります。
物語は、70年代に繊維会社のOLから車の販社に転職した女性の奮闘を描いています。当時は女性の自動車セールスなんて皆無に等しい状況です。免許も持っていない主人公の久子は、自転車で飛び込み訪問に明け暮れますが、たいていが門前払い。ようやく1軒奥さんといい感じで話ができたお宅とアポがとれた久子は、所長からも「ホット(客)にするよう詰めて来い!」と励まされ週末に勇躍出向くも、そこの世帯主・村上(風間トオル)に「免許も持っていない女性のセールスから車を買う気はない」と冷たくあしらわれます。先週の第1回はここまでです。
「クルマ屋と不動産屋と株屋には娘をやれない」なんて言われたのは、そんなに昔の話ではありません。ドブ板を踏む営業が差別されていたというよりも、プレッシャーがきつく、実績に応じたリターン(報酬)が大きいため、その振幅の大きさゆえに遊びに走る人が多いという意味で、一般にはヤクザな業界と見られていたんですね。だから大事な娘が苦労するだろうと、親は躊躇したのです。
このドラマは、企業が今よりもずっと男性社会だった頃の営業の世界の話です。特に車は今でこそミニバン全盛なので、ディーラーのショールームは禁煙でキッズコーナー完備だし、どちらかというと奥さんに訴求するようなCMの方が多くなっていますが、当時は自家用車といえば夫のものだったんですね。だから商談の場でも奥さんは完全にほったらかしです。林文子さんも語っていますが、男性セールスはスペックに走るというか、すぐにメカの話から入ってしまう傾向があるので、ますます女子供が置き去りにされることになるのですが、彼女は女性セールスの持ち味を活かしてその逆を行ったというわけです。その独自の接客でメキメキ頭角を現すことになるのです。
今日の第2回は「最初の一台」。さすがに教習所に通い始めた久子は、母・光枝(十朱幸代)が昔行商をしていた頃に、御用聞きをして喜ばれていたことを思い出し、自分の営業にも取り入れようとします。あるとき台風襲来で多摩川が決壊しそうになり、久子は村上家の妊娠中の妻・多恵(りょう)を助けて避難所へ。夫妻に久子の誠意が伝わり第1号の客となります。観ていて自分の初受注を思い出してジーンときました。私の場合も一見ビジネスに関係ないことをして差し上げて、他社に決めようとしていたお客さんがそれに心を動かし契約してくださったのです。何年経っても、初めてのお客さんというのは忘れられません。
もう一つ思い出したのが、新人営業研修で上映された『てんびんの詩』というレトロな映画ですが、今でも企業の人材教育のバイブルになっているそうで、観たことがある方もいるかもしれません。私が観たのは第1部「原点編」なのですが、近江商人の象徴でもある天秤をタイトルにしたこの作品は、「売る者と買うものの心が通わなければモノは売れないんだよ」ということを教えるための教材として、今もバイブル的に使われているそうです。たしかにビジネスの真髄という意味では普遍性があるのですが、「おお! そうか」と膝を叩いて夜討ち朝駆けに励んだ素直な私たちと違って、今の若手は非論理的な精神論・根性主義と敬遠しそうです。「御用聞き営業」という言葉も、最近はすっかりネガティブに使われることが多くなりました。御用聞きと「コンサルティング営業」は決して対立する手法ではないと思いますが。そんなことよりも、リンク先のあらすじをつらつら眺めていると、この歳になって気づくこともあります。
それは、『てんびんの詩』では行商する少年の周囲の大人たちが皆、本人が気付くまで我慢していることです。思わず手を差しのべたくなる母親はもちろん、親戚や取引先の人たちも敢えて心を鬼にしてこのぼんぼんを突き放すわけです。大勢が協力して次代の人材を育てようという文化があるのです。子育ても「育てる=我慢」だというのが頭ではわかっていても、実行するのは本当に難しい。プロ野球の日ハム中田翔も、あれだけ騒がれていたのに、開幕して1ヶ月もしないのにもう既に話題にも上らなくなり、二軍でくすぶっているようです。それを考えるとあの世界の王貞治はデビューから26打席ノーヒットだったわけですが、我慢して使い続けた水原監督はグレートでした。
ドラマ『トップセールス』に話を戻すと、番組プロデューサーは「実はこの昭和49年から50年代は、ドラマ制作にあたって魔の時代です。次々と新製品が作られては廃棄されていった時代で、場面を再現するモノがほとんど残っていないのです。ドラマに登場するクルマだけではありません。画面に映る事務用品や家電製品、衣裳、メイクひとつひとつにスタッフの力が注がれています」と語っている通り、風俗考証も電卓やコピー機などの小道具や備品を集めてくるのも大変だったでしょう。そういう努力にも敬意を表しますが、それよりもまっとうな大人の役者を起用すれば、骨の通ったドラマになるというのを民放ドラマ製作者も再認識してほしいと思います。
主演の夏川結衣の実年齢は今年40歳ですから、本人は24歳役を演じるのをだいぶ気にしていたようですが、全然OKですよ。キラキラ輝いていて全く違和感がない。30年前の女性の方が大人びていたでしょうから、ちょうど良いくらいです。また、久子が父のように慕う営業所長役の蟹江敬三がいい味出していますね。凄いリアリティーを感じます。現役時代は1日1台売った凄腕セールスだったという設定のようですが、営業会社の所長というのは、売れなかったけど人柄がいいなどという人がなることはまずありません。総じて元トップセールスですから、部下が何を考え行動しているかなんて全てお見通しなんです。でも根がマメでアクティブなものですから(だから売れていたわけで)普段机にじーっと座っている居心地の悪さを抱えているので、自然と渋面になるのです。その辺りの機微というか雰囲気が実によく出ていて、厳しくもあり温かくもあり、余分なことをいわずに営業所全体を睥睨する岡野所長を蟹江敬三が好演しています。私も営業所育ちですが、ああこうだったなあと懐かしさを覚えてしまいます。
しかし、「クルマを売ることは乗る人の未来を一緒につくること」と信じて、ひたむきにセールスする女性の一代記なんて、クルマ離れが深刻で、国内市場がシュリンクする今、自動車メーカーが進んで全面協力しているのもわかるような気がします。販促というより郷愁という意味で・・・。
先週の第1回放映の途中から見て惹きつけられたのが、夏川結衣主演の土曜ドラマ『トップセールス』。ホンダからBMWのトップセールスを経て、初の女性支店長からBMW東京の社長になっただけでなく、その後請われて再建途上のダイエーのCEOにも迎えられた伝説のセールスマンである林文子さんをモデルにした一代記です。林さんのインタビューを読むと、こういう人はある種の天才で、誰もが真似できるわけではありません。BtoCの営業は、坊主めくりみたいに「ハイ次いってみよう!」てな感じでゲーム感覚にすることができる、どこか突き抜けた人が向いているのではないかと思いますが、まさにポジティブシンキングで、当時女性があまり持たせてもらえなかった名刺を配るのが楽しくて、飛び込みが苦にならなかったというのだから恐れ入ります。
物語は、70年代に繊維会社のOLから車の販社に転職した女性の奮闘を描いています。当時は女性の自動車セールスなんて皆無に等しい状況です。免許も持っていない主人公の久子は、自転車で飛び込み訪問に明け暮れますが、たいていが門前払い。ようやく1軒奥さんといい感じで話ができたお宅とアポがとれた久子は、所長からも「ホット(客)にするよう詰めて来い!」と励まされ週末に勇躍出向くも、そこの世帯主・村上(風間トオル)に「免許も持っていない女性のセールスから車を買う気はない」と冷たくあしらわれます。先週の第1回はここまでです。
「クルマ屋と不動産屋と株屋には娘をやれない」なんて言われたのは、そんなに昔の話ではありません。ドブ板を踏む営業が差別されていたというよりも、プレッシャーがきつく、実績に応じたリターン(報酬)が大きいため、その振幅の大きさゆえに遊びに走る人が多いという意味で、一般にはヤクザな業界と見られていたんですね。だから大事な娘が苦労するだろうと、親は躊躇したのです。
このドラマは、企業が今よりもずっと男性社会だった頃の営業の世界の話です。特に車は今でこそミニバン全盛なので、ディーラーのショールームは禁煙でキッズコーナー完備だし、どちらかというと奥さんに訴求するようなCMの方が多くなっていますが、当時は自家用車といえば夫のものだったんですね。だから商談の場でも奥さんは完全にほったらかしです。林文子さんも語っていますが、男性セールスはスペックに走るというか、すぐにメカの話から入ってしまう傾向があるので、ますます女子供が置き去りにされることになるのですが、彼女は女性セールスの持ち味を活かしてその逆を行ったというわけです。その独自の接客でメキメキ頭角を現すことになるのです。
今日の第2回は「最初の一台」。さすがに教習所に通い始めた久子は、母・光枝(十朱幸代)が昔行商をしていた頃に、御用聞きをして喜ばれていたことを思い出し、自分の営業にも取り入れようとします。あるとき台風襲来で多摩川が決壊しそうになり、久子は村上家の妊娠中の妻・多恵(りょう)を助けて避難所へ。夫妻に久子の誠意が伝わり第1号の客となります。観ていて自分の初受注を思い出してジーンときました。私の場合も一見ビジネスに関係ないことをして差し上げて、他社に決めようとしていたお客さんがそれに心を動かし契約してくださったのです。何年経っても、初めてのお客さんというのは忘れられません。
もう一つ思い出したのが、新人営業研修で上映された『てんびんの詩』というレトロな映画ですが、今でも企業の人材教育のバイブルになっているそうで、観たことがある方もいるかもしれません。私が観たのは第1部「原点編」なのですが、近江商人の象徴でもある天秤をタイトルにしたこの作品は、「売る者と買うものの心が通わなければモノは売れないんだよ」ということを教えるための教材として、今もバイブル的に使われているそうです。たしかにビジネスの真髄という意味では普遍性があるのですが、「おお! そうか」と膝を叩いて夜討ち朝駆けに励んだ素直な私たちと違って、今の若手は非論理的な精神論・根性主義と敬遠しそうです。「御用聞き営業」という言葉も、最近はすっかりネガティブに使われることが多くなりました。御用聞きと「コンサルティング営業」は決して対立する手法ではないと思いますが。そんなことよりも、リンク先のあらすじをつらつら眺めていると、この歳になって気づくこともあります。
それは、『てんびんの詩』では行商する少年の周囲の大人たちが皆、本人が気付くまで我慢していることです。思わず手を差しのべたくなる母親はもちろん、親戚や取引先の人たちも敢えて心を鬼にしてこのぼんぼんを突き放すわけです。大勢が協力して次代の人材を育てようという文化があるのです。子育ても「育てる=我慢」だというのが頭ではわかっていても、実行するのは本当に難しい。プロ野球の日ハム中田翔も、あれだけ騒がれていたのに、開幕して1ヶ月もしないのにもう既に話題にも上らなくなり、二軍でくすぶっているようです。それを考えるとあの世界の王貞治はデビューから26打席ノーヒットだったわけですが、我慢して使い続けた水原監督はグレートでした。
ドラマ『トップセールス』に話を戻すと、番組プロデューサーは「実はこの昭和49年から50年代は、ドラマ制作にあたって魔の時代です。次々と新製品が作られては廃棄されていった時代で、場面を再現するモノがほとんど残っていないのです。ドラマに登場するクルマだけではありません。画面に映る事務用品や家電製品、衣裳、メイクひとつひとつにスタッフの力が注がれています」と語っている通り、風俗考証も電卓やコピー機などの小道具や備品を集めてくるのも大変だったでしょう。そういう努力にも敬意を表しますが、それよりもまっとうな大人の役者を起用すれば、骨の通ったドラマになるというのを民放ドラマ製作者も再認識してほしいと思います。
主演の夏川結衣の実年齢は今年40歳ですから、本人は24歳役を演じるのをだいぶ気にしていたようですが、全然OKですよ。キラキラ輝いていて全く違和感がない。30年前の女性の方が大人びていたでしょうから、ちょうど良いくらいです。また、久子が父のように慕う営業所長役の蟹江敬三がいい味出していますね。凄いリアリティーを感じます。現役時代は1日1台売った凄腕セールスだったという設定のようですが、営業会社の所長というのは、売れなかったけど人柄がいいなどという人がなることはまずありません。総じて元トップセールスですから、部下が何を考え行動しているかなんて全てお見通しなんです。でも根がマメでアクティブなものですから(だから売れていたわけで)普段机にじーっと座っている居心地の悪さを抱えているので、自然と渋面になるのです。その辺りの機微というか雰囲気が実によく出ていて、厳しくもあり温かくもあり、余分なことをいわずに営業所全体を睥睨する岡野所長を蟹江敬三が好演しています。私も営業所育ちですが、ああこうだったなあと懐かしさを覚えてしまいます。
しかし、「クルマを売ることは乗る人の未来を一緒につくること」と信じて、ひたむきにセールスする女性の一代記なんて、クルマ離れが深刻で、国内市場がシュリンクする今、自動車メーカーが進んで全面協力しているのもわかるような気がします。販促というより郷愁という意味で・・・。
「フルスイング」は、彼の両親が
はまっていたのをオススメされて
私も途中からみてました。NHKは
派手ではないですが、いいドラマやってますよね。
けど彼のうちはNHKフリークなのか、
泊まっている間、ほかの局をみているのを
目撃したことがありません。笑
NHKは報道もドラマもドキュメンタリーもスポーツもお金に糸目をつけずに制作できるので、はまった時はやはりクオリティーが高くなりますね。
ダイエーは畑違いで上手く行きませんでしたが、今度は楽しみですね。
林さんは、プレーヤーとしてもマネージャーとしても数字をあげてきた人なので、引く手あまたなんでしょうね。