うそつき ２

また電話がかかってきた。
また『もしもし』と言ったきり、沈黙、沈黙、沈黙。
「ねぇ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・なんか言ってよ」
『・・・・・うん・・・・・・・』
「ねぇ、どうして？」
『ん？』
「どうして言ってくれなかったの？」
『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・返事！」
『はい』
そっちの返事じゃない！
『・・・・・・・・・・・・』
「話してよ」
『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・ねぇ」
『・・・・・・・・話したじゃん』
「ねぇ、なんで言ってくれなかったの？なんで黙ってたの？」
『・・・・・・・・・・』
「信じらんねー・・・・・・・・・・」
雨の音が聞こえる。ダーリンは外にいる。
「信じらんねー・・・・・・・」それしか言葉が出なかった。
「いつ結婚したの？」
『籍入れた時？』
「そうだよ」
『籍入れたのは・・・・去年の９月』
・・・・・・・！そんなに前なの？
「子供は？いつ生まれたの？」
『つい最近・・・・去年』
「の、いつ？」
『１２月・・・・・か』
急に涙が溢れてきて、声がふるえちゃった。
「なんで・・・・・・信じらんねー」
そのままグシグシ泣いちゃった。
「どうして・・・・・・どうして・・・・・」
ダーリン、気まずそうに時折咳払いをしている。
「ねぇ、子供生まれたばっかじゃん！可愛い盛りじゃん！なんでこんなコトするのよぉ！！」
『・・・・・・・・ごめん』
「そりゃね、ダーリンに彼女いることは知ってたよ。知ってた。でもね、ダーリン、結婚したんでしょ！？子供もいるんでしょ！？コレは浮気じゃないんだよ！不倫って言うんだよ！！？」
『・・・・・・・不倫だね・・・』
あっさり「不倫」と認めてしまったダーリン。愕然とした。
「なんで！？ホントに子供は今が一番可愛いときじゃん！なんでアタシん所なんて来るワケ！？」
『おかしいよね・・・・・』
この人、本当にどうかしてる。
自分では不倫と分かっていながらアタシと関係を持ち続けたダーリン。
アタシは何も知らずにいつの間にか不倫してた。
どうしたらイイ？
何が一番イイの？
やっぱり好きなんだよ。
今まで好きだった人を突然嫌いになれるわけがない。
このまま関係を続けていいの？
どうしたらいいの？
「どうしたら・・・・・」
頭がぐるぐる。
ぐるぐる。
「ねぇダーリン、アタシはどうしたらいいの？」
なぜだか知らないけど、ダーリンに答えを求めてしまった。
ダーリンは無言。
ココでダーリンが、また続けようと言ったら、アタシは関係を続けていたのだろうか？
「ねぇ・・・・・どうしたら・・」
『・・・・・・・・・・・・』
「ダーリンは、どうしたいの？」
『・・・・・・・・・・・・・』
「返事」
『はい』
だから違う。
『俺は・・・・・・・・・』
いつもと違ってものすごく歯切れの悪いダーリン。
『俺は、まいと連絡取り続けていたいよ・・・・・・』
「そんなコトできると思ってんの！？」
本心は、自分もこうしたいんだろうなって思ってたけど、口をついて出たのはまったくの逆の言葉で。
頭と行動が一つにならない。
『だよね・・・・』
「そうやってダーリンは、アタシのコト都合よく利用するんでしょ！？」
『そんな「都合のいい」とか、「利用する」とか、そういう風に言わないでよ！そんなんじゃないよ！！』
ダーリン、声が荒っぽい。
前にもそんな口調の時があったよね。珍しい。
『俺さ、本当にまいと一緒にいると楽しくて。いつもまいは、俺の話・・・・・って言ってもほとんど愚痴だけど、愚痴でも何でも聞いてくれるから、だから言えなかったの』
そう言ってくれるのは嬉しい。
けどソレとコレとは話が違う。
ソコまでして会いたいのか？
セックス付で？
でもちょっと冷静になって、言っちゃった。
「まぁ子供なんて毎日顔見れるもんね」
『ちょっとゴメン、かけ直すから。車に乗る』
あぁ、勝手にしろ。
すぐかかってきた。
『めっちゃ髪が濡れた・・・』
「・・・・・・・・・・」
『すげーポタポタ垂れてる』
関係ない話をして話を逸らそうとするダーリン。
「ねぇ、子供は本当にダーリンの子供なんでしょ？」アタシはソレを許さない。
『分からない』
「ふざけてんの！？アタシのコトばかにしてんの！？」
『してないよ！なんでそんなコト言うの！？』
逆ギレモードに入ってきたダーリン。
「やってないのに子供が出来るワケないでしょ！？」
『やってないんだって！！』
「ははっ」笑ってしまった。鼻で。
『ははっじゃねーよ。こっちは真剣に悩んでんだよ！』
「は？こっちだって真剣に言ってんだけど」
『本当にやってないんだもん』
「ウソつけよ！」
『ホントにやってないの！俺だって知らなかったんだもん。本当はＫ（ダーリンの幼馴染で親友）に言おうとしたんだよ。相談をね。でもさー普通こんな事言えないじゃん！？だから俺も悩んでんの！』
どうかしてる。どうかしてる。

この人、どうかしてる。

つづく