象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

”思いつき”では国民は救えない〜トマホーク導入は戦争抑止力になり得るのか?

2024年05月26日 05時26分52秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 防衛省はアメリカの巡航ミサイル”トマホーク”について、最大で400発取得する契約を正式に結んだ。トマホークは、相手のミサイル発射基地などを攻撃する”反撃能力”の手段としてアメリカから購入するもので、当初の予定を1年前倒しし、2025年度から(現行の)1世代前のブロック4を、26年度から最新型ブロック5を合わせ、最大400発を取得。イージス艦搭載の関連費用を含め、費用は約2540億円だという(日テレNEWS)。

 今年1月18日と少し古い記事だが、これに関しては当然ながら、賛否両論の意見がある。
 賛成派では、数が限られる超高速ミサイルと(トマホークの様な)低速ミサイルを併用すれば”相当の反撃能力”となり、事実ロシアがウクライナ戦争でそれを実証している。それに”ブロック4はブロック5にアップグレード出来る”との声もある。つまり、自国の防衛手段として、トマホークを含めたミサイルシステムを構築するのは、今そこにある危機から日本を救う手段の1つであるという事だろう。
 一方、反対意見では、”今更、焼け石に水”というもので、それもウクライナ戦争でのウクライナの惨劇を見れば、理解に難くはない。また、トマホークを大量購入する事で”専守防衛から敵地攻撃へ舵を取る事になる”との批判がある。更に、実戦になれば400発なんてあっと言う間に打ち尽くし、”後はアメリカ頼み”との皮肉もある。

 私も後者の方だが、今回のトマホーク購入で中国を抑える事が可能なのか?
 因みに、”反撃能力”に活用するミサイルとして、国産の”12式地対艦誘導弾”を改良し、26年度から配備する予定だったが、十分な数量を保有するまでには時間が足りないとして、トマホークを取得する事に至ったという。
 これに対し、木原防衛大臣は”ブロックIVもVも誘導方式や射程などで同等の機能を有し、十分な機能を有してると判断した。日本が進める防衛能力の強化に問題があるとは思えず、前倒しする結論に至った”と述べた。

 しかし、こういう大切な事を国民の理解を得ずに一方的に決めていいものだろうか?
 ”防衛能力の強化”は認めるとしても、日本には憲法9条という平和憲法が存在し、簡単に解釈は変えられない筈だ。


防衛戦略としてのミサイルシステム

 日本政府が昨年12月16日の閣議で新たに決めた反撃能力とは、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のミサイルを使った”スタンドオフ防衛能力”を活用する国家防衛戦略で、2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含め”スタンドオフ・ミサイルの運用能力を強化する”とした。がトマホークはその”繋ぎ”とみられる。
 トマホークは1980年代から配備が始まり、湾岸戦争やイラク戦争などの戦闘で使われてきた”現存する最も信頼性の高い巡航ミサイル”(自衛隊幹部)だが、弾頭重量は1千ポンド(約450kg)で、2千ポンド級もある地上攻撃用爆弾と比べれば見劣りがする。事実”鉄筋コンクリの建物に穴は開けられるが、吹き飛ばす程の力はない”(同)。トランプ政権は2017年4月にシリア軍の基地にトマホーク59発を発射したが、大きな打撃を与えるには至らなかった。速度も900キロ足らずで、携帯式防空ミサイル”スティンガー”で撃墜される事もあった。
 以下、「トマホーク”役に立つか立たないか論争”に見える日本の課題」より大まかに纏めます。

 事前に目標の座標と画像を入力し、GPSと画像照合システムで飛行する為、精密攻撃には適するが、米軍が現在配備するトマホークは移動する標的は狙えない。米軍は既に移動する目標を攻撃できる改良型トマホークの実験を終えてるが、配備は2~3年ほど先になるとされる。つまり、こうした事が”トマホークは役に立たない”論者の根拠になっている。
 この”役に立たない論”は2種類あるとされ、”持ってはいけない”論者と、”論理的に考えた結果”論者に分類できる。前者は、そもそも反撃能力は憲法・専守防衛違反だから”トマホークを持つなどとんでもない”という人々だ。
 これに対し、後者は日本政府が反撃能力を構築するのに装備の導入を先に決めるのは”順番が逆ではないか”と主張。事実、政府が反撃能力の導入を正式に決めたのは12/16で、これから反撃能力を使う為の情報収集の仕組み・指揮体系・発射プラットフォーム・配備場所などについて詳細に詰める必要がある。
 関係者によれば、トマホーク導入は、こうした議論の積み重ねの結果で決まったのではなく、政府高官らの”トマホークがあるじゃないか”といった”半ば思いつきによって決まった”(同)というのだ。

 確かに、後者の主張は尤もである。だが、それでも導入を決めた背景を理解する必要があるのではないか。
 日本の安全保障環境はかつてないほど悪化している。一日も早く準備する必要に迫られてる中、政府の”手に入るものは先に手に入れる”という発想は間違いではない。しかし、トマホークもスーパーで野菜を買う様には行かない。発注してから生産・引き渡し・操作員の養成などに時間が掛かる。その間に、”反撃能力の全体システムを構築しよう”との事であろう。
 それでも”今更トマホークを買っても・・・”という疑問は残る。
 自衛隊幹部は”確かに、中国やロシアが保有するS300やS400といった近代的な防空システムがあれば、トマホークの相当数は撃墜される可能性がある。でも、相手に届く兵器があるのとないのでは、全く効果が違う”と語る。
 つまり、トマホークがあれば、相手がそれを防衛してる間、作戦を遂行する時間を稼ぐ事が出来る。論者らは、トマホークの能力ばかりに注目しがちだが、”作戦全体を考えた場合、トマホークは有力な手段になり得る”と。

 また、今回の反撃能力に否定的な主張の論拠には2つの種類がある様に思える。1つは”護憲・平和論”だ。理念は貴いものがあるし、大事にすべきだが、こうした人々もロシアによるウクライナ侵攻や中国軍が昨年夏に台湾周辺で行った軍事演習に賛成してる訳ではない。
 が少なくとも、国家安保戦略が反撃能力の根拠として掲げる”日本周辺の安保環境の悪化”には、ある程度の理解があるとみられる。つまり、”令和の状況”を認めながらも”主張は昭和のまま”という状態に陥ってる様にも思えなくもない。
 もう1つは”増税反対論”。この反発の背景には、岸田首相がNATO加盟国に出てきた”国防費のGDP比2%”の流れに乗り、”金額先行”の流れを作ったとの事情がある。ただ、自民党ベテラン議員の言葉を借りれば、”自分の財布を開けてでも、平和と安全を守って下さいという気分になれない”との心理状態もあるだろう。
 つまり、政府が議論の進め方を間違えた為に起きた反発が、”自分の財布を開けてでも、平和を守ってもらう必要がある状況”を直視できない状況を生み出してるのだ。

 来年の通常国会での予算審議で、政府が走りながら考えている”トマホークをどの様な状況で使うつもりなのか?どんなシステムを構築し、どんな目標を狙うのか?”といった具体的な議論が絶対に必要である。ここで論理が破綻したら、”導入は無駄だった”となる。逆に政府が議論から逃げたら、トマホークを持っても国民の支持は得られない。
 日本は今、それだけ切迫した状況に直面している。
 以上、ForbesJapan(’23/1/2)からでした。


アメリカと交われば必ず戦争になる?

 岸田首相が先月11日に米議会で演説した言葉に、”日本は米国の仲間である事をを誇りに思い・・・米国は独りではないし、日本は米国と共にある。日本は国家安全保障戦略を改定し、日米同盟を一層強固なものにする為に、27年度までに防衛予算をGDP2%の増額を計画し、反撃能力を保有する事を発表し・・・日本はこれからもウクライナと共に・・・”とある。
 全くこれが、トマホーク400発の導入の理由だとしたら、税金の無駄使いもいいとこで、その上、勘違いも甚だしい。事実、岸田の主張とは異なり、アメリカの心は今やウクライナと共にはない。
 ハッキリ言うが、アメリカに媚を売る時代はとっくに終わっている。事実、アメリカの機嫌をとり、ロシアや中国や韓国にいい様に振り回されてるのは、世界広しと言えど日本だけである。

 これだけ世界がアジアが切迫した状況で、米国という危うすぎる宇宙船に乗り、これで日本は安泰だと思っている。
 既に、ASEAN(東南アジア諸国連合)やインドは(近い将来、沈没するであろう)アメリカの宇宙船には乗ってはいないし、乗る気も更々ない。言い換えれば、日本以外の国々は、アメリカやロシアといった旧大国に見切りをつけ、中国の動向を気に掛け、サウスグローバルと呼ばれる新興国に舵を切りつつある。彼らは、国家と国民を守る為に必死で知恵を絞り、生き残りを図ろうとしてるのだ。
 もっと言えば、(戦争仕掛け人である)アメリカと組んで戦争に巻き込まれる事を最も恐れている。今やアメリカは”世界の警察”どころか、”戦争を誘導する地雷源”に過ぎない。
 事実、ロシア=ウクライナ戦争もアメリカが余計をしたが為に起きた惨劇と犠牲と言えなくもない。

 それに対し、岸田首相は”地政学的な条件を越えたパートナーシップ”とか”自由で開かれたインド太平洋の実現”とか、アメリカの大きな船に揺られ、いい気になったのか?”アメリカと共に立ち上がろう”などと吠えまくる。 
 全く、この人は何も判っちゃいない。もっと今の日本の置かれた逼迫した状況を世界に向けて発信すべきなのに、NYにいた子供の頃を無駄に懐かしむ。
 それに”平和には(理解以上の)覚悟が必要だ”と語るが、平和の理解と覚悟に一番欠けるのが岸田首相本人である。今や、トマホークを導入し、アメリカと民主主義と正義を盾にして参戦気分になってるようだが、これじゃ、戦時の先鋭化した旧日本軍と同じである。
 つまり、この時点で岸田首相は終わっている。言い換えれば、首相の言う事を鵜呑みにすれば、400発のトマホークの大半は中国の迎撃システムに阻まれ、本気になった中国に日本は一瞬にして丸焦げにされるだろう。


最後に

 ”朱に交われば赤くなる”ではないが、今や”アメリカと交われば戦になる”が定説の時代である。
 確かに、日本がアメリカと手を組み、中国に対抗したとしても、台湾と日本が致命的な犠牲と破滅を負うだけで、停戦がいいとこだろう。つまり、EUを含め、殆どのASEAN諸国が思ってる様に、どう転んでも新大国の中国には勝てない。だったら、外交で強かに勝負するしかない。が、今の日本政府には経験や知恵はあっても、窮地を切り開く発想やアイデアがない。
 少なくともトマホークは(自民党の自己満足は満たすかもだが)使い物にはならないだろう。仮になったとしても、無駄な戦争と犠牲と破壊を生むだけに思える。

 つまり、歴史は韻を踏むし、時代は無情にも先へ先へと進む。人類も国家も変わるべきなのに、未だに”戦争と平和”という1次元の直線上に留まったままだ。人類の思考も、位相を変えながら韻を踏むべく変化すべきなのに、硬直したまま何も出来ないでいる。
 ロシア=ウクライナ戦争の惨劇と犠牲と破壊が、かつての大国であった米露の終わりを告げ、更に中国の勢いを止め、新興国の躍動を促すとしたら・・・つまり、こういう事でしか人類の思考は変われないのだろうか。



5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
本当に強い国とは? (平成エンタメ研究所)
2024-05-26 10:27:53
トマホークは低速すぎて役に立たないって話を聞きますよね。
ソ連の原潜に制海権をとられたら終わりだとかいう話も先日聞きました。
あるいは、サイバー攻撃、ドローン攻撃。

これらすべてに対応していったらいくら防衛費があっても足りません。
だから専守防衛に徹して、そのための効率的な戦略を練るべきなのですが、この国の偉い人たちにはアメリカの言われるがままの様子。
武器の購入もアメリカの言い値で、割高で買わされています(まあ、ここに利権が発生するわけですが)。

ていうか、いくらご立派な武器を揃えても、食料・エネルギーの自給率の低さ、50基以上ある原発で、戦争したら負けなんですけどね。
今のロシアを見ればわかるとおり、本当に「強い国」とは「食料・エネルギー自給率が高い国」です。

日本の偉い人たちは本気で「国防」を考えているんですかね? 「利権」ではないのか?
返信する
訂正と追記 (平成エンタメ研究所)
2024-05-26 10:35:28
すみません。訂正です。

ソ連の原潜→ロシアの原潜

あと追加すれば、防衛費倍増で、日本の防衛費は世界3位になったわけですが、どこか心許ない感じがするのは、予算の使われ方に歪みがあるからだと思います。
返信する
Unknown (象が転んだ)
2024-05-26 16:29:53
何時もコメントありがとうです。

エンタメさんの記事で気付いたんですが、トマホークを買う前にやる事は山積みなんですよね。
2540億円の内、結構なマージンが横流しされるんでしょうか。
防衛費が世界3位と言っても、実感は殆どなく、国民の生活は益々苦しくなる。

言われる通り
大枚を叩いて、いくら優秀な武器を揃えても、狭い島国に50個の原発がある限り、勝ち目は全くない。
所詮は自民党もアメリカの奴隷なので、税金を防衛費という名目でアメリカに貢ぎ続け、一部の政治家だけの懐が膨らみ、国民レベルではアジアNo.1の貧乏国になるのかもです。
返信する
トマ損 (hitman)
2024-05-26 19:58:05
昔ジャイアンツに
トマソンというダメ外人がいましたねぇ
トマホークもダメホークにならねばいいんですが 
返信する
hitmanさん (象が転んだ)
2024-05-27 01:59:10
巨人のダメ外人で言えば
リンドが最強ですよ。
射程は短いし、威力も乏しかった。
本音を言えば、アメリカみたいな戦争屋とは手を組みたくはないんですが、アメリカと中国の出方次第では最悪の状況も覚悟する必要がもです。
返信する

コメントを投稿