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音曲日誌「一日一曲」#365 ザ・ローリング・ストーンズ「Ride ‘Em On Down」(Polydor)

2024-04-05 07:53:00 | Weblog
2024年4月5日(金)

#365 ザ・ローリング・ストーンズ「Ride ‘Em On Down」(Polydor)





ザ・ローリング・ストーンズ、2016年12月リリースのアルバム「Blue & Lonesome」からの一曲。エディ・テイラーの作品。ドン・ウォズ、ザ・グリマー・ツインズ(ジャガー&リチャーズ)によるプロデュース。

英語のロック・バンド、ローリング・ストーンズ(以下ストーンズ)は1962年4月結成、62年の歴史を誇る世界最強のバンドである…などと説明するのもアホらしくなるくらい、ロックファンなら知っていて当然の存在である。

いまだに彼らがアルバム、シングルをリリースすれば大ヒットし、コンサートを開けば、ドーム級の会場も簡単にソールドアウトする。

だが、ストーンズのメンバーたちが少年期に強く影響を受けて育った音楽について知るものは、5〜60年前に比べると、かなり少数派になってしまったように思う。彼らの音楽が、どんなルーツミュージックを持つかは、初期からの高齢ファンくらい(例えば筆者)しか把握していないだろう。

そこで原点回帰、初心に帰ろうということだろうな、結成54年にして全曲他の黒人アーティスト、しかもその極めて古いナンバーのみをカバーしたアルバムを制作して、若いリスナーにも「これがストーンズの出発点なのか」と知らしめたのが「Blue & Lonesome」である。

当初はカバー・アルバムを作るという明確な目的があったのではなかったが、新曲のレコーディングに飽きて、遊び、セッションとしてブルースを演っているうちに、興が乗ってアルバム単位のレコーディングになったそうだ。いかにもノリで生きているストーンズらしいエピソードではある。

筆者は本当なら、アルバム全部、一曲ずつ詳しく取り上げていきたいのだが、キリがないので、筆者の趣味で一曲だけ選ばせていただく。筆者もそのナンバーを何曲もブルース・セッションでのレパートリーにしているブルースマン、エディ・テイラーの「Ride ‘Em On Down」である。

オリジナルは1955年、ヴィージェイレーベルからリリースされたシングル曲。残念ながらヒットには至らなかったが、テイラーの主要レパートリーとして、後にもしばしば再録音やライブ・レコーディングされるようになった。バックにはテイラーの盟友、ジミー・リードがハープで参加している。

この曲は、テイラーの純粋なオリジナル曲かというとそうではなく、さらに元ネタがある。1906年生まれのブルースマン、ブッカ・ホワイトの「Shake ‘Em On Down」が御本家であり、これは37年にヴォカリオンレーベルよりリリースされヒットした。翌年、ビッグ・ビル・ブルーンジーがカバーし、オリジナルよりさらに有名となる。

以降、フレッド・マクダウェル、ドクター・ロスらさまざまなブルースマンにカバーされ、タイトルも「Break ‘Em〜」「Truck ‘Em〜」などいろいろと変化したが、テイラーは「Ride ‘Em On Down」という題名を使い、テンポのいいシャッフルとして彼流に消化したのである。

ストーンズのカバーは、テイラーの55年版バージョンを主な下敷きとしてレコーディングされた。パーソネルはストーンズのミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッド、チャーリー・ワッツ、そしてサポートベースのダリル・ジョーンズ。

テンポ、尺ともにほぼ同じ。たたし、中間部のソロはテイラー版のようなハープでなく、ギター(ウッドか?)であり、ジャガーのハープはラストコーラスにのみ入って来る。

全体的に、テイラー版よりストーンズ版の方が、ガチャガチャ、ドシャドシャとうるさい感じだ。そして、2015年という新世紀にレコーディングされたとは思えない、ローファイな仕上がりがなんとも印象的。

技術的にいくらでもクリアな音に出来るはずなのに、あえて60年前にレコーディングしたかのようなラフな音に録っている、そんなところだろう。

ストーンズのいつものハイファイな音を当たり前のものと思ってるいる若いリスナーにしてみれば、えらく面食らったに違いない。

いわゆる一般ロック・ファンよりも、長年ストーンズのファンだった層を主に狙ったといえるだろうな、このアルバムは。

セールス的には全英で1位、全米で4位と、中身のシブさのわりには、なかなかの成績となった。そのあたりは、さすがトップ・バンド、ストーンズの面目躍如である。

オリジナルのエディ・テイラー版のシブい魅力を上まわることはないものの、ストーンズの生きの良さ、ノリも実に捨てがたい。

一曲一曲をじっくりと練って作るという、いつものレコーディング・スタイルをきっぱり捨てて、ほぼ一発録りで決めてみた潔さが、なんともすがすがしいのだ。

ラフさこそ、ストーンズの魅力。決して「完成」しない所に、このバンドの原動力があると見た。




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