ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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プロジェクト学習と学校図書館(『フィンランドに学ぶ教育と学力』を読んで)

2005年08月29日 | 知のアフォーダンス
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 かつて、ジョン・デューイとキルパトリックによって提唱されたプロジェクト・メソッドが、いま、新しい展開を見せている。プロジェクト・メソッドとは、子どもたちが身の回りにあるさまざまな事象を深く調べる、経験的な学びであり、その最大の貢献は、教育を教師中心から学習者中心に転換したことにある。子ども自身が計画を作り、活動しながら、課題を解決するプロセスを通じて生きるための知識や知恵を獲得するプロジェクト・メソッドの特徴は次のように要約できる。
・ 明確な目的と、はっきりとしたテーマを持っている。
・ 子どもを地域と関わらせる。社会への参画や直接的経験に基づいて「知的能力」をはぐくむ。
・ ただ調べるだけでなく、子どもたちとの話し合い、体験や調査によって学んだことをさまざまな形で表現し、発表することまで含める。
・ 全過程を通して協同(コラボレーション)を行なう、親や地域の人との協同。専門家。子供同士の協同が促される。
しかし、子どもたちに自分の学びのすべてに責任を持たせることは、とくに低学年では難しいのではないかという懸念もある。現在、幼児教育の専門家シルビア・シャード(カナダ、アルバータ大学教授)が進めているプロジェクト・アプローチは、すべてを子どもたちに任せるのではなく、適宜、教師がガイドあるいはファシリテーターとして介入することによって低学年でも可能だという。
 このようなプロジェクト・アプローチにおいて、メディアセンターとしての学校図書館が重要な役割を果すことはいうまでもない。ジョン・デューイは『学校と社会』のなかで、生活経験を重視する学びの中心に図書館を置いて、直接経験をもとに知的能力を育む学校のありようを提示し、今もアメリカやカナダの多くの学校では、本物の学びのためのメディアセンターとして図書館が物理的にも機能的にも学校の中心に置かれている。日本でも、戦後まもなく、児童生徒の生活経験を中心とするコアカリキュラムとして導入されたが、やがて、高度な思考や知識の体系化などに繋がらない「這い回る経験主義」と批判され、衰退していった。学校図書館が生活実践を支え、それを拡張するカリキュラムの展開に活用される実践は広がらなかった。そのような学校図書館の役割は、平成14年の指導要領改正に伴う総合的な学習の時間の導入と共に再び注目されるようになった。しかし、体験学習のカリキュラムが組みにくい、基礎学力が身につかないなど、多くの現場の教師たちは苦悩している。
 最近出版された『フィンランドに学ぶ教育と学力』(明石書店、2005)によると、プロジェクト学習と図書館の活用が、OECD(経済協力開発機構)による国際学力調査(PISA)で高い水準を示して注目を集めているフィンランドの教育の鍵になっていることが読み取れる。第1章「フィンランドの子どもと教育の今」を通じてあちこちに、フィンランドにおける読書活動の推進や学校図書館や地域図書館の果す役割が報告されている。第2章以降では、そのような学びを支える教育システムやユリア・エンゲストロームの社会構成主義理論を取り上げており、課題の共有とその解決を目的としたコラボレーション(協同活動)は、プロジェクト学習の新たな展開といえる。
 しかし、学力・読解力向上のための対症療法を見つけようとしてこの本を読んでも、学ぶべきことは少ない。読み聞かせやブックトークをはじめとする読書推進活動や図書館の活用、総合学習など個々の取り組みは日本でも行なわれているもので、けっして目新しいものではないからである。私たちがフィンランドから真に学ぶべきことは、国民すべてが自由と平等を享受できる福祉社会を実現するため、社会・教育における構造変革に向けて行なわれた総合的な施策ではないだろうか。

フィンランドに学ぶ教育と学力

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