流動のイイ女

妻子もちと別れ⇒いじめで会社を退職⇒脱無職⇒上司と不倫関係⇒約3年の不倫にピリオド⇒復縁、妊娠⇒未婚の母に

イヴイヴデート

2009-12-25 | 新しい仕事
23日はテツさんと東京へ行ってきました。
アタシ達はクリスマスも間近だと言うのに、プレゼントを用意してなくて。
テツさんと違って卑屈になってしまうアタシは、偽物の愛のためにプレゼントなんてもらいたくないと思ってしまう。

去年のクリスマスプレゼントは、アタシからはヴィトンの財布、テツさんからは一粒ダイヤのネックレスをもらった。
「クリスマスなんてくだらない」そうテツさんが言っていたので、アタシも特にこだわりがなかったからお互いプレゼントはなしということにした。
それなのに、プレゼントを買ってあげるとか言い出してきて。
自分だけもらうわけにもいかないから、じゃぁアタシも買ってあげると言うと、いらないと言う。
「まいの気持ちだけで俺は嬉しいんだよ」
そんなことを言ってくれるけど、アタシだってテツさんに喜んでもらいたいし、アタシがプレゼントしたものを身につけ使って欲しい。

「お揃いの何かが欲しいな。まいをいつでも感じられるように・・・指輪とか」
えっ。アタシは思わず驚く。
指輪・・・?ペアで?
冗談じゃないって思った。
だってアタシの指にはすでに2つのリングがはまっているし、何より結婚指輪以外お揃いの指輪なんて欲しくない。
だったら結婚指輪を買ってよ!
『やだよ、そんなもの。高校生じゃあるまいし』
アタシは言って、その案は却下された。
じゃぁ他にお揃いの何か・・・ネックレス?やだ。もうアクセサリーはいらないし、40近い男がネックレスなんてキモすぎる。
じゃぁ携帯ストラップ?悪くないけど、クリスマスプレゼントにしてはチープすぎる。
結局決まらないまま、今日に至る。

テツさんは隣県のショッピングモールで買い物をしようと提案してくれたけど、気が変わったのかいきなり東京に行こうと言い出した。
『東京?』アタシは迷う。買いたいものも定まっていないのに、いきなり大都会に出たりしたら、歩いたり時間ばかり食ってしまう。
それなのにテツさんは川崎にあるお店でもいいよと。
川崎は以前テツさんが出張に行った際、アタシの誕生日プレゼントを買ってきてくれたお店があるから、勝手がいいのだろう。
アタシは川崎には行ったことがなかったため、どうせならと川崎に連れて行ってもらうことにした。
電車を乗り継ぎ川崎駅へ着くと、テツさんはアタシの手を取りスタスタと歩いていく。
ほんの数分で目的地に着いた。
「俺、明後日も出張でここに来るんだよなー」なんてテツさんは苦笑いしなが言う。
まだ11時くらいだったけど、朝食を食べていなかったアタシ達は先に食事をすることにした。
いくつかあるテナントを見て、ここがいいと言ったテツさんの指をさした店はジンギスカンのお店だった。
テツさんは先日出張で北海道に行き、本場のを食べて美味しかったからアタシにも食べさせてあげたいと思ってたし、アタシはお店でジンギスカンを食べたことがなかったからそこにした。
お店に入ると、客は誰もいなく、テーブルも小さなみすぼらしいものだった。
アタシは若干、やっちゃったかなと思ったけど、杞憂に終わった。
メニュー表を見てテツさんがオーダーする。
「ジンギスカンを2人前と、ラムロースと、あとグラスワインを2つ。白で」
『えっ』アタシは思わず言ってしまった。
昼間からアルコール?なにやってんだこの人。
「だめだった?いいじゃん。電車じゃないとこういうことできないでしょ」ニッコリ笑うテツさん。
確かに、ホテルでお酒は飲んでも、こうしてお店で飲むのは滅多にない。
アタシは甘えて飲むことにした。
料理が出てくる前にワインが運ばれ、乾杯した。
料理はお店の人が面倒を見てくれ、その後はテツさんが手際よくやってくれた。
2人前にしては量が少ない?と思ったけど、味はよかった。
個人的にはもっと臭みがあってもいいかな?ってくらい臭みがなく、ロースもとても柔らかくて美味しかった。
テツさんが薦めるのでアタシはワインをおかわりし、テツさんはビールを飲んだ。
少しアルコールが入ったテツさんは陽気になったみたいで、うまいうまいとパクパク食べ、店員さんがきたときは「いやーおいしいね」なんて上機嫌だった。
そんなテツさんを見てアタシも上機嫌だった。
さらにテツさんはワインを飲み、野菜も追加した。
昼間から飲んで食べてテツさんの笑顔を見て、とても楽しい食事だった。

ちょっと酔いが回ったけど、アタシ達は店を歩いた。すると、なにやら人だかりが。カメラマンも何人かいる。
どうやら誰かが来るらしい。中心部のほうへ行くと、看板があった。
そこには「いきものがかりと一緒にYELLを歌おう」とあった。
別にこのアーティストが好きなわけではないけど、生で見れるなんて滅多にないからラッキー。
アタシ達は人ごみに飛び込んだ。
ステージが低かったからアタシは少し離れた、上の階で見ようと提案したのだけれど、テツさんは前に行けば見れると思ったのかなんだか知らないけど、ここでいいと言う。
テツさんがいいならいいけど、と思ってたけど、案の定、実際始まると客の後頭部しか見えなかった。
いきものがかりが登場すると会場はわっと沸き、観客は前に詰め寄った。
ライヴと違って殺伐とはならず、なごやかだった。
現場では歌詞が載ったフライヤーを渡され、一部の歌詞を男女に分かれて合唱しようという企画だった。
最初にCD音源で練習をし、本番は生で歌った。
おどろくべきは、ヴォーカルの歌がうまい。
CDと変わらない。伸びがあるいい声だった。
現場は撮影禁止だったけど、アタシは密かに携帯で隠し撮りをしていた。だけどやはり場所が悪くてまったく映ってはいなかった。
それでもかなり近い場所に立てたというのは思い出になったよ。

ステージが終わり、あとは特典がある人のみメンバーとハイタッチができるとかいうことになったので、アタシ達は現場を後にし、プレゼント選びを開始した。
テツさんは4℃に行きたいと言い出した。
テツさん、優しい。4℃なんて絶対テツさんの趣味じゃないのに、アタシのために行こうと言ってくれてる。
さすがアクセサリー売り場はカップルで賑わっていた。
テツさんはというとせっかくショップに入ったのに、いざとなるとあまり乗り気じゃないように見えて、じっくり商品を見るでもなくぷらりと歩くだけ。
アタシがマリッジリングを見ると、心なしか嫌そう。
他のペアリングを見ても、さすがに値がはる。
ほんと、結婚指輪でもないのにこんなに気合入れられないよ的な値段だった。
とりあえず4℃ではあきらめて、気を取り直してテツさん向けの店に行ったよ。
アタシはメンズのブランドは全然分からないから、テツさんに任せてお店を回った。
最近ブーツを全て捨ててしまったテツさんは、靴屋に行くと気に入ったブーツを見ていた。
嫌がるテツさんに無理やり試着をさせ、どう?と聞き大丈夫なようだったら即『買ってあげる!』とアタシは申し出るのだが、テツさんは拒否した。
「おれはいいんだよ。まいの見よ」つまらない。
アタシは自分のアパレルショップは見向きもせず、できるならテツさんへか二人のプレゼント選びに専念したかった。
残念なことにここではめぼしい物が見つからなかったので、東京に戻ることにした。

どこに行ったかは、正直覚えていない。
有楽町の丸井には行った。
ここは初めてテツさんと東京に行った時に一緒に行ったお店。
1階のアクセサリーコーナーを見て回った。
アガット、サマンサ、またもや4℃。あとは知らないショップも見て回ったけどどれもいまいち。
女性向けのものはたくせんあるけど、ペアとなるとなかなか難しい。
メンズライクなものでもよかったから、そういったデザインを見るとほとんどがシルバー。
さすがに二人ともこの年でシルバーのアクセサリーなんてつけられない。
ホワイトゴールドがプラチナにしたかった。
ここのフロアもいまいちだったから、またしてもテツさんのものを見に行くことにした。
テツさんはポールスミスのものをよく使っているから、そこで物色した。
出張用のカバン、新しく買ったスーツに合うネクタイ、靴下からマフラーまで、アタシはこれは?これはどう?って色々選んだのに、テツさんの答えはすべて「NO」。
気に入らないわけではないだろうけど、買ってあげると言うと遠慮する。
次はバーバリーのブラックレーベルに行った。
ここでもアタシはネクタイやよく似合いそうなセーターを見繕ったのにテツさんは「いいよ俺は」の一言。
アタシは悲しくなってきた。
小物が売っている店で財布やバッグなどを見たよ。
なぜかここもポールの小物が多かった。
財布は二人とも当分買い換えないから、なんとなく見てると可愛いポールのストラップ。
マルチストライプの犬に鎖がついた、テツさんでもつけられそうなものだった。
「お、これいいじゃん。これならお揃いでつけられるね?」
確かに無難でいいかもしれない。
ただ値段が1つ3,000円ちょっとだった。
せっかく来たのにこれだけでは寂しすぎる、と却下。
あれもだめ、これもいらない。こんなのばかりでアタシはモチベーションが下がり、しょんぼりしてしまった。

アタシはただ、テツさんに喜んでほしいだけなのに。
テツさんは優しさを装っているけど、実際は形に残るものをもらうと家で見つかるから迷惑なだけに違いない。

「大丈夫?疲れた?」
テツさんがアタシの様子が変わったのに気づいたのか、顔をのぞいてきた。
『疲れてないよ』にっこり笑って見せた。
テツさんはその様子を見て何を思ったのかしらないけど「銀座にいこっか」と言った。
銀座のブランドショップを歩こうと、以前テツさんが言っていたから、実行してくれるんだ。
アタシは正直、ここで見つからないのに、あんな所で何を選べって言うんだろうと脱力した。
銀座に着くと、さすがに陽が落ちてきて、人も多くなっていた。
テツさんがなぜか前からティファニーティファニー言ってたので、さっそく言って見ることに。
入るとやっぱりカップルが多くて、特にシルバーコーナーが賑わっていた。
アタシ達はシルバーなんてオモチャは身に着けないなんて言ってるくせに、そのオモチャですら高価で買う気になれない。
ホワイトゴールドやプラチナなんてもってのほか、ケタが違った。
次はブルガリ。ブルガリなんてもっと敷居が高かった。
ぐるっと周ってすぐに出た。
「次は?」淡々とテツさんは言う。
『カルチェは?』アタシが言うと「見たいの?」とテツさん。
カチンときた。
なぜならカルチェはテツさんの結婚指輪のブランドだから。
『行く!見る!』アタシは虚しくなるのを知りながら鼻息も荒く店内に入り、そしてやっぱりすぐに出た。
「これで分かったでしょ?満足した?」まるでお前には手の届かない店だと言われているようでとても嫌な気分だった。
テツさんの結婚指輪を探したけど、1階にはなかった。
デザイン遅れだざまーみろとアタシは意地悪く思ったが、2階がブライダルコーナーだった。
もしかしたらそこにあったかもしれない。
『ねぇ、テツさん。テツさんはどこのカルチェで結婚指輪買ったの?』
アタシは自分が嫌な人間に思えて仕方なかった。
「え?うーん・・・まぁ、普通の、店、だよ」歯切れの悪いテツさん。
どう見ても言いたくなさげだった。でもなんとなく分かる。
きっとここだろうなと思った。
『なんかないねぇ、あとドコ行く?』アタシは平静を装いながら聞いた。
テツさんは歩きながら店を見回したが「デビアスはいいよ」と言った。
は?なんでデビアスなんてわざと言うの?行かなくていいってどういうこと?
『なんで?』アタシは詰め寄った。
「だってほら」と彼が指を指し「余計あそこは入りづらいだろ?」と言った。
確かに店内はがらんとしていて、客がいる様子がない。
だけど知っている。
テツさんは毎年結婚記念日に奥さんに内緒でデビアスのダイヤを買っていることを。
「毎年女房に内緒で買ってて、スイートテンに加工してプレゼントするんだ」なんて言ってたっけ。今年は買ったのかな。ほんと愛妻家だったテツさん。
きっと愛情がこもったダイヤを見て欲しくないのだろう、だからそんなことを言うんだ。
『でもテツさんは、毎年あそこでダイヤを買ってるんだよね?』少なからず、アタシは悪意を込めて言った。
「そうだよ」テツさんはあっさり認めた。
なんだろう。アタシは途端にとても悲しくなった。

陽もいよいよ落ちて、イルミネーションがまぶしくなった。行き交う人々、とりわけカップルが多い。そしてその手には、様々なショップの袋を持っている。
女の子だけで買い物しているグループもいた。
誰もが、幸せそうに見えた。
別にダイヤが欲しいわけでもない。カルチェやブルガリなんて高級なアクセサリーが欲しいわけではない。

アタシはただ、テツさんと普通の恋人同士として、この場所を歩きたかった。

ここにいる二度と会わないであろう人たちは、アタシ達を見てどう思うのだろうか。
もちろん、普通のカップルとして見ているに違いない。
だが、アタシ達は不倫カップルなのだ。
どんなに仲良く歩いていても、アタシ達は偽りでしかない。
どんなに愛を囁かれても、どんなに身体で結ばれようとも、この人は家庭を持っていて、アタシはただの浮気相手。永遠の二番手。
27にもなってこんな茶番な恋愛をしている自分が情けなくひどく虚しかった。
去年のクリスマスは、来年こそは夫婦になってクリスマスを迎えるって思ってた。
テツさんだって、去年のクリスマスまでには二人で暮らそうなんて言ってたのに。
「そろそろ時間がなくなってきたな」アタシの気持ちなど露知らずのテツさんは、腕のロレックスを見ながらつぶやいた。
『いいよ、ここは場違いだから、帰ろう』アタシは力なく言った。
テツさんは駅に向かって歩き出す。アタシはその後をついていく。
テツさんは前を向いたまま、後ろ手にアタシに手を繋ごうと合図してきた。
アタシは気づかないフリをして、自分のコートのポケットに手を入れた・・・。
アタシがテツさんの手を取らなかったのでテツさんは後ろを振り返ったけど、ポケットに入っているアタシの手を見ると、黙ってテツさんもポケットに手を突っ込んで歩き続けた。
腕を伸ばせば手が届くのに触れ合わない、とても虚しい、二人の距離感だった。
「まい、どうしたの?元気ないの?」テツさんが気遣ってくれる。
『大丈夫だよ』アタシは笑顔で応え、テツさんの腕を取った。
テツさんはあまり納得していないようで「プレゼントが買えなかったから落ち込んでるの?」なんて言ってきた。
違う。そんなんじゃない。
『アタシはテツさんにプレゼントを買ってあげたかったのに、テツさんはいらないいらない言うんだもん!つまんない!』わざとふくれてそんなことを嘯く。こんなことを言ってるけど、本当に言いたいのはそこじゃない。

なんで奥さんと別れないの!
別れないならなんでアタシと一緒にいるの!
一体どっちが大事なのよ!
アタシをなんだと思ってるのよ!

こんなこと、言えない。

「だからいいんだって。俺だってまいにプレゼントあげたいよ。でも何だったらまいが気に入ってくれるか分からなくて」違う。ものなんかじゃないの。
『アタシは・・・もうプレゼントはもらったから・・・』
アタシはテツさんの手を取った。手袋越しでも、テツさんの温もりが伝わってくる。
「なにをもらったって?」テツさんは聞いてくる。
『プレゼントは・・・時間だよ』
手を繋ぎながら歩く。
『テツさんといま一緒にいれること。テツさんと一緒にいれる時間、それがアタシへの最高のプレゼントだよ。』
奥さん、ごめんなさい。テツさんはあなたのものなのに、アタシなんかと一緒にいて。テツさんとの時間をとってしまってごめんなさい。

自分は一体、何をしているのか、そして何がしたいのか分からなくなってくる。
先がないのは分かっているのに、心の片隅で信じている自分。
そして容赦なく迫ってくる若さの限界。
既婚者のために貴重な二十代を捨てようとしているのか、アタシは。

こんなことばかり考えて、すっかりプレゼント選びの気分ではなくなってしまったアタシ。表情もまったく冴えない。
テツさんは何を思ったのか、「東京で最後にもう一度だけ見よう」と言って、足早にアタシを駅まで引っ張った。

東京駅に着くとテツさんは、大丸へと向かった。
大丸は付き合って1ヶ月もしないうちにテツさんがアガットのリングを2日続けてプレゼントしてくれた店だ。
1年4ヶ月ぶりに訪れる。
「シルバーだとちゃっちいし、ちゃんとした店だと逆に高すぎるから、アガットくらいがクオリティ的にちょうどいいと思うんだよな」テツさんはひとりで納得している。
フロアに着くと、他にもアクセサリーがたくさん売っていた。
テツさんはアタシにピアスやネックレス、またはリングを薦めてくるけど、アタシは首を縦には振らなかった。
『ピアスもネックレスも持ってるからいらない。リングはテツさんとお揃いのじゃなければいらない』頑なに拒んだ。
テツさんはそれでも何かアタシにせめてプラチナものは贈りたいと言い、今つけているネックレスのチェーンをプラチナチェーンに換えてあげると言った。
店員に頼んでプラチナチェーンを出してもらった。
価格は4万円だった。
正直、今でも十分事足りているこのネックレスに、なんのために4万もかけてチェーンだけ交換する必要があるのか。
4万だったら普通に立派な他のアクセサリーが買える。
だから拒否した。
フロアをぐるぐると回ったが、めぼしいものがやっぱり見つからない。
あきらめてたアタシは、もうテツさんと並んで歩くのをやめた。
少しでもショーケースを眺めれば、ここぞとばかり店員が話鬱陶しかった。
ペアリングを中心に見て、一つのリングが目に入った。
テツさんも一緒に見る。
やっぱり店員が話しかけてきたので、テツさんが興味津々に聞いている。
どうやらこのリングはレディスはホワイトゴールドなのに対し、メンズはブラックゴールドでできているらしい。
アタシはブラックゴールドなんて初めて聞いたし、テツさんには似合いそうだと思った。
テツさんに半ば無理やりリングをつけさせてみる。
サイズは大丈夫そうだったが、テツさんには細身すぎる気がした。
テツさんのつけてたマリッジはもっと太かったから。
アタシも指にはめてみたが、残念ながらゆるかった。
分かってはいたことだけど、欲しいものがすぐに買えないのはもどかしい。
店員に念のためアタシの指のサイズを測ってもらった。
サイズは6号だった。
7号のリングがほとんどの店で最小、それ以下になるとピンキーリング扱いになってしまい、5号のピンキーはさすがに入らない。
ちなみにアタシのピンキーのサイズは1号。関係ないけどね。
店員はサイズ直しができると、どの店でも口を揃えて言われたことを言った。
ただし6号だとオーダーメイドになってしまうという。
でもこの店に惹かれたのは、内側に石が入っていることと、刻印ができるということだった。
石には興味なかったけど、無料で刻印が入れられるのはポイントが高い。
なんちゃって結婚指輪みたいじゃん。
アタシはなんだかんだ言って、テツさんとカップルだと世間に言いたい。
テツさんにも愛されてるということを証明したいのだ。
だから傍から見れば夫婦に見えることを、アタシもしたいんだ。
見栄でもなんでもいい、ただ証明したい。
テツさんも長いことその店にいたけど、なかなか決断しない所を見ると、本心ではいらないと思ってるんだ・・・そう思えてきた。
そうだよね、だって結婚してるんだもん。
結婚指輪を持っているのに、こんな安物の指輪なんてテツさんの指には合わないよね。
さっきまでチェーンなんて見てたし、所詮アタシだけの願望だよね。
またしてもブルーになってしまったアタシは、煮え切らないテツさんに愛想を尽かして、帰ろうと言ってしまった。
テツさんはしぶしぶ店を後にした。

帰りの電車は、わざわざ東京まで行ったのに何も収穫がなかったから少し雰囲気が重かった。
『アタシは楽しかったし、幸せだったよ』となんのフォローにもなってない言葉を口にした。
テツさんはうつむき、「俺、明後日何かプレゼント買ってくるよ」とため息をついた。
少し電車に揺られていると、テツさんはさっきのリングの話をしてきた。
「まいはどう思った?あのリング」
『んー?よかったと思うよ。でもテツさんが嫌そうだったからあきらめた』
「うーん、そうじゃないんだけどな。俺的には、あのリングはよかったと思うよ。ただ、まいのサイズが合わなかったから悩んじゃって。それに俺、あの形はべつに嫌いじゃないよ。いいと思ったもん。値段も手ごろだったし」
なに。テツさんはアタシのサイズを気にしていたのか。
それは知らなかった。
そして、テツさんもアタシとペアリングをしたいという気持ちを知って嬉しくなった。
『じゃぁ、あのリングにしようよ。あたしはテツくんとお揃いの指輪が欲しい!』
テツさんはにっこり笑って「わかった。じゃぁ出張に行ったら注文してくるよ」と言った。
ポールの犬のストラップも、あれはあれで可愛いから買ってくると。
そしてまた川崎に行ってアバターを見ようと約束した。
プレゼントはないけれど、明日のイブが楽しみになった。

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