パパったら

ものすごく久しぶりにパパにバレンタインチョコをあげた。
多分十年以上はあげてなかったと思う。
もとはＹ子がチョコを買うのに付き合ってあげただけなのに、気まぐれでパパに買ってあげた。
Ｙ子が『たまには買ってみたら？』なんて言うから。
ホテルオークラのチョコ。５００円くらいの。
なんとはなしに買ってあげて、バレンタイン前なのに渡した。
パパはしきりに『ありがとう』と言ってくれた。
買って良かったって思った。
ママは『お母さんには？』って言ってた。
数日後、実家に寄ったアタシ。多分ＶＤ当日。
パパはチョコを食べてくれた。
たった４粒しかないチョコ。そのうち１粒をママにあげたって。
『まいも食べるか？一つだけ残ってるんだ』
おいおい何日経ったと思ってるんだ。
「いんねーよ」パパのために買ってきたんだから、パパに食べて欲しかった。

そんでさらに数日後、つまり今日、なんとはなしに実家に寄ったの。
パパは飲み会に行っててママしかいなかった。
なんとはなしにパパの座椅子に座った。
そしたらパパの席のそばにこんなものが。

空っぽのチョコの箱、たたんだ包装紙、さらにそれを入れてた紙袋。
パパ、捨てないで取ってた。
『パパは、よっぽど嬉しかったんだろうよ』ガムを前歯でクチャクチャしながらママが言った。
思えばパパは、アタシに食べさせたくてチョコを一つ残しておいたのかもしれない。
パパはいつもそうだった。
たまに実家に帰った時の夕食が寿司や弁当で、パパとママの分しかなかった時、いつもアタシのために取っておいてくれた。
『ちょうど一つ残ってたんだ』
『お父さんお腹いっぱいだから持って帰れ』
本当はアタシのために取っておいてくれる。
でもいつもアタシは「いらねー」って言ってた。
『あ、そう』そう言うパパはいつもドコか寂しげだった。

椅子の片隅に置いてあったチョコの箱と包装紙を見て、とてもパパが愛おしく感じた。
いつも冷たく突き放してごめんね。心でそっと詫びた。
そして、もっとパパに甘えようと思った。