靴

「･･･美奈、美奈。ちょっと･･･いい？」
「えっ亜美ちゃん！？どうしたの、休憩時間にわざわざ来るなんて珍しい」
「突然で悪いのだけど、美奈、体育館用の上履きを持っていないかしら？」
「体育館用の？あー･･･ごめん、持ってないわ。今日うちのクラス体育なくて･･･亜美ちゃん、次体育？」
「そうなの･･･でも、ごめんなさい、忘れて。美奈のクラスが今日体育がないのは知っていたのだけど、もしかしたらと思って」
「あっ、でも、あたし上履きはないけどバレーシューズなら持ってる！あれも体育館で履けるし、それでよかったら使って、亜美ちゃん」
「･･･いいの？それ、大切なものじゃ」
「いいのよぉそんなの。それに、体育館用の上履きより履き心地も機能性もずっといいわよ」
「ありがとう、美奈。汚したりしないように気をつけるわ」
「体育館でしょ？泥とか付くわけじゃないし、べつに普通に使ってくれていいわよ。それにしても珍しいのねー、亜美ちゃんが忘れ物なんて」
「いえ、忘れたわけじゃないのだけど、ちょっと汚れてしまって」
「えっ靴汚れたって･･･ま、まままさか誰かにいけずなことされたの！？だいじょうぶ！？」
「ち、違うの！いけずなことはされてないの！机の横のフックに上履きの袋を下げていたのだけど、隣の席の子がうっかりジュースをこぼしてしまって、それで･･･」
「あらー、それは災難だったのね」
「もちろん故意じゃなかったし、ものすごく謝ってくれたし、自分の靴を使ってとも言ってくれたのだけど、私とはサイズが合わなくて･･･それで、美奈なら持ってるかしらって思って･･･迷惑だとは思ったけど」
「迷惑なんて思わないわよ。むしろ亜美ちゃんの役に立てるならうれしいわ。はい、これ靴ね」
「ありがとう･･･」
「あ、靴だけでいいの？体操着は汚れてないの？」
「ええ、服は無事。靴だけでだいじょうぶよ」
「ええー･･･体操着も持ってたのにぃ」
「･･･なんでそこで残念そうなの？」
「いやーあたしの体操着を亜美ちゃんが着るのも、あたしが亜美ちゃんの使用済み体操着を返してもらうっていうのもおいしいなって･･･においとか･･･ふふふ･･･ふひひ･･･」
「･･････とにかく、靴だけお借りするわね。あ、きちんと洗って返すから」
「あ、いいわよ靴なんてあたしだってしょっちゅう洗ってないし。それに放課後部活あるから今日中に返してほしいの」
「そう･･･わかったわ。なら、終わったらすぐに返しに来るわね」
「はぁーい。授業がんばってね」













「美奈、ありがとう。おかげで助かったわ」
「はぁいどうもー。こっちもおかげで体育上がりの亜美ちゃんの靴のにおいを堪能･･･じゃなくて、亜美ちゃんの足をあたしの靴で守れたならよかったわ」
「それにしても、あなたの言うとおり、バレーシューズってとても履き心地がいいのね。上履きで慣れてたからびっくりしちゃった」
「そりゃー跳んだりはねたりする競技だもの。クッションも滑り止めもすごく利いてたでしょ」
「ほんとうにとても機能的だったわ。おかげで、なんだかいつもの授業より楽しくて」
「ならよかった。体育館用の上履きって底が固くて薄くて足の裏痛くなっちゃうじゃない？しかも通気性も悪いし･･･バレーシューズに慣れるとあの靴すごい蒸れて感じちゃうのよね」
「そうね･･･あ、でも、私は通気性の恩恵にはあずかれなかったわ。今度バレーシューズを履く機会があったらきちんと試してみる」
「えっ･･･どういうこと？そんなに蒸れたの？いや、汗が染みつくからあたしにはそのほうが好都合だけど･･･」
「えっと、あなたから大切なものを借りたのに洗ってお返しできないから、せめて汚さないようにって･･･靴下の上からビニール袋を履いてその上から靴を履いていたの。それでも履き心地がいいと感じたのだから、ほんとうにいい靴なのね」
「いやいやいやなにしてんのよ！？ビニール袋の上から靴履くとかなに！？潔癖！？いや、ただのいやがらせなの！？」
「あっ･･･そ、そうよね。よく考えたら、ビニール袋を履いて上から靴を履くのだったら、ジュースがかかった上履きでも履けたわね。ごめんなさい、同じことをしているのに、あなたの大切なものを使ってしまって。焦ってたからおかしなことをしてしまったわ･･･いやがらせと思われても仕方ないわね･･･」
「いやおかしいのってビニール履いてる行為そのものだからね！？普通に考えてもおかしいしあたし的にはなんらご褒美になってないんですけど！？」








　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


　バレーシューズはいいぞ。