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音曲日誌「一日一曲」#253 アレサ・フランクリン「Won't Be Long」(The Great Aretha Franklin-The First 12 Sides/Columbia)

2023-12-10 05:37:00 | Weblog
2013年2月3日(日)

#253 アレサ・フランクリン「Won't Be Long」(The Great Aretha Franklin-The First 12 Sides/Columbia)





アレサ・フランクリンの初レコーディング集より。72年リリース。

67年以降、45年以上にわたってトップ・シンガーの座をキープしているアリサだが、彼女にも売れない時代はあった。

アトランティックと契約する67年に先立つこと7年。60年の8月に4曲を初めてレコーディングし、翌年にシングルとしてリリースしている。

ときにアレサ18才。なんとまだティーンエージャーだったのである。

バックをつとめたのは、名ジャズ・ピアニスト、レイ・ブライアントが率いるコンボ。

きょうの表題曲は、同年11月に録音されたうちの一曲。バックの編成としては、ブライアントのピアノ・トリオにもう一台、アレサ自身がピアノで加わっている。いわゆる連弾だ。

聴いていただけるとすぐ分かるだろうが、彼女の特徴あるエモーショナルなボーカル・スタイルが、60年時点ですでに確立されているのが分かる。まさに栴檀は双葉より芳し。

しかし、こうやって録音され、おもにジュークボックスの市場に向けてシングルリリースされた12曲は、ほとんど話題にも上らず、ヒットといえるようなヒットにならなかった。

それはなぜだろうと考えてみたが、まず大きいのが、アレサと契約したコロムビアが、彼女を「ソウル・シンガー」としてでなく「ポピュラー・シンガー」として売ろうと考えており、ジャズ・シンガーのような大人っぽいイメージで演出しようとしていたことだ。

たとえていうなら、ロング・ドレスを着て夜の酒場でしっとりと歌う感じ。

ティーンエージャーである彼女の若さよりも、卓越した歌のうまさに目をつけ、大人の女を演じさせようとしたのである。

ゆえに、ジャズ・ミュージシャンをバックにつけられたのであり、そのサウンドはソウルというよりは、明らかにジャズだった。

「Won't Be Long」にしても、アレサのパワフルな歌とバックのジャズィな音との「ちぐはぐ感」は否めない。

他に録音した曲には「Over The Rainbow」「By Myself」などというジャズ系のスタンダード曲もあるが、やはりアレサの歌声とはミスマッチ感が漂う。無難に歌いこなしてはいるのだが「コレジャナイ」とどうしても思わせてしまうのである。

大レコード会社ゆえに、既存のポピュラー・ミュージックのフォーマットでどうしても作ってしまうコロムビア。新時代の音楽である、ソウル・ミュージックへの取組みが、明らかに遅れていたということである。インディーズのソウル専門レーベルと契約しなかった、ということが60年代前半のアレサの、不遇の原因といえるだろう。

その後しばらくして、アレサは新興のレーベル、アトランティックに引き抜かれる。67年のことである。

仕掛人の名は、ユダヤ系白人プロデューサー、ジェリー・ウェクスラー。

彼の功績については音楽評論家、吉岡正晴さんのサイト「ソウル・サーチン」にて詳しく述べられているので、詳しくはそちらに譲るが、その彼の華々しい業績の中でもひときわ輝いているのがこの、アレサ・フランクリンを移籍させ、トップ・ソウル・シンガーに育て上げたことに違いない。

才能あるものを見出し、超一流の人材に育てる名コーチ役のことを、中国の故事になぞらえて「伯楽」とよぶが、ウェクスラーはソウル界随一の 「伯楽」であった。

シンガー/ソングライターとは違って、アレサのようなほぼ専業といえるタイプのシンガーは、ヒットするもしないも、与えられる楽曲次第のところがある。優れたプロデューサーなしでは、世に出て人口に膾炙されることはきわめて難しい。

ウェクスラーとの出会いがもしなかったとしたら、アレサの人生は、まったく違ったものになっていたはずだ。

名馬たりうるかどうかは、伯楽次第。われわれはアレサという稀有のシンガーが登場してきたことを喜ぶとともに、彼女を真のレディ・ソウルに育て上げたウェクスラーの仕事ぶりに、感謝せねばなるまい。

若き日のアレサ・フランクリンの歌声。登場時にして、すでに一級品の風格があります。必聴。


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