以前リヨンに遊びに行った際、深く印象に残った建物の一つが、フルヴィエールの丘の麓の旧市街(Vieux Lyon)でも一際目立つゴシック様式のサン・ジャン大司教座教会(Cathedrale St.Jean)です。
サン・ジャン教会は、1180年から1480年にかけて建立された教会で、「ゴシック様式の」と書きましたが、より正確にはロマネスク様式とゴシック様式が入り混じっています。ここにはルイ9世が葬られている他、14世紀に設置された天文時計がよく知られています。もっとも、建築費用不足のためか、当初計画した装飾品が全て揃わなかったようで、正面の彫刻を安置する窪みには彫刻は一体も無く(写真)、窓にしてもステンドグラスが無いため普通のすりガラスが嵌め込まれているところもあります(14世紀は英仏百年戦争や黒死病の流行があったことと関係するのかもしれません)。
Gothique(ゴチックまたはゴシック)とは文字通りであればゲルマン民族のひとつであるゴート族を表わす形容詞ですが、建築様式でゴシック様式というと、12世紀からルネッサンスまでのおよそ400年間ヨーロッパ(正確にはフランスを中心とする北ヨーロッパ)で流行したカテドラルのスタイルを指します(「ゴシック様式」と呼ばれるようになったのはルネッサンス期で、それ以前の中世的な様式を「野蛮なもの」と考え、「野蛮なゴート人の」ということで「ゴシック」と名づけられました)。ゲルマン民族の移動は紀元前後1世紀のことですから、ゴート族と直接関係があるとは思えません・・・。ゴシック様式の最初の例はパリ郊外のサン・ドニ大修道院教会(Basilique de Saint-Denis)だと言われています。サン・ドニ教会は、観光的に地味なカテドラルですが、フランスの王族の心臓を保管していて重要度はかなり高い場所です。
ゴシック様式最大の特徴は、天井の支え方です。サン・ジャン教会では、丸天井(voute)の重さを6本のアーチ状の突起物(arc)で6方向に分散しているのがわかります。6本のアーチの交わる部分にはcle de voute(keystone)と呼ばれる「まとめ役」の役割を果たす小物体もしっかり見えます。この力の分散のおかげで、かなりの高さと重さの天井を薄い壁で支えることができるようになりました。しかも壁には大きな窓をつけることもできるようになって教会内部は格段に明るくなり、さらに正面の「薔薇窓」(円形のステンドグラス窓)をはじめとするステンドグラスが組み込まれることによって、教会はますます神々しさを増したのではないかと想像します。それまでの分厚い壁と小さな窓に象徴されるロマネスク様式とは非常に対照的です。他方、後陣(abside、入り口と反対側の最も奥まった部分)にはロマネスク様式も見られ、この教会が両様式の移行期に建立されたことがわかります。
この他、ゴシック建築の代表といえばパリのノートルダム大聖堂(Notre-Dame de Paris)、ランス大聖堂(Cathedrale de Reims)、サンリス大聖堂(Cathedrale de Senlis)、シャルトル(Chartres)大聖堂、ケルン大聖堂などなど枚挙に暇がないとはまさにこのことです。ステンドグラスの集大成が見たかったらパリのSainte Chapelleがお勧めです。