H8年10月
(略)
登山口から分岐を左に取ると、たちまちブナ林の中の本格的な登りになった
一服の場所も無い急登につぐ急登である この辺り紅葉には未だ早く木々の葉は青い
およそ1時間、漸く稜線に登りあげると視界が開け堂々たる守門岳(すもんだけ)が初めて姿を見せた
直角に曲がり大スラブを俯瞰しながら尾根上の歩きになったが
登りはこの後も続き尾根は次第に痩せて来た
岩混じりの急な登りには固定ロープが取り付けられている
標高を上げたせいか山肌に色の変化が出てきた
1000m地点の見晴らしを過ぎると道は下りに転じ、やがて瀬音が響いて来ると祝沢の水場だ
瑞々しい苔の付着した岩の間を清冽な流れがほとばしっている
石伝いに小さな流れを渡り落葉樹に覆われた流れの脇で一息入れもう一踏ん張り頑張ると
林が途切れ風にそよぐ草原が金色で私達を迎えてくれた
空は青く天井が外された様な解放感イッパイの三ノ芝である
周りを囲む灌木は黄葉しその中にナナカマドの赤い実が一際、鮮やかに目を惹く
その上に姿を消していた守門岳の頂稜部がお椀を伏せた格好で再び姿を見せた
ここにテントを張って迎える朝はどんなだろう
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三ノ芝を過ぎ二ノ芝を過ぎると真正面の守門岳が又一歩近づいた
山道は剥き出しの赤土道が随所にあり、おまけに谷川に傾斜しているので油断がならない
前者の滑った後を見る度に緊張させられた
とうとう私も横滑りし膝から下を泥だらけにしてしまった
山頂直下の草地で休憩を取っていると追いつ追われつしながらやってきたご夫婦が追いついて
自分たちが登った山の自慢話を一くさりすると「お先に」と言って山頂に向かったが
遅れ気味の奥さんの事等お構いなしで可哀そうにみるみるその差は開くばかり
「よしっ!」と気合を入れ私達も急坂を30分、最後の登りを頑張った
展望はぐるり360度 今までの苦労が一片に報われる景観だった
先ず目の前に丁度一年前に登った浅草岳が大きく駒ヶ岳、中ノ岳、八海山も意外に近い
その奥が燧ヶ岳、その直ぐ横に日光白根山も確認できる
反対側には青雲岳、大岳に連なる北西線がなだらかなウネリを見せ
その遥か後方に薬師岳だろうか、二つのピークをもたげたチョット気になる山が目に入った
右に目を転じると粟ヶ岳がドッシリトした山体をみせている
空気が澄んでいれば日本海に浮かぶ佐渡島まで臨む事が出来るのだとか
未知の山が多く確実な同定は無理だったが地図と照らし合わせ「だろう同定」をした後
昼食には少々早かったがお弁当を開く事にした
お腹が満ちシートの上で横になっている内、私は眠ってしまったらしい(↑)
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そうこうしている内に王岳方面から続々と登山者が到着して私達が腰を上げる頃には
こぼれ落ちそうなくらい山頂は人で溢れた
山頂を少し下ると草叢に満杯の頂を敬遠した五人組が気持ち良さそうに寝ていた
私もこの人たちに混じってもう一時を過ごして見たかったが秋の陽はつるべ落とし
この後の布引の滝への寄り道を考えると、そうノンビリしている訳にもいかなかった
祝沢の水場で一休みし再び樹林の中を下ると視界が戻り見晴らし台に着いた
守門岳はもう手の届かない場所に遠のいたが
目を凝らすと山頂直下の斜面を登って行く登山者の姿が小さく見える
「あれ下って来たんだね」と私達は暫くそこから離れられないでいた
周辺は「エッ!」と思う程、周囲の山々の紅葉の美しさ
それは朝方の渋い色合いで無く午後の陽の光のなせる技なのだろう
絢爛豪華とも言える色彩だった
ロープで3ヶ所下り、布引の滝への標識を確認し左に進路を取った
稜線からの下りは急峻で真下に向かって高度をどんどん下げて行く
木の根に掴まり滑りやすい道に気を使い とうとう膝が笑い出す
滝まで数分と書かれた標識を見た時には緊張感から解放され正直、体の力が抜けた
腐れ罹った木の階段を下ると小広い観瀑地に出た、下方は樹林に隠されて滝の全容を見る事は
出来なかったが見える範囲だけでも70~80mを越えるかと思われる落差を
細い水筋を何本も糸を引く様に落ちている
先ほどの下りで先を譲った熟年の登山者と共に歓声を上げた
4人が去って行った後、暫く二人だけの静かな時の中で心行くまで滝を眺め
それから、ゆっくり越しを上げた
滝の奥には見納めとなろう守門岳が輝いていた
「ラッキー」と言う声が後ろから聞こえた
振り向くと雄さんが黒い不気味なキノコをかざしている
プロでも中々見つける事が難しいといわれるコウタケだそうだ
私は半信半疑だったが雄さんは宝物でも見つけた様に興奮しきりだった
土地の人は貴重な物で有る為、干して正月まで保存し混ぜご飯にして食べるのだそうだ
主人が興奮するはずである
(直径1mもある倒木に道を塞がれたり藪漕ぎしたりと紀行文は未だ続きますが、それは略します)