プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

ToGetHer

2013-12-10 01:35:14 | SS





 これはなんの罰ゲームなのかしら、そう思いながらレイはもしかして今年一番かもしれないしかめっ面でいた。その背後ではまことがへらへら笑っているので殊更に眉間の皺が深まる。
 そしてへらへら笑って見ているだけで、決してまことは口も手も出してこない。学校でたまにある一発勝負の試験だって弓道の試合だって、こんなに緊張することなんてない。

 人の家の引き出しを勝手に開けたり、道具を使ったり、冷蔵庫の中を確認したり。こういうことは不作法に当たるとレイの感覚は認識しているから大いに抵抗もある。たとえまこと本人にお願いされても。

 それはまことの誕生日、朝の始業前。レイはまことの家に呼び出されていた。
 放課後は皆で火川神社でパーティーの予定があって、それはレイにとってはよい予定と思えることだった。まことの誕生日は素直にお祝いしたいと思ったし、いつもの仲間たちと集まるのも、お祝いしてもらってうれしそうにしているまことを見るのも、レイには楽しみな予定だった。大切な人の誕生日に大切な人の前で露骨にしかめっ面を作るほど、レイは偏屈ではないつもりだった。

 だが朝いちばん、へらへらしているまことに背を向けていらいらしている自分はなんなのだろう、と思う。まことも、普段お泊りなどでともに朝を迎えたときは、洗濯機を回したり植物に水や肥料をやったり細々と雑用をこなしたりいろいろ忙しいと知っているのに、今日に限って背後から椅子に腰かけただレイを見ている。

 視線に屈したら負けだ。レイは慣れない台所で調理道具に向き合い冷蔵庫を開いて、いろいろ考えて作業を開始した。しかし、緊張感は取れない。学校があるから時間とも戦わなければいけない。
 覚悟を決めて一度まことの方を振り返ると、当のまことは憎たらしいほどの笑顔を返してきた。おかげで、レイはその顔になにか投げつけてやりたい衝動とも戦わねばならなくなった。






「いただきます」

 両手を合わせ、礼儀正しい仕草で頭を下げて、まことは箸に手を伸ばす。お椀を取ってじっくり香りを確かめて、目を閉じてじっくりと味わう。それを真正面で見ながら、レイは居心地の悪さに目を細めながらご飯を口に押し込んでいた。

 前日の夜、誕生日だからお願い事があるんだけど、と妙にかしこまった口調で頼まれて、なにかと思って、朝いちばんで構えながらやってきたらば朝食を作ってほしい、と言われて。そして、今。
 誕生日の特別な朝、レイとまことは向き合って食事を取っている。

「レイ、おいしい」
「・・・それは、どうも」

 まことはレイにへにゃへにゃと笑っていたが、レイは内心複雑だった。
 料理が仲間内で最も得意、店で出したって問題ないだろうと思えるレベルの料理を出すまことに見守られて朝食を作るということは、レイにとってはある意味覚悟のいることだった。家庭で料理をしないことはないが、どうしたってまことに敵うはずもないし、普段はむしろ自分がやりたいからとレイを座らせる方なのに、今日は。
 そもそもレイは日頃食べるものの味に頓着しない方だから、いざ人に出すとなると、途端に手の動きがぎこちなくなる。結局サラダやオムレツやみそ汁といった定番のものを作って並べただけだ。朝だったのもあるし人の家で遠慮したというのもあるが、凝ったことはできなかった。
 それでも、少なくともうれしそうにしてくれているその態度に安心して自分もいる。

「毎日このお味噌汁飲みたいな」
「・・・冗談やめて」
「本気なんだけどなあ」

 軽い言葉に思わず顔を上げたら、先ほどと違ってまことは笑っておらず、レイをまっすぐ見つめていた。その視線をなぜか直視し続けることができなくて、レイは目をそらす。
 そんなレイの態度にまことは特に気を悪くするでもなく、おかずにも箸を伸ばした。

「レイの料理は、味つけは薄めでだしはしっかりしてるね。素材の味が活きてていいな」
「作り方がいい加減なだけよ・・・日によって味違うし」
「うん。そういうの、好き」

 今度は笑顔だった。適当なのか本気でそう思っているのか判断しかねるまことの言葉と態度に、素直に頷けないレイはどぎまぎしながら食事を胃に落としていく。どことなくぎこちないまま忙しなく時計を見て、始業時間が迫っているのが残念なような早く来てほしいような心持ちに支配される。とかく落ち着かない。
 料理をしているところを黙って見られるのもこうして目の前で自分の作ったものを食べられているのも、落ち着かない。どう考えたってまことが自分で作ったものの方がはるかにマシだろうし、手間を厭う性質でもないだろうに。

「・・・まこと、聞いていい?」
「ん?」
「どうして、急に朝食なんて?」

 意を決してレイは尋ねてみる。まことはきょとんとした顔をした後、口の中のものを飲み下して、目を細める。

「迷惑だった?」
「そうじゃないけど・・・どうしてこんなに急に・・・と思って。もっと早く言ってくれたらメニューだって考えたし、材料だって用意したのに」
「うん。だから言わなかったんだ」
「・・・はあ?」

 ぴくり、と眉が動く。レイも、まことも。レイはぐっと眉根を寄せて、まことはぎゅっと眉尻を落とす。

「あ、いや、別にレイを試そうとか思ったわけじゃないよ、でも」
「・・・でも?」
「先にお願いしたら、レイって真面目だからさ。きっと、いろいろ考えていろいろ用意して、がんばってくれるんだろうな、と思って」

 それはそうだろう、とレイは思う。事前に誕生日に料理を振る舞ってほしいと言われたら、困惑はしても断ることはしなかったはずだ。まことの方が料理がうまいなんてもうわかりきってコンプレックスにすらならないけど、それでも、せめて自分ができる最大限の努力をして彼女の希望に応えられたら、と思う。
 刻んだ生野菜に市販のドレッシングをかけただけのサラダを咀嚼しながら、レイは、出汁と塩で味付けしただけの具のないオムレツをつつくまことを見る。自分だけが食べる分には構わないが、せめてもっと時間があったら。もっと材料を自分で選んで揃えていれば。作っている最中、まことがそばにいなければ―もう少し、まことに食べてほしいと思える料理ができたのに。

「あたしは、さ。レイが料理作ってくれるところが見たかったんだよ」
「・・・だから、もっと早く言ってくれたら、もっと早く準備して」
「そうじゃなくってね」

 まことは火の通っているところと通っていないところがまだらなオムレツを箸で裂いて、律儀に小皿で受け止めてから口に運ぶ。さっきまで自分がフライパンの上で難儀して作ったものを目の前で口に運ばれるのはどこか気恥ずかしい。まことも普段レイに食事を作ってくれた時、そんな思いをしながらこちらを見ているのだろうか、と思う。
 まことの作ってくれた料理をいつも無愛想な顔で食べている自分を、それでもこんな思いを抱えながら微笑んでくれているのだろうか。それとも自分とまことはまるで別の生き物で、精神構造がそもそも違うのかもしれない。まことの言葉を待ちながらレイはいろいろ考える。

「勉強したかったんだ」
「勉強・・・?」
「うん。あたしってさ、女の子らしいとこなんにもないからって料理始めてさ・・・ひとり暮らしだし、特に好き嫌いとかないから、まあまあ自分でいろいろするようになったけど・・・やっぱり、限界で」
「限界って?」
「いくらテレビや本のレシピを参考にしたり、学校の授業や料理研のものを参考にしたりしても、やっぱりあたしの作った料理はあたしが作ったものでしかないんだよね」
「・・・?」

 レイは首を傾げる。まことが作った料理がまことの作ったものなのはそれはそうだろう。あれだけのレパートリーと技術を誇りながらなおも勉強がしたいと言ったり限界を感じているという言葉は、レイにははわからない。それに学びたいのなら、なおさら自分の素人料理などを欲しがる理由がわからない。
 わからないけど、耳はしっかり傾ける。

「家庭の味ってやつ、かな」
「はあ?」
「凝ったものじゃなくていいんだよ・・・むしろ、なんの準備もしない料理が欲しかったんだ。包丁の使い方とか、調味料入れるタイミングとか、出汁のとり方とか・・・そういうの、うまい下手じゃなくて、その人の個性とか食べてきたものが見える気がするんだ」

 がたがたに刻まれたサラダ。味の薄い味噌汁。熱の通りのまだらなオムレツ。食べられないレベルで失敗する方が難しいような料理だからこそ、もとの技術が浮き彫りになる。
 もっと時間があったら。人の家でなければ。まことの目線がなければ。今でもそう思っているのに。

「いきなり無理なこと言ってごめん。でも、先に言っちゃったらレイはきっと頑張ってくれるだろうなって思って。それはそれでうれしいけど、でも」
「・・・趣味悪いわね」
「誕生日は、なにをお願いしても許されるんだよ。たぶん」

 のんきな口調。味噌汁をすする音。誕生日だからなんて理由で毎日こんな味噌汁を飲みたいなんて言われてはたまらない。

 これから学校に行かなければいけないなんて、嘘みたいんだ。休日の朝を一緒に過ごすことはあったけれど。朝食を一緒にすることもあったけれど。
 それとも、いつかこういうのも日常になるのだろうか。それは少し恐ろしいような、待ち遠しいような。

「レイの味、覚えたよ」

 今日見たこと食べたものをこれから参考にするね、と言って、まことはにこりと笑う。
 作ったものは大した量ではない。学校に行く時間は迫っている。まことはきれいな仕草で食器を置くと、両手を合わせてごちそうさま、と頭を下げた。レイはお粗末さま、とだけ言った。正直、緊張していたからあまり味を感じなかった。それもあって、ぶっつけ本番で料理など作りたくなかったのに。






「じゃあ、また放課後」
「うん。楽しみにしてる」

 まことの家からでは、レイの学校は遠い。作っておいて後片付けはまことに任せる形になった非礼を詫びて、レイは一足先に玄関に向かった。まことは植物に水をやってから学校に向かうそうだ。玄関までレイを送りながらまことはそんなことを言う。

「朝から来てくれてありがとう」

 上着を羽織り、マフラーを巻いて靴を履くレイの支度を待つように、まことはレイの鞄を携えている。

「こうやってると、旦那さん送り出すみたいだね」
「・・・だから、冗談やめてって」

 レイの思いのほか低い声に、まことはむ、と口をつぐんだ。ああもう、誕生日にそんな顔させたくないのに。そして大切な人の誕生日に大切な人の前で露骨にしかめっ面を作るほど、レイは偏屈ではないつもりなのに、眉間の皺はどんなに頑張っても取れない。思えば食事中も結局ずっとこんな顔だった。少しだけ陰ったまことから鞄を受け取ると、レイはさも今思い出したとでもいうような口ぶりでまことに向き合った。

「・・・あなたももう16歳なのね」

 初めて会ったときは中学生の時だった。その時から劇的に変わったなんて思わないけれど、少なくとも自分たちの関係は変わったし、やはり、成長している、と思う。相変わらず身長差はあるけど昨日までは自分より年下だった人を見上げ、レイは覚悟を決めた。結果、また眉がぎゅっと寄ってしまって、まことは困惑の表情になる。相当不機嫌に見えたのかもしれない。

「・・・なあレイ、わざわざ呼び出して」
「まこと」
「無理に料理させたのは悪かったと・・・なに?」
「あげる」

 鞄から手のひらに収まるサイズの小箱を出して、まことの胸元に正拳のように腕を突き出した。不審そうに目を細めるまことに舌打ちしたくなったが、もう後戻りはできなかった。
 誕生日プレゼントなのに、とかく自分のことには察しが悪い。自分が欲しいものを言っただけで満足して、レイがなにも考えていないとでも思っているのだろうか。
 やはりまことと自分は別の生き物だ、レイはしびれる脳みそでしみじみとそう思う。

「・・・なに、これ?」
「開けてみれば」

 不審そうな態度を隠さないまま、箱を開くまこと。蝶番で開く形になっているからそれを開いても中身はレイからは見えなかったが、まことの表情が変わったのを見るに、中身は把握できたらしい。
 箱の中身を凝視して、さっきまでレイがやっていたような、眉間にしわを寄せた不機嫌そうな表情。長いまつ毛がかすかに揺れて、これ以上ない不審そうな顔。

「おい、正気か?」

 ああ、本気の言動を疑うような態度を取られるとこれだけ腹立つのね、とレイはかっとなる頭の片隅で珍しく冷静な自己分析をする。自分がされて嫌なことは人にしないこと、だからさっき自分の素人料理をおいしいと言ってくれたのも毎日食べたいと言ってくれたのも、信じることにしよう。頬を若干ひきつらせながら、それでも信じてもらうには自分が信じる姿勢を見せなければ、と殊勝にも思う。

 だって、今日はまことの誕生日だから。怒ったり逃げ出したくなる衝動をぐっとこらえる。突きだした腕を下ろすことは、しない。

「・・・ええ正気よ。残念ながら」
「・・・・・・・・・」

 まことはなにも言わない。動きもしない。レイは反応に困る。受け取ってもらえないのなら腕を引っ込めるべきだろうか。とにかく脳がしびれて、冬なのに変な汗が出る。まことはしばらく珍獣でも見るような目をしていたが、やがてようやく箱の中身を手に取った。

 指に光る、指輪。受験前のとある敵との戦いで、酔っぱらったまことが欲しいと言っていたのを聞いていたから、合格祝いには間に合わなかったが誕生日には渡そうと決めていた。薔薇のものにしなかったのは、無意識とはいえ先輩の名前を出したことに対してのくだらない意地だ。
 そして、16歳という、法律上でも認められる節目の年でもあったから。自分たちは法律上結ばれることはできないけれど、その年齢には達したし、相応の覚悟はあるから。だからシンプルなリングを贈ろう、と決めた。

 だからずっとそわそわして、料理なんてまともにできる精神状態じゃないほど緊張していたのに。さっき毎日味噌汁が飲みたいだの家庭の味を勉強したいだの旦那さんを送り出すだの、なんでもないように先を越されたりして。
 だからつい邪険な態度を取ってしまったり、結局ずっと顔をしかめたままだった。

「・・・いらないなら、いいわよ、べつに」

 高校生の小遣いの域から出ないまでも、それなりに気を利かして探したものだった。だが、こればかりはまことが受け取る意思がないのなら素直に引くべきだと覚悟していた。
 心臓がちりちりと痛くて、酸素が薄く感じる。いつ渡そうかと構えていたときよりも、苦しい。

 もう、ほんとうに学校に行かなければいけない。逃げ出したい気持ちとずっとここにいたい気持ちがせめぎ合って、膝ががくがくと震えた。相変わらずまことは、先ほどのレイをそのまま映したようなしかめっ面で。

「・・・じゃ」

 あまりにもリアクションのないまことにしびれを切らせて、レイが手を引っ込めようとしたのと、まことのしかめっ面が変わらないまでも、そのまなじりからはみ出すように涙を落としたのは同時だった。
 一度落としてしまったものはこらえるのが利かないらしい。拮抗は同時に破ったが、崩れたのは、まことの方だった。

「・・・なんで泣いてるのよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・私、学校行かなきゃいけないんだけど」
「・・・・・・・・・」
「まこと」
「・・・・・・・・・」

 まことはレイを体ごと抱きすくめたまま、レイがなにを言っても返事をしないままぐずぐずと泣いていた。その体勢のおかげでまことが泣く姿をこれ以上見ないですんだが、誕生日に一番させてはいけない顔をさせてしまったとレイはぼんやりと思う。おまけに振りほどくなんてとてもできないから遅刻確定だ。放課後はみんなでパーティーがあるから、居残りは困るというのに。

 それでも、レイはようやく笑った。大切な人の誕生日に、一番素直な表情でおめでとう、とだけ言ってその体をぎゅっと抱きしめ返した。








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 まこちゃんおめでとうございます愛してますまこレイ増えてください!!!!!
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2 コメント

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コメ2 (May)
2013-12-11 03:48:57
マー坊さん、こんばんは~♪

レイちゃんの手作り料理と、
プロポーズキタ━(゜∀゜)━ああああああああああ!(落ち着いて!
お嫁さん泣かないで(白目w
そういえば、前の『クリスマスプレゼント』で、レイちゃんもまこちゃんに指輪をあげましたね(笑)意味が全然違いますけど( ´艸`)まこちゃんにとって、今年の冬はきっと、いつもよりあたたかいと思います。



まこレイ、ほんとにスウィートだね♡
マー坊さん、ごちそうさまでした☆

相変わらず、パワーいっぱいもらいますので、日本語の勉強も頑張り続けます(〃▽〃)
ありがとうございました!

そして、もう一回
まこちゃんお誕生日おめでとう~ヽ(´▽`)/

Mayより

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うっひょう (マー坊)
2013-12-12 23:50:50
 おひさしぶりです!

 あえてレイちゃんが料理をするというシチュエーションがいいなあと思ったもので・・・
 そして古い話を覚えていてくださって恐縮です!指輪をあげるシチュエーションはかぶってしまいましたが、今回はレイちゃんに思い切ってもらいましたw

 まこレイ好きをこじらせすぎた変態サイトですが、少しでもMay様の励みになればよいなと思います。まこレイ流行れええ!!!!

 では、コメントありがとうございました!
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