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「あかん。人類は滅びるしかない。」:梅棹忠夫にとって「暗黒のかなたの光明」とは?

2011年06月12日 | 知のアフォーダンス

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昨年7月に90歳で亡くなった梅棹忠夫さんの足跡をたどる「ウメサオタダオ展」国立民族学博物館)の会期が、この14日で終わる。私は、梅棹さん(関西人の気安さと関西弁丸出しの語り口にたいする親しみやすさから、そう呼ばせていただく)と同時代を生きた一人として、その活動をまぶしく眺めながら、フィールド調査や文明論から刺激を受け、『知的生産の技術』によって知的活動の極意を学ぼうとしてきた。梅棹さんは、ものごとの本質を分かりやすいことばづかいで語ることでも定評がある。たとえば「あるきながら本をよみ、よみながらかんがえ、かんがえながらあるく」(小長谷有紀編『梅棹忠夫のことば』p.6、河出書房新社)ということばは、学びのありかたを的確に表している。だが、梅棹さんの真骨頂は、何と言っても、その発想(ひらめき)にあると私は考えている。川喜田二郎氏に魅かれるのもこの点だが、この二人にとって発見や創造の源泉となる発想やひらめきはどのようにして生み出されるのだろう? それは、おそらく理論的にはアブダクション(abduction)や創発(emergence)といった概念によって説明されるのかもしれないが、実践的には、きっと二人が使っていたツールや技術が大きく関係しているにちがいない。思考の道具に着目することによって、学校で学び方の指導をするときにも、ただ情報や資料をかき集めて、こぎれいにまとめるだけの調べ学習と、自由な発想に導かれて発見と創造をおこなう探究活動との違いを明確にできるのではないか。そんなことを考えていた私は、展覧会で梅棹さん直筆のカードやノート類を目の当たりにして、感慨深いものがあった。

しかし、その時々の梅棹さんをフォローし刺激を受けてきた私は、展覧会場で見た、見事に整理された梅棹さんの90年の生涯に少しばかり物足りないものを感じた。「知の巨人」といわれた梅棹さんだが、はたして自分の人生にまったく悔いはなかったのだろうか? 失明してからも旺盛な執筆活動をつづけ、膨大な論文や著作を残した梅棹さんが、語りつくせなかったことはないのだろうか? そんなことを考えていた私にとって、6月5日にNHK教育テレビで放映されたETV特集「暗黒のかなたの光明~文明学者 梅棹忠夫がみた未来~」は見ごたえがあった。今回の展覧会のために資料を整理しているときに、未刊の書『人類の未来』のためにつくられた目次が発見された。番組は、梅棹さんがそのエピローグの最後に記した「暗黒のかなたの光明」の意味を読み取ろうとするもので、NHKオンデマンドで19日まで配信されている。

『人類の未来』をめぐるいきさつは、4月末に出た河出書房新社の『KAWADE夢ムック 文藝別冊 梅棹忠夫 地球時代の知の巨人』で詳しく取り上げられている。科学は私たちに目先の幸福はもたらしてくれるが、長期的に見ると科学万能主義と飽くなき知的好奇心の行き着く先は人類の破滅である。梅棹さんは人類の未来について、そんな予測をしていたらしい。晩年に語ったという「あかん。人類は滅びるしかない。大脳が大きすぎるからや」(同書p.51の小池信雄氏による回想)ということばは衝撃的だ。そんな未来の暗闇に光明を見いだす「英知」はないのだろうか。梅棹さんは、桑原武雄氏との対談のなかで「科学を趣味にしたらええ。人生の生き甲斐としてね」(同書p.59)と語っている。科学技術は、利潤追求や、他人を支配するための合理的な手段にもなるし、搾取に奉仕し、環境を悪化する原因にもなる。そんな功利的な目的と結びついた科学技術を解放し、純粋な「遊び」にすればいいのだという。はたして私たちは老荘思想に立ち帰るべきなのだろうか?

奇しくも、この展覧会が始まった3月10日の翌日、東日本大震災と福島原発の事故という、まさに文明の危機を実感し、それに立ち向かわざるをえないできごとが起こった。これを契機にして私たちは、これまでの生き方から脱却して文明の大転換をはかれるのだろうか? 梅棹さんが残した課題にどう応えるかが問われている。

梅棹忠夫---地球時代の知の巨人 (文藝別冊)
クリエーター情報なし
河出書房新社
文明の生態史観 (中公文庫)
梅棹忠夫
中央公論社
知的生産の技術 (岩波新書)
梅棹忠夫
岩波書店
アブダクション―仮説と発見の論理
米盛裕二
勁草書房

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