(地図)国境線で分断された「新通り」
オランダ王国リンブルク(リンブルフ)県の南東の町ケルクラーデ(Kerkrade)に、隣国ドイツと国境線で分断された街路があります。
ケルクラーデはマーストリヒトから東へ約25キロ、ドイツ・アーヘン(エクス・ラ・シャペル)から北へ約20キロのところにある人口約5万人の地方都市で、かつては欧州最古の炭鉱街の一つとして発展してきましたが、この街の東側はちょうどドイツ・Herzogenrathとの国境に接しており、街路上を国境線が走っている区間が1キロほどあります。
(写真)ドイツ語(上)とオランダ語(下)で書かれた街路名
この通りは「新通り」という名前で、見れば街路表示は独語と蘭語の2ヶ国語表示。道路の中央を境に一方がオランダ領、他方がドイツ領となっており、道路標識はそれぞれ設置されている側の国のものが使用されています。
(写真)街路の橋にある研究施設(地図上のA地点)。国境線はこの建物の中を斜めに突っ切っている。
(写真)建物の前のラウンドアバウト(円形交差点)の写真。円形交差点自体は、オランダ式の道路標識が設置されているが、手前側は実はドイツ領土。
かつて「新通り」は往復4車線ぶんの道路があり、うち片側2車線をドイツが、片側2車線をオランダがそれぞれ対面通行の道路として使用。国境となる道路中央には高さ30センチの中央分離帯が設けられ、車両についてはいくつかの通過点からしか国境を越えることができませんでした(歩行者は自由に道路(つまり国境)を渡っていたそうです)。
(写真)上の写真と同じ地点から反対側(南側)を見る
その後、両国が国境検問の撤廃を定めるシェンゲン協定に参加したこともあり、1991年、道路の中央分離帯は撤去され、車道は往復4車線から2車線に縮小。その分、歩道と駐車帯が整備され、「新通り」は随分とゆったりした街路に生まれ変わりました。
(写真)国境線があるとの標示が全く無い「新通り」(地図上のB地点)。
(写真)B地点から少し来たにいったところ。道路中央に国境線が走っているはずだが、現場では何も表示されていない。
街路表示が2ヶ国語になっていること以外、この通りが国境線上を走っていることを示すような標識や標示は一切なく、そうと知らずにここを歩いても国境線上にあることは全く判りません。通常、こうした道路上の国境線には、アスファルトに埋め込んだ国境標石が実際の国境線を示していることが多いですが、ここではそういった標石すら全くありません。EU統合が進み、国境線を巡る争いの時代から、今や国境線を隠す時代になっているのかもしれません。