愛犬の具合が悪いみたい。

アタシは毎日、実家へ行く。
それは出勤前と、たまに帰宅前の２回。
それは実家にいる愛犬のため。
糖尿病の犬にインシュリンを打つため。
実家に住んでいる母と祖母は絶対に注射を打とうとしない。
父は打てるがサボる。２日に１度くらいしか打たない。
しびれを切らしたアタシは、一昨日から毎日帰り際も注射を打つことにした。
それは雨の日も風の日も、この間の台風の日も変わらず実家へ行った。
だけど今日。
今日は。
犬の様子が変だった。
ぐったりと横になっている犬。
たまにこんな日もあるが、今日はどこかおかしい。
近づいてみると、餌も食べていない様子。
もっと近づくと、吐いた跡があった。
なんか変だ。
インシュリンを打つ。
いつも痛がって軽く鳴くのに、動じない。
生気が感じられなかった。
アタシは毎日餌と水をやってる祖母へ聞いた。
朝から元気がないとのこと。昨日は元気だったこと。
確かに昨日は元気だった。
朝もいつもどおりだったし、夜だって母親と散歩をしてた。
だけど、その後親子で食事をしている時に、気がかりなことを聞いた。
父親が明け方犬に暴力をふるったらしい。
父が動物に暴力をふるうことは今に始まったことではなく、極端に言えばアタシに物心がついてるころからだった。
アタシはいつもとがめるのだが、当人には自覚がないようだった。責任も。
『俺が寝ているのにキャンスカキャンスカ鳴く犬が悪い。耳障りなんだよあの声よぉ。キャン！キャン！ってよ』
犬が鳴くたびにグチる父だったが、アタシはこの手のグチを聞かされるのがものすごく苦痛だった。
母親も同感だったらしく、昨日は珍しく父に抗議してた。
だからアタシは、犬が吐いたのは父の暴力のせいだと思った。
また犬のところへ戻ってみる。
戻した餌のほかに、黄色い液体がいくつも地面を汚していた。
胃液か、何かか。
とりあえず仕事に行かなければいけなかったアタシは、祖母に犬を託して職場に行った。
だけど落ち着くわけがなく、病院に連れて行ってやりたかった。
後輩に相談した結果、午後早退して病院に連れて行くことにした。
けど、けどやっぱり気がかりだったアタシは、朝礼が終わってすぐに上司に、午後早退ではなく、午後出社にして欲しいと言った

実家に戻ったアタシは、病院が始まる時間を見計らって開店直後に病院へ駆け込んだ。

一番乗りだったアタシは、すぐさま診察してもらえた。
体重を計る。計る度に減っている体重。
ガリガリに痩せた体。目はびっしりと目やにがこびりつく。息は浅く、早い。
台風で汚れてしまってる毛並み。口からは見たことない涎が。
見てるだけで涙が出てくる。
獣医に見せたくなかったので背中を向けた。
体温計を肛門から挿入し、体温を計る。３９，９度だった。
正直高いか低いかは分からないが、多分平熱だと思う。
獣医は痩せて胸がやけに大きいのを触りもせず、心音をしばらく聴診器で聞いたかと思えば、股間（膀胱？）をずっとまさぐってた。
原因が分からなかったので、とりあえずいつもの血液検査をし、よく分からない注射を２本打った後、透明な液体を上からつるし、背中へ点滴した。
その後獣医は処置室を出て、あたしは犬と二人にされた。
アタシはずっと犬の手を握ったりさすったりした。頭もずっと撫でてた。
糖尿病は本当に恐ろしい病気だ。
まさかうちの犬がこんなことになるなんて。
アタシは呆然としてた。
それと同時に、ペットの具合が悪いからと言って会社をサボる自分を、プロとしてどうかという思いにも駆られていた。
今日はたまたま落ち着いている時期だったからよかったものの、繁忙期だったら一体どうしていたのだろうか。
でもアタシは思う。

だってしょうがないじゃん。家族の容態が悪いんだもん、具合が悪そうなんだもん。
ほっとけないもん。
見捨てて仕事に行って、帰ってきたら・・・なんてやだ！
アタシは仕事より家族が大事なの。
絶対に後悔したくないんだもん。

ウソをついてまで会社をあとにしたアタシ。これでよかったと思ってる。
本当は犬を見た時に会社を休もうとも思ったが、先日サボったばかりだったため出社してしまった。
自己中心的な社員でごめんなさい。
そう浸っていると、獣医が戻ってきた。